[FT]黒人男性フロイド氏の殺害から2年 なお抗議デモ

[FT]黒人男性フロイド氏の殺害から2年 なお抗議デモ
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『黒人男性のジョージ・フロイドさんが米ミネソタ州ミネアポリスのごくありふれた街角で白人警官に殺害された事件から2年。現場近くではいまだに抗議のデモが行われていた。

フロイドさん死亡事件から2年目に当たる25日、多くの市民が事件現場を訪れ、花などを手向けた=ロイター

元警察官デレク・ショービン被告がフロイドさんの首を9分間膝で押さえ付けて死亡させた事件は、人種と警察のあり方について国民的な議論を巻き起こした。今や聖地となった現場の一角ではそれ以来毎日のように抗議デモが続いている。傍らの壁画にはフロイドさんが天使として描かれ、花束や供え物が飾られている。

フロイドさんの記憶は今や歴史に刻まれた事件とともに神聖化されたが、彼の死の根底にある人種差別問題への取り組みがいかに多難かをミネアポリス市民は改めて実感している。

組織的な人種差別問題は地元政界で最大の懸案だが、分裂状態の州議会や新型コロナの危機など様々な要因により対応が妨げられてきた。

「実際には外見上変わったことは何もない」。ミネアポリスで主に黒人女性向けのコワーキングスペース「ザ・カブン」を共同経営するアレックス・ウェスト・スタインマン氏はこう話した。「人種差別問題に対する市民の意識は高まってきた。だけど、黒人が立ち上がることで人々がこの問題に意識を向けるようになったのだし、人々のそんな姿を見続けるのは我々黒人としてはとても疲れる」

警察改革、国でも地方でも進まず

バイデン米大統領は25日、フロイドさんの娘らをホワイトハウスに招き、警察の暴力的な取り締まりを規制する大統領令に署名した=ロイター

25日、フロイドさんは2回目の命日を迎えたが、警察改革は連邦レベルでも地方レベルでも進んでいない。バイデン米大統領は同日、警察の暴力的な取り締まりを規制する大統領令に署名した。しかし、バイデン政権が昨年議会に提出し上院で否決された包括的な警察改革法案と比べると、この新たな規制の範囲は狭い。

一方、ミネアポリスでは昨年11月、市警解体と代替組織設立の是非を問う住民投票が実施され、反対多数で否決された。同案は市警に代えて少人数の武装警官による「公衆安全局」を設置すると規定し、市議会で激しい論争を巻き起こした。同じ11月の市議会選挙では、警察予算の停止を主張した複数の候補者が落選した。市当局は12月、市警に対し1億9100万ドルを新たに予算配分した。

ミネソタ州セントポールのマカレスター大学で政治学を教えるマイケル・ジス氏は、警察改革を頓挫させた要因に重要犯罪の増加を挙げた。ミネアポリスでは昨年95件の殺人事件が報告されたが、これは1995年以来最多で2019年に比べほぼ倍増した。

「殺人事件が増えたせいで警察改革派の勢いがそがれてしまった。改革の動きは緩慢で、推進派の思惑通りに進んでいない」とジス氏は語った。

警官の黒人射殺事件、新たに2件

フロイドさんの死後、ミネアポリスでは警察官が黒人を射殺する痛ましい事件が新たに2件発生した。ダンテ・ライトさんとアミール・ロックさんが犠牲になり、フロイドさんの死に対する全国的な悲憤をもってしても同様の事件を防げなかったという絶望感が住民の間に広がった。

ライトさんを撃ったのは白人女性の元警官キム・ポッター被告。交通違反で停車を命じられたライトさんが逃げようとしたため、スタンガンの一種「テーザー銃」を使おうとしたが、誤って拳銃を発砲して死亡させた。同被告は第1級致死罪などに問われたが、量刑は禁錮2年にとどまった。一方のロックさんは本人とは無関係の殺人事件で無断家宅捜索令状を執行中の警官に射殺されたが、この警官は罪に問われなかった。

