ウクライナ史の解説書 翻弄された「欧州の国家」

ウクライナ史の解説書 翻弄された「欧州の国家」
世界の話題書
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR2307A0T20C22A5000000/

『ロシアのウクライナ侵攻から約3カ月がすぎた。戦場に近い欧州は強大なロシアと軍事力で向き合う状況に逆戻りし、「新・冷戦」の時代に入った。外交・安保の劇的な転換をもたらし、経済ではスタグフレーション(インフレと景気後退の同時進行)が忍び寄る。
そんな欧州で「読むべき本」と口の端にのぼる書籍がある。ウクライナ育ちのハーバード大学教授、セルヒー・プロヒー氏の『The Gates of Europe: A History of Ukraine(欧州の扉 ウクライナの歴史)』だ。2015年の出版だが、再び注目を集め、ウクライナを理解するための「最初の1冊」(英紙ガーディアン)などとされる。

ウクライナはどんな国家なのか。「基本的なことが知られていない。それが執筆の原動力」(プロヒー氏)ということだけあって紀元前から丁寧に説き起こす。

オスマン帝国、ハプスブルク帝国(オーストリア)、ナチス・ドイツ、ロシア(ソ連)など大国に翻弄され、宗教や文化が交差した。締めくくりは2014年のロシアによるクリミア半島併合とウクライナ東部への介入。これが国際秩序を揺さぶりかねないと、足元の状況を予言するかのような内容で終わる。

「ウクライナにとって欧州は重要であり、ウクライナは欧州の一部である」と著者は強調する。長い歴史のなかでウクライナは欧州とユーラシアの橋渡し役を担ってきたが、ユーラシアの多くの国にとってウクライナこそ欧州だった。だからこそ本の題名にもあるようにウクライナは「扉」なのである。

それがいまのウクライナの人たちの実感なのではないか。

3月、同国のゼレンスキー大統領はイタリア議会での演説で「ウクライナは欧州の玄関口」との表現を使った。ウクライナは欧州である、と強調して支援を呼びかけたのだ。5月中旬に取材したマルチェンコ財務相は、ウクライナはロシアの兄弟国家ではなく、「大欧州の一員」だと繰り返した。

これまで日米欧は、ロシア研究の一環としてウクライナを扱ってきた。しかしウクライナはモスクワ史観を拒絶し、欧州の一部に組み込んでほしいと熱望する。欧州連合(EU)の加盟にこだわるのは「欧州的なもの」にアイデンティティー(帰属意識)を感じるからだろう。ウクライナ問題を話し合う6月のEU首脳会議は期待にこたえるべきだろう。

(赤川省吾)』