米のアジア関与、日本に重責 IPEF橋渡しや防衛費増額

米のアジア関与、日本に重責 IPEF橋渡しや防衛費増額
編集委員 永沢毅
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD270QC0X20C22A5000000/

『バイデン米大統領が24日、初来日を終えた。日米首脳会談や両国にオーストラリア、インドを加えた「Quad(クアッド)」の首脳会議で、中国への対抗を念頭にアジアへの関与を強める取り組みを相次ぎ打ち出した。その実効性を高め、地域の安定につなげるには日本の協力が欠かせない。岸田文雄首相は重責を負った。

23日、東京・港区の泉ガーデンギャラリー。「全ての国に資する新たな21世紀の経済ルールを作っていく」。米国大使館から車で数分のイベント会場で、バイデン氏は米国が主導する新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の始動を宣言した。

IPEFは今回の来日の目玉の1つだった。2017年に環太平洋経済連携協定(TPP)から脱退して以降、空白になっていた米国の経済面でのアジア関与の土台をつくる試みだ。

創設メンバーは日米豪印に加え、韓国、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの計13カ国だ。日本政府高官は「1桁台だと思っていたので、想定以上に多かった」と話す。

日本政府には、10カ国あるASEAN加盟国がどのくらい参加するかがIPEFの先行きを占う1つの指標になるとの見方があった。結果的には軍政がクーデターをおこしたミャンマーや中国と緊密な関係にあるカンボジア、ラオスを除く7カ国が名を連ねた。

世界の国内総生産(GDP)の4割ほどを占めるこの13カ国が供給網やインフラなどで国際標準となるルールづくりを主導できれば、広域経済圏「一帯一路」などを通じて経済的な支配を強める中国に対抗しやすくなる。

もっとも、IPEFは関税引き下げを扱わない。米国内の雇用に打撃を与えかねないためだ。この点で対米輸出の拡大に期待するASEANの一部には実効性への疑問がくすぶる。

日本は米国市場の開放以外の分野でASEANのニーズをくみ取り、各国に恩恵が及ぶ制度設計になるよう米国とその他の参加国を橋渡しする必要がある。米戦略国際問題研究所(CSIS)のマシュー・グッドマン上級副所長は「(魅力的な提案ができるかどうかは)日本やオーストラリアといった国との連携がカギを握る」と指摘する。

日本がより主体的に取り組む必要があるのは安全保障だ。「防衛費の相当な増額を確保する決意を表明した」。首相はバイデン氏との共同記者会見でこう語り、防衛力の強化に意欲を示した。

日本の防衛費は長らくGDPの1%ほどにとどまってきた。中国の軍拡やロシアの示威行為、北朝鮮の核開発など日本を取り巻く安保環境が厳しさを増し、現状の予算規模では抑止力の向上は心もとないとの見方が強まっている。

北大西洋条約機構(NATO)加盟国は2%以上を目標に増額に取り組んでおり、自民党はこれも参考に政府に増額を提言している。

「相当な」(substantial)いう表現は明確な数字を示しにくい中で「練りに練って絞り出した」(外務省幹部)とされる。首相は会見で日本を攻撃する国への「反撃能力」の保有検討にも言及した。いずれも防衛力強化への米国の期待を踏まえた対応で、対中抑止で日本の一段の貢献に期待するバイデン氏への「公約」となった。

自民党と連立を組む公明党には数字ありきの増額や反撃能力の保有に慎重な意見がある。年末に予定する国家安全保障戦略の改定に向け、岸田政権が与党調整や国民の理解を得ながら一定の結論を出す必要がある。

バイデン氏は共同会見で記者団の質問に答え、台湾有事に軍事的に関与すると話した。発言は首相が防衛費などの「公約」に触れた後だった。

日米共同声明では抑止力強化へ日米が協力すると打ち出した。バイデン氏が台湾防衛を曖昧にしてきた米政府の公式見解をあえて踏み越えてみせたのは、台湾有事への備えを含む対中抑止で日本の姿勢を評価したためともいえる。

アジア関与は米国自身の努力が重要なのは言うまでもない。11月の中間選挙で与党の米民主党が現在かろうじて多数派を握る議会の上下両院で主導権を失う事態になれば、バイデン氏は任期を2年残してレームダック(死に体)に陥る。火種は分断が続く米国の足元にもある。』