NY市、治安悪化が通勤の壁に 元警官の市長が苦慮

NY市、治安悪化が通勤の壁に 元警官の市長が苦慮
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『【ニューヨーク=山内菜穂子】米ニューヨーク市で治安悪化が企業のオフィス復帰の障壁になっている。1月に就任した警察出身のアダムズ市長の手腕に期待が高まっていたが、通勤に利用する地下鉄での凶悪事件が相次ぐ。新型コロナウイルス禍からの都市の再生にはオフィスワーカーの存在が不可欠だが、治安回復に向けた道筋は不透明なままだ。

アダムズ市長は26日、企業経営者らと治安対策について話し合った。地下鉄での警備強化や駅構内で寝泊まりするホームレスの移動といった対策を説明したとみられる。米CNNによると、米投資銀行大手ゴールドマン・サックスのデービッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)は「公共の場の安全は私たちの生活の基盤だ」と訴えた。

地下鉄での凶悪事件は後を絶たない。22日には、同社の男性社員(48)が車内で男に銃で撃たれ死亡する事件があった。4月には銃乱射事件も発生した。

地元メディアによると、2021年は地下鉄で8件の殺人事件があった。今年はすでに4件が発生し、昨年を上回る可能性がある。新型コロナ流行前の15~19年は年平均2件だった。地下鉄の乗客数はコロナ前の6割程度の水準まで戻っているが、治安を懸念し地下鉄の利用を避ける人はいまだに多い。

ニューヨークのアダムズ市長は警察での経験から治安対策の強化を公約に掲げていた=ロイター

米クイニピアック大が5月に公表した世論調査では、同市に住む人の4割超が地下鉄は「安全でない」と答えた。他の民間調査では、市の主要企業経営者の3割が従業員を出社させるには治安の改善が必要と回答した。

実際、オフィスに戻る動きは鈍い。出退勤システムを手掛けるキャッスル・システムズによると、18日までの1週間の入館カード利用数はコロナ前の38.2%にとどまった。その前の週と比べて0.6ポイント減った。全米の主要都市の平均は43.3%だった。

アダムズ氏はかねて経済都市ニューヨークの再生には従業員のオフィスへの出社が不可欠と主張している。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のインタビューで、米銀大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOに電車通勤するように呼びかけたことも明らかにしている。

州外からの銃の流入を防ぐため、長距離バスの発着ターミナルに金属探知機を設置することも検討している。ただ、治安回復への特効薬は見つかっていないのが実情だ。

米国の他都市もコロナ禍後の治安悪化から抜け出せていない。

中西部イリノイ州シカゴ市では1月から5月25日までの強盗の件数が前年同期から22%増えた。これまで市の治安対策に協力してきた米ヘッジファンド大手シタデル創業者、ケン・グリフィン氏は「状況が変わらなければ、我々は出て行く」といらだちを隠さない。』