欧米企業の民生技術、ウクライナの「武器」に

欧米企業の民生技術、ウクライナの「武器」に
顔認識技術で戦死のロシア兵特定、3Dプリンターで縦断防ぐ防御壁
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB197D90Z10C22A5000000/

『ウクライナが欧米企業の先端的な民生技術を軍事活動などに積極的に活用している。米新興企業は膨大な顔画像から個人を識別する技術を提供し、ウクライナは戦死したロシア兵の身元特定に使う。人工衛星技術や3次元(3D)プリンターなども大きな「武器」となっている。

「(ロシア兵は)誰も死なないという神話を覆す」。ウクライナのフョードロフ副首相兼デジタル転換相がこう語るのは、顔認識技術を使う情報戦だ。

SNS(交流サイト)の投稿などを基に収集した数十億枚の顔写真から、戦死したロシア兵の身元を特定し、家族や友人に訃報を伝える。ロシア政府が正確な死傷者情報を公表していない可能性が高いなか、その実態を伝え、ロシア国内の厭戦(えんせん)ムードを高めるのが狙いだ。

米フォーブス誌によると、顔認識技術を無償で提供するのは米スタートアップのクリアビューAIだ。同社はSNSなどから100億枚以上の顔画像を集めデータベース化し、捜査機関などに個人の識別サービスを提供している。プライバシーの問題もあるが、ロシアのプロパガンダを打破するカギになりうる。

ウクライナ軍はロシア兵の会話を傍受して防衛戦に役立てている。この作戦を裏方で支えるとされるのが、人工知能(AI)を用いた音声認識技術を手掛ける米プライマーだ。米戦略国際問題研究所(CSIS)によると、プライマーは傍受した音声データを自動でテキストに書き起こして翻訳し、ウクライナ軍に関する部分を抜き出す。

通信環境の維持に貢献するのは、米起業家イーロン・マスク氏が率いる米スペースXだ。同社はこれまで約2000以上の小型衛星を打ち上げており、これらを連携させてインターネット接続を可能にする仕組み「スターリンク」を提供する。地上の基地局が砲撃などで破壊されても通信を維持でき、ウクライナの各種システムの継続稼働を支えているとみられる。

チェコの産業機器メーカー、ICEインダストリアルサービシズは、銃弾や手りゅう弾の攻撃を防げる防御壁を3Dプリンターで製造しウクライナに提供する。チェコの報道によると、ミサイル攻撃や戦車の重砲は防げないが、銃弾を防ぐには十分な強度があるという。

CSISは「ウクライナ軍は数十億ドルでなく、数千ドル規模の商用技術が(戦場で)どれだけ効果を上げられるかを証明している」と分析する。軍需企業だけでなく一般的な民間企業の技術も多く活用するウクライナ軍の手法は、各国の防衛戦略にも影響を与えそうだ。
(押切智義、千住貞保)』