Q. 短期復旧の新阿蘇大橋、強風でクレーンが使えず資材運搬をどうした?

Q. 短期復旧の新阿蘇大橋、強風でクレーンが使えず資材運搬をどうした?
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00647/052700057/

『震度7の前震と本震で熊本県を震撼(しんかん)させた熊本地震から5年。阿蘇大橋の崩落や斜面崩壊のあった同県南阿蘇村では復旧・復興が進み、新しい阿蘇大橋(以下、新阿蘇大橋)は着工からわずか4年の2021年3月に開通しました。

 新阿蘇大橋の渡河部の橋長は345m。深い谷底に3つの橋脚を建てる必要がありました。

当初設計では斜面上に仮設する「段差桟橋」の上で、クレーンを用いた掘削土砂の搬出や資機材の運搬を想定していました。
当初の段差桟橋のイメージ。渓谷が深いため、急斜面の上下に桟橋を設置する想定だった
(資料:大成建設)
[画像のクリックで拡大表示]

 ところが、架橋地点は阿蘇外輪山の切れ目に位置するため、年間を通じて強風が吹き込みます。「クレーン等安全規則」によると、10分間の平均風速が毎秒10m以上でクレーン作業を中止しなければなりません。この規則に基づき、実際の現場では安全側に運用して平均風速が毎秒7mで規制をかけるのが一般的です。

 この現場では1週間に3日ぐらいの頻度で、毎秒7m級の風が吹いていました。深礎工で発生する土砂や資機材を安定して運搬するために、どのような方法を採用したのでしょうか。

1、森林工事などで用いる工事用モノレールを設置した
2、斜面のレール上を台車が昇降するインクラインを設置した
3、クレーンの周囲に風よけとなる壁を設置した 』

『正解はこちら

2.斜面のレール上を台車が昇降するインクラインを設置した

写真左手に見える黄色の台車がレール上を動く。トレーラーやダンプトラックなどを2台まで積める(写真:大成建設)
[画像のクリックで拡大表示]

 新阿蘇大橋の渡河部の上下部工事を担当した大成建設・IHIインフラ・八方建設地域維持型建設共同企業体(JV)で、現場代理人を務めた大成建設本社土木技術部橋梁設計・技術室の長尾賢二課長は、こう話します。「橋梁工事では実績がなかったインクラインを採用した。60tの積載能力を有する国内最大級の規模だ」。

 インクラインとは、斜面に敷いたレールの上を動く台車で物を運ぶ装置です。新阿蘇大橋で使った台車のサイズは14m×9m。2台の大型車両を載せられます。移動に必要な時間は片道で6分ほど。「作業の中断なく資機材の運搬を進められ、工期短縮に大きな効果があった」。大成建設JVで監理技術者を務めた同社関西支店土木部土木技術部技術室の藤本大輔課長は、こう話します。

 崩落した阿蘇大橋の長さは約206m。渡河部が鋼トラスド逆ランガーの構造形式でした。被災直後は近くの斜面崩壊の土砂が、橋をのみ込んだと推測されていました。しかし、その後の土木学会の調査によると、右岸側を走る推定活断層が動いて、地盤が橋を圧縮させる方向にずれて崩落した可能性が高いことが分かりました。

阿蘇大橋と新阿蘇大橋の位置。布田川断層の位置は国土地理院の活断層図を基にした(資料:日経コンストラクション)
[画像のクリックで拡大表示]

新阿蘇大橋の耐震設計の工夫点。橋の縦断勾配の表現は省略した。国土交通省の資料に日経コンストラクションが追記
[画像のクリックで拡大表示]

 新阿蘇大橋の計画・設計では、熊本地震と同規模の地震が起こっても甚大な被害を避けられるよう工夫を施しました。

例えば、推定活断層による変位の影響を少しでも抑えるために架橋位置を下流側にずらして、橋の線形を断層とできるだけ直交するように設定。さらに、落橋しにくいプレストレスト・コンクリート(PC)ラーメン構造形式を採用しました。他にも、断層がずれたときに落橋を防ぐため、まず支承を壊すように設計されています。』

『超大型移動作業車で桁架設

 黒川の渓谷に建設する3つの橋脚の高さは、左岸側から49.5m、97m、75m。いずれも巨大な構造物となります。在来工法による施工では足場や型枠の組み立てに時間を要するため、「ACSセルフクライミングシステム工法」を採用しました。既設部から反力を取り、一体となった作業足場と型枠を油圧ジャッキでレールに沿って上げていく仕組みです。

 片持ちの張り出し架設工法で施工していく橋桁には、一般的な移動作業車の3倍の容量を持つ超大型の移動作業車を使用しました。ブロックの大型化を可能にして施工数を減らし、施工日数を短縮しました。
「ACSセルフクライミングシステム工法」による橋脚の施工状況(写真:大成建設)
[画像のクリックで拡大表示]
PR2から桁を張り出している様子。桁の先端に超大型の移動作業車が見える(写真:大成建設)
[画像のクリックで拡大表示]

 「橋梁工事でインクラインを使った経験はなかったが、ダムの現場などで十分な実績がある。ACSセルフクライミングシステム工法や超大型の移動作業車は、他のゼネコンやメーカーが工事で取り入れている。信頼性の高い既往の技術を軸にして工期を短縮した」と長尾課長は話します。

 発注者が新阿蘇大橋の入札当初から希望していたのは、「新阿蘇大橋の20年度内の開通」でした。一時は新阿蘇大橋での設計変更や他の土工事などの影響で20年度内の開通が危ぶまれましたが、結果的に大成建設JVが技術提案した1年4カ月の工期短縮案が生きて悲願を達成できました。』