緩和マネー、年2兆ドル収縮へ 世界の中銀が資産圧縮

緩和マネー、年2兆ドル収縮へ 世界の中銀が資産圧縮
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『世界の主要中銀が新型コロナウイルス禍への対応で供給した10兆ドル(約1300兆円)の吸収を急ぐ。米連邦準備理事会(FRB)は6月1日から量的引き締め(QT)を始め、開始済みの英国やカナダなどを含む世界の中銀の資産圧縮は今後1年で2兆ドルに及ぶ見込みだ。インフレを封じ込めるためだが、リスク資産からのマネー流出も目立ち始めた。

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FRBなど各国中銀は2020年に大規模な量的緩和に踏み切った。大量の債券を購入して市場に資金を供給し、長期金利を抑え込んで経済の底割れを防いだ。FRBと欧州中央銀行(ECB)、日銀、英イングランド銀行の主要4中央銀行の総資産は20年2月の15兆ドルから22年4月の25兆ドルまで10兆ドル増えた。

世界銀行によると世界の通貨供給量は2000年以降は国内総生産(GDP)の1倍前後だったが、コロナで1.4倍に膨らんだ。過剰なマネーはインフレを助長しかねず、各中銀は正常化を急いでいる。

FRBは6月から月475億ドルを上限に、償還を迎えた国債などの再投資をやめる形で減額を始める。9月には上限を月950億ドルに拡大する。資産圧縮は上限が年間で約1.1兆ドルとなり前回のQT(17~19年)の倍にあたる。

英国は2月にQTを決定し、カナダ中銀も4月から開始した。ECBも7~9月期の早い時期に資産の買い入れを終了する。米シンクタンク、アトランティック・カウンシルの試算では圧縮幅は世界で約2兆ドルになる。今の主要中銀の資産全体の1割弱にあたる。

今回のような世界同時の「グローバルQT」は過去に例がない。利上げを伴う「二重の引き締め」でもある。金融市場は耐えられるのか。金利の過度な上昇などを招くリスクは大きい。

焦点の一つはFRBが住宅ローン担保証券(MBS)の売却に踏み切るかどうかだ。償還までの期間が長いMBSはFRBの資産に占める比率が大きくなりすぎる懸念があり、売却の観測が市場に浮上している。年初に3.3%程度だった住宅ローンの30年固定金利はすでに5.4%程度まで跳ね上がった。

緩和マネーが向かっていたリスクの高い資産からの流出も顕著だ。

コロナ禍による財政悪化にもかかわらずECBが直接買い支えてきたイタリアやギリシャなど南欧の国債は軒並み利回りが上昇(債券価格は下落)。ドイツ国債との利回り差はそれぞれ2%、2.5%とコロナ感染初期に市場が荒れた20年5月以来の高水準にある。世界の低格付け債の利回りは一時7%台後半と、18年のFRBの前回の引き締め局面を上回った。暗号資産の時価総額はピークから半減した。

主要4中銀で唯一、日銀は大規模な金融緩和を続ける。長期金利を抑えるために国債を購入し、市場へのマネー供給を続ける構えだ。各国中銀と比べた緩和差が外国為替相場の円安圧力になる可能性がある。

資産圧縮は難路だ。規模が大きい分、正常化に時間がかかる。FRBは実施期間や最終的な資産残高の圧縮幅を明らかにしていないが、9兆ドルに達したFRBの総資産をコロナ禍前の4.1兆ドルに戻すには単純計算で少なくとも4年かかる。

一方で市場では急速な利上げによって23年にも米国が景気後退に陥るとの見方が出ている。ゴールドマン・サックス前最高経営責任者(CEO)のロイド・ブランクファイン氏は米テレビで景気後退について「とても高いリスク。私が大企業の経営者だったら十分な備えをしているはずだ」と話した。

インフレが収まらず正常化を急げば急ぐほど、先行きの景気後退リスクは高まる。再び利下げ局面になれば、引き締め効果のあるQTは途中で停止し、再び量的緩和の導入が選択肢になる。景気を冷やさずインフレを抑える軟着陸(ソフトランディング)に失敗すれば、FRBの総資産は再び拡張の一途をたどることになる。

(ワシントン=高見浩輔、佐伯遼)

量的引き締め(Quantitative Tightening)とは 

中央銀行が保有する国債などの資産を減らすこと。保有する債券の売却や、満期を迎えた債券を再投資しないなどの手段がある。国債などの買い入れを通じて市場に供給したマネーを吸収し、金融環境を引き締める効果がある。

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大槻奈那
マネックス証券 専門役員チーフ・アナリスト
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別の視点

マネーの巻き戻しが金融市場にどの程度影響があるのかが今後の焦点の一つですが、昨年発表された論文(Gabaix& Koijen)では、株式市場に1㌦流入すると時価総額が5㌦増加するとされています。

FRBの資産はコロナ前から増加傾向にあったので、19年水準まで戻るわけではなくトレンド線に戻るとすると、ひとまず2兆ドルの縮小と考えられます。

同額が米国の株式市場から流出すると仮定し影響を単純計算すると、時価総額は10兆ドル程度≒18%程度下落する計算になります。

昨年末から5月末までで既に米市場時価総額は8.5兆㌦下落していますので、まだ下値もあり得るものの、織り込みは進んでいるとも考えられます。

2022年6月1日 8:30

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中空麻奈
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
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ひとこと解説

金融政策の転換期において、クレジット市場に影響をもたらすのは、金利上昇より資産買入策の変化の方である。

記事指摘のように、2兆ドルもの資金が流出すれば、リスクの高いところから値崩れを始めるのは自明だ。

格付けの低いハイイールド債などは、価格低下、スプレッドワイド化リスクに晒される。
欧州の資産買入プログラム期待で買われた銘柄も同じ、だ。

金融政策の転換により、ボラティリティが高まり、クレジット自体には変化がないのに、リプライシングが始まる。

しばらくは警戒が必要だが、しかし、ワイド化が一旦終われば買い機会になるはず。目が離せないタイミングが来た。

2022年6月1日 8:43 (2022年6月1日 8:50更新)

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白井さゆり
慶應義塾大学総合政策学部 教授
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ひとこと解説

FRBは、主要な金融政策手段を短期金利(フェデラルファンドレート)と位置付けているので、資産買い入れは補助的な金融緩和手段です。

このため、緩和を続ける必要がなくなれば資産を減らしていくのは当然のことでしょう。
現在は9兆ドル程度から減らしていますが、5兆ドル程度で維持するか、どの程度まで減らすかは金融市場の動向をみながら慎重に着地点をさぐるはずです。

20219年の資産買い入れを計画より早く切り上げた経験を生かすと思います。

いずれにしても現在は、大量の資産はある程度減らしておいて、次の危機に備えるように思います。

またQTをするからこそ短期金利の利上げ幅を抑えられる面もあります。

2022年6月1日 8:03

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説

自然の摂理といえば、山あり谷ありである。

これまで異次元の金融緩和のおかげで贅沢な生活を享受してきた世界の富裕層は、インフレ抑制のための金融引き締めでこれまでの贅沢な生活に終止符を打たれる。

問題は低所得層の生活をいかにして保護するかにある。

各国の中央銀行は金融引き締めを急いでいるが、経済がハードランディングしたら、また緩和せざるをえない。金融工学的にソフトランディングのポリシーミックスの実施が求められる

2022年6月1日 7:33 』