「ひどい侮辱だ」と憤るのはマーカス・ボウイ氏。黒人の労働者階級が多く住むミネアポリスのサウスサイド地区出身で、暴力阻止グループ「アゲイプ・ムーブメント」のメンバーだ。

ミネアポリスが人種間の平等を求める運動の中心地になったのは、ある意味で意外だ。米中西部にあり湖の多さで知られるミネアポリスは人口の大半を白人が占め、古くから進歩的な政治を誇ってきた。だが、表面下では医療や教育で不平等な扱いを受ける黒人や先住民の不満が鬱積しているからだ。

地域住民と警察との長年にわたる確執が広く注目されるようになったきっかけは、2016年にミネアポリスに隣接するセントポールで起きた白人警官による黒人射殺事件だった。車のテールランプが壊れていたため停止を命じられたフィランド・カスティールさんが警官に撃たれた時、車内には彼の恋人とその4歳の娘が同乗していた。

2年間の事件調査を終えたミネソタ州の人権局は4月、ミネアポリス市警が10年間にわたり「差別的で人種に根ざした警察活動を繰り返していた」と結論付けた。

ミネアポリス市警は組織の解体こそ免れたものの、今も混乱が続いている。フロイドさん殺害によって警察への監視の目が厳しくなる中で多くの警察官が辞職し、定められた最低限の人員を確保できていないとして訴訟を起こされている。

構造的な不平等に募る不満

事件現場となった交差点にはフロイドさんの名前を記した道路標識が設置された=ロイター

警察改革は黒人運動の指導者が求めている変革の一部でしかない。フロイドさんが殺害された現場周辺では、抗議活動が始まるといくつかの商店が閉鎖に追い込まれた。地域住民の多くは自治体からの援助が不十分だと不満を募らせている。

再選されたばかりのジェイコブ・フライ市長は構造的な不平等の解消に取り組むと約束したが、問題は解決していない。公民権団体の全米黒人地位向上協会(NAACP)は全米100の大都市圏を人種の公平性でランク付けしているが、ミネアポリスは住宅や経済の機会などの分野で評価が低く92位に低迷している。

ミネアポリス市内の黒人の自宅所有率は25%程度で、白人の約75%と比べてかなり低い。黒人世帯の収入も中央値で2万7,626ドルと、白人世帯より5万1000ドル以上少ない。

希望を捨てない人々

それでも希望を捨てない住民はいる。 営業を再開した店舗の中には新たに黒人経営者が商売を始めた事例もある。

「この地域でこれほど多くの黒人がビジネスをするのは初めてだ」と語るビリー・ジョーンズさんも3月から、ジョージ・フロイド・スクエアと名付けられた街区の一角で「フォーリアルカフェ」というコーヒーショップ兼不動産屋を開業した。「今のところは良い感じ。これがずっと続けばいいんだけど」

ジョージ・フロイド・スクエアの端に住む公立高校教師で退役海兵隊員のマーシャ・ハワードさんは市民の心の傷を癒やすのに何年もかかると考えてきた。彼女の教え子だったダルネラ・フレイジャーさんはスマートフォンでジョージ・フロイドさん殺害の一部始終を撮影し、その映像で世界的なセンセーションを巻き起こした。

「信頼し信じてほしい。変化はこれからも続くから」とハワードさんは強い決意を示した。「白人至上主義は社会に深く浸透してきたし、しぶとい。でも、私たちだって我慢強い。私はここに23年住んで、これをやるしかないと思っている」

フロイドさんの死亡事件の現場近くに住むケビン・ブラウンさんは「天使の記念日」と名付けたフロイドさんの2回目の命日が近づいた時、この2年間に成し遂げられた変化を祝おうと決めた。ミネアポリスの社会悪や人種差別が解決したわけではないが、少なくともそれらが認識されるようになったとブラウンさんは指摘した。

「まだ始まったばかり。ずっと石を投げ続けてきた相手がようやく家の窓から顔を出してくれたにすぎないのだから」

By Taylor Nicole Rogers

(2022年5月25日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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