クルド自治区のガス、トルコに供給構想 欧州輸出も視野

クルド自治区のガス、トルコに供給構想 欧州輸出も視野
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR0602F0W2A500C2000000/

『【イスタンブール=木寺もも子】イラク北部のクルド人自治区から隣国のトルコにパイプラインで天然ガスを供給する構想が浮上している。

トルコは自治区内の敵対勢力による妨害を抑えるため越境攻撃を始めた。自治区を統治する自治政府が経済力を高めて分離独立を志向する事態を恐れるイラク政府や、同国の政権に影響力を持つイランが反発している。

自治政府は、自治区におけるガスの埋蔵量について、世界で確認済みの数%にあたる200兆立方フィート前後に達する可能性があると指摘する。すでに自治政府とトルコ政府が協議を重ねている。

自治政府は2021年、自治区内のガス田からトルコ国境付近に至るパイプラインの建設で地元企業と合意。これをトルコまで延ばす。さらにアゼルバイジャンから同国を経由する既存のパイプラインにつなげ、欧州に輸出する青写真も描く。

トルコのエルドアン大統領は2月から4月にかけ、バルザニ首相ら自治政府の要人を招いて会談した。エルドアン氏は、ガス開発で自治政府とトルコがともに利益を得る「ウィン・ウィンの取引」に強い意欲を示したといわれる。

背景にはロシアが2月下旬に始めたウクライナへの侵攻が拍車をかけた国際市場での石油やガスの価格高騰がある。トルコはエネルギー資源の多くを輸入しており、化石燃料の輸入価格の上昇は国内の物価高に直結する。

クルド人自治区からトルコへはすでに石油のパイプラインがあり、自治区はイラク政府の反対を押し切って輸出を続けている。さらに新たなパイプラインを建設して自治区からガスを輸入すれば、トルコにとってはエネルギーの安定確保につながる。

トルコはガスパイプライン構想を実現するため、軍事力も行使する。自治区のトルコ国境近くにはエルドアン氏が「テロリスト」と名指しするクルド系武装勢力、クルド労働者党(PKK)が潜伏する。トルコは4月、自治区に越境し、PKKメンバーの掃討作戦を始めた。パイプライン建設の妨害を阻止するためだ。

トルコの越境作戦はバルザニ氏の同国訪問の直後に始まった。バルザニ氏が作戦を黙認していると関係者は受け止めている。自治政府とPKKはいずれもクルド系だが、関係は良好といえない。

エルドアン氏は5月28日、トルコメディアに対し、イラク北部やシリアで同日までに約100人のPKKの戦闘員を「無力化」したと主張した。

バルザニ氏はエルドアン氏と会った後の4月中旬、ロンドンでジョンソン英首相と会談した。英政府によると、バルザニ氏は自治区内の天然ガスを欧州に輸出する構想を語り、ジョンソン氏は実現すれば欧州がロシアへの依存を減らせると応じた。

バルザニ氏は3月にアラブ首長国連邦(UAE)で開かれたイベントでも「近い将来、ガスの純輸出地域になる」と言明した。

イラク政府は反発を強める。自治政府には石油やガスの独自輸出を認めていない。自治区の経済が「自立」すれば、国家の分裂につながると懸念するためだ。自治区への越境作戦について、イラク外務省は4月、駐在のトルコ大使を呼び出し、国際法違反だと抗議した。

イラク国防省高官は日本経済新聞に対し「トルコの越境作戦が自治区からトルコへの資源輸出に関連しているのは明白だ」と指摘した。

イラクで多数派のイスラム教シーア派を通じ、同国に影響力を持つイランも自治区の動きを警戒する。5月3日公表の米国防総省の報告書によると、自治区内では親イラン武装勢力がPKKと連携し、トルコ軍の拠点を攻撃している。』