経済安保、企業に不安 「曖昧」許されぬ時代に備えを

経済安保、企業に不安 「曖昧」許されぬ時代に備えを
世界の分断と日米㊦
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM23CU00T20C22A5000000/

『バイデン米大統領の訪韓はサムスン電子で始まり、現代自動車で終わった。

「米韓の技術同盟をさらに発展させる」。20日夕、バイデン氏は韓国に到着すると、真っ先にソウル郊外のサムスンの半導体工場に向かった。米テキサス州に170億ドル(約2.2兆円)を投じて半導体工場をつくる計画を発表した同社首脳に謝意を伝えるためだ。

「米国を選んでくれたことに感謝する。米国は現代自動車を失望させない」。22日には電気自動車(EV)の米国工場建設を決めた現代自の鄭義宣(チョン・ウィソン)会長に会い、日本に飛んだ。

中国に依存しないサプライチェーン(供給網)の構築を急ぐ米国は、韓国を自陣営に取り込もうと躍起だ。韓国企業の米国事業の売上高は2020年に中国事業を抜いた。米中対立で「安米経中」(安全保障は米国、経済は中国)から「安米経米」への移行が進む。

追加関税による貿易不均衡の是正を狙ったトランプ政権に対し、バイデン政権はハイテク分野とサプライチェーンの管理による経済安全保障を対中政策の柱に据える。半導体など4つの重点分野から中国を排除し友好国で完結する供給網を構築しようとしている。

米国と中国、どちらを選ぶか――。企業の本音は「両方やりたい」だ。だが先鋭化する米中の対立がそれを許さない。

自社製品の生産を中国に頼ってきた米アップルは、鴻海(ホンハイ)精密工業など主要取引先に中国集中を避けるよう求め、ベトナムやインドでの生産を急ピッチで増やしている。

日本企業も分断のリスクにさらされている。プリント基板大手のメイコーは27年までに中国での生産比率を55%から40%に引き下げ、中国以外の市場向けを日本やベトナムでつくる体制に移行する。名屋佑一郎社長は「ウクライナ侵攻で世界経済がさらに混沌としてきた」と懸念を強める。

ロシアによるウクライナ侵攻は、自由主義陣営と強権国家との衝突によって企業活動が突如停止に追い込まれるリスクを浮き彫りにした。アジアの安全保障を巡り米中の断絶が決定的になった場合、日本企業に備えがあるとは言いがたい。

バイデン氏が今回の来日で日本企業を訪れることはなかった。米国の経済安全保障において、日本の相対的な地位が低下していることの表れととらえることもできる。日本企業は世界を襲う大きな環境変化に対応しきれず、曖昧な立場を続けているように見える。

「米中どちらにつくかの問題ではない」。26日、国際交流会議「アジアの未来」で岸田文雄首相はこう語った。アジア諸国や企業が抱えるジレンマに理解を示した発言だ。

日本企業は中国一極のリスクを避けるため「チャイナプラスワン」の調達戦略を進めてきた。今すぐ中国と関係を断つことは企業にとって負担が大きく、現実的ではない。一朝有事の際に中国に頼らなくてすむ供給網の構築を着実に進めとともに、世界で競争力をもつオンリーワンの技術を磨き続けることが、結果的に中国の抑止につながる。

(国際部長 鈴木壮太郎)

【「世界の分断と日米」記事一覧】
・ウクライナの先に台湾有事 日本、アジアの安定へ求心力
・出遅れた米のアジア戦略 中国抑止、時間との競争に 』