中国、南太平洋要衝で滑走路調査 米豪と対抗姿勢にじむ

中国、南太平洋要衝で滑走路調査 米豪と対抗姿勢にじむ
ハワイから約3000キロ、キリバスは「民生用」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM274RR0X20C22A5000000/

『【北京=羽田野主、シドニー=松本史】中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相が異例の10日間にわたる太平洋島しょ国の訪問を続けている。27日に訪れたキリバスでは、中国が米ハワイに近い島での滑走路の改修事業を支援する。地域への浸透や拠点の確保を通じ、米国やオーストラリアに対抗する姿勢が鮮明になっている。

27日、キリバスの首都タラワ。訪問開始2日目となるこの日、王氏はキリバスのマーマウ大統領と会談し「米国とその仲間は中国の発展を阻止することに専念している」と述べ、バイデン米政権への警戒心を示した。

「中国が発展途上国を助けることは中国自身を助けることでもある」と話し、経済支援を惜しまない考えを伝えた。中国外務省によると、両氏は中国が提唱する広域経済圏「一帯一路」の共同建設や、気候変動に伴う防災対策、インフラ整備などを巡る協力文書の調印式に出席した。

27日、キリバスで会談する同国のマーマウ大統領㊨と中国の王毅国務委員兼外相=新華社提供・AP

中国がキリバスとの2国間協力で目玉と位置付けるのが、同国カントン島の滑走路改修支援だ。今回の協力文書には含まれなかったもようだが、キリバス政府は2021年5月、改修の事業化調査について中国から資金援助を受けることを認めている。滑走路は「首都タラワなどと結ぶ商業飛行のため」として、民生用だと強調している。

ただ同島の人口は数十人とされ、改修事業の真意はみえない。米インド太平洋軍が司令部を置くハワイから約3000キロメートルと近く、中国が軍事的な利用価値を見いだしている可能性もある。

キリバスはソロモン諸島と並び、19年に台湾と断交し中国との国交を樹立した。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)はソロモン諸島と中国が今年4月に結んだのと同様の安全保障協定の交渉がキリバスとの間でも進められていると報じた。軍の派遣や艦船の寄港が可能になるとの指摘もある。

南太平洋地域は太平洋戦争当時、日本が米豪の分断を狙い進出を図った。ソロモンのガダルカナル島やタラワ島などを含むギルバート諸島(キリバス)は日米の激戦地として知られる。カントン島の滑走路は米軍が当時建設したものだ。戦後は豪州や米国が一貫して地域への影響力を維持してきた。

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は12年に国家副主席として訪米した際、当時のオバマ米大統領に「広大な太平洋は中米両国を受け入れる十分な広さがある」と太平洋の二分論を唱えて世界に衝撃を与えた。米中の対立が激しさを増すなかで「二分論」実現に向けて着々と手を打っている。

習指導部はミクロネシア連邦を含む太平洋の島しょ国10カ国に安保協力強化に向けた合意草案を送り、軍事的な連携を深めようとしている。最大の狙いはミクロネシアが米国と結ぶ「自由連合協定(コンパクト)」の切り崩しとみられる。

コンパクトは米国が経済支援を行う代わりに、米軍の駐留を受け入れ、他国軍の基地を認めない取り決めだ。更新期限は23年だが、交渉は妥結していない。

ミクロネシアのヤップ島と米軍の原子力潜水艦や戦略爆撃機が寄港・待機できるグアムの距離は700キロメートルあまり。ここに、基地を置くことができれば、中国本土の防衛や米軍の接近阻止のために活用できる。

中国の海洋戦略に詳しい防衛研究所の飯田将史氏は「米軍の行動を制約する戦略的目的の達成に向けた動きの一環だ」と指摘する。

インド太平洋で台頭する中国の抑止を念頭に置いた日米豪印4カ国による「Quad(クアッド)」は、24日に東京で首脳会議を開いたばかりだ。その前日に就任したアルバニージー豪首相は「中国が太平洋でより強い影響力を行使しようとしている」と警戒感を示していた。

同氏率いる労働党政権は太平洋地域への政府開発援助(ODA)増額を掲げる。フィジーを訪れたウォン外相は27日、「豪新政権が打ち出す違いの一つは気候変動への対応だ」と強調、海面上昇に直面する島しょ国に対し積極的な対策を講じると約束した。

ニュージーランド(NZ)は王氏のソロモン訪問直前の25日、派遣NZ軍の駐留を23年5月末まで1年間延長すると発表した。

ミクロネシアのパニュエロ大統領は20日付の書簡で、中国の安保協力草案について「地域の安定に脅威になり、新冷戦を引き起こす」と反発を示した。フィジーは米国主導の新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」への参加を決めた。バイデン政権が関与を強めているとの見方がでている。

日本政府からは、5月上旬に林芳正外相がフィジーとパラオを訪問した。3年ごとに豪NZとともに太平洋島しょ国の首脳と「太平洋・島サミット」も開催している。

前回21年7月はオンライン形式で当時の菅義偉首相が「権威主義との競争など太平洋地域が新たな挑戦に直面している」と表明した。首脳宣言では「法の支配に基づく自由で開かれた持続可能な海洋秩序の重要性」と盛り込んだ。

日本にとって太平洋島しょ国は豪州とのシーレーン(海上交通路)に位置し、水産資源の供給地でもある。1国1票の国連では大票田でもあり、対中国の戦略上、重要な国々になっている。

日米豪などの間では、「債務のわな」への懸念も強まっている。経済規模の小さい島しょ国に中国がインフラ整備などで多額の貸し付けを行い、返済に行き詰まった際に権益などを取得する事態だ。

【関連記事】
・フィジーがIPEF参加、14カ国に拡大 中国に対抗
・中国「ソロモン支える」 外相会談、安保で影響拡大
・オーストラリア新政権、ソロモン外交に試練 中国接近で 』