危機下のアジア、分断を警戒 米欧・中ロの綱引きの場に

危機下のアジア、分断を警戒 米欧・中ロの綱引きの場に
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『26日に都内で開幕したアジアの政治・経済について討議する第27回国際交流会議「アジアの未来」(日本経済新聞社主催)は米中対立、ロシアのウクライナ侵攻など地域が直面する地政学危機に各国の首脳や閣僚から懸念の声が相次いだ。安定した地域秩序と経済のグローバル化を成長エンジンにしてきたアジアにとって、深まる分断は強い逆風だ。米欧と中ロのはざまで、東西冷戦期以来の試練にさらされている。

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「近年の世界史上において最も困難で不確実な時代が到来した。古くからの対立が深まり、新しい対立も生まれている」

マレーシアのイスマイルサブリ首相は、足元の情勢に不安を隠さない。

「古い対立」とはここ数年来、通商や安全保障を巡って繰り広げられてきた米中の競争だろう。2020年に始まった新型コロナウイルス禍は、サプライチェーン(供給網)の寸断や新興国の取り込み合戦を通じ、双方の対立に拍車をかけた。

2年余りのコロナ禍にようやく出口が見え始めたタイミングで勃発したのが、2月のウクライナ危機である。侵攻直前にロシアと「無制限の協力」を確認した中国は、国連などの場で盟友を擁護する。米国が欧州や日本と連携してロシアへ経済制裁を発動すると、中国がロシア産品の輸入拡大で対抗するなど「新しい対立」が加わった。

欧米日と中ロの対決はさながら冷戦の再来だ。アジアはその最前線だった。安保や経済で両陣営とつながりが深いアジアは、またも綱引きの場にならざるを得ない。

「東南アジア諸国連合(ASEAN)は誰とも対立しない」。タイのプラユット首相は中立を保とうと腐心するアジア諸国の立場を代弁した。

ただ、中立の維持は、これまで以上に難しくなりつつある。昨年1月に発足したバイデン米政権が、中ロとの競争を「民主主義対専制主義」と位置づけ、アジア回帰の動きを強めているからだ。

唯我独尊が目立ったトランプ前政権と異なり、バイデン政権は多国間協力を重視する。日本とオーストラリア、インドとの「Quad(クアッド)」、英豪との「AUKUS(オーカス)」といった安保協力に加え、23日には「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を始動した。
広域経済圏構想「一帯一路」や、東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)など、米不在の経済圏でアジアへの影響力を強めてきた中国に対抗する。

「米政権がアジアとのパートナーシップ、経済外交を重視していることを示した」とシンガポールのリー・シェンロン首相は歓迎する。日韓や豪に加え、ASEANからの7カ国とインドも参画したのは、中国への経済依存への警戒感の裏返しでもある。

ただ、米市場の開放という「アメ」がないIPEFは、アジア側のメリットが見えにくい。またかつてバイデン氏が副大統領を務めたオバマ政権も「アジア・リバランス」が尻すぼみに終わった過去もある。米国のインド太平洋戦略に対し、実効性と持続性を懐疑的にみる声は少なくない。

それでも多くの国が参画に踏み切ったのは、日本の働きかけが奏功した側面が大きかった。

「貿易、資金、インフラと人の流れの接点であるアジアは、発展のための重要な要素を数多く備えている」とベトナムのファム・ビン・ミン副首相が語ったように、コロナ禍の停滞を経てなお、アジアの潜在力には疑いがない。分断を乗り越えて、地域の安定と成長軌道を再び取り戻すうえで、米国とアジアをつなぐ日本の役割は一段と重要性が増している。

(編集委員 高橋徹)

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小山堅
日本エネルギー経済研究所 専務理事 首席研究員
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ひとこと解説

欧米と中露の対立構造が明確化し、確執・衝突が激しくなればなるほどインドと東南アジアを巡る綱引きが重要になる。

特にインドは米欧・中国・ロシアの狭間に立って難しい状況にもあるが、同時に何とかインドを引き寄せ見方に付けたいとの力が働き、地政学的に極めて有利なポジションに立っている。

先般のクワッド首脳会議でもインドへの配慮は印象的だった。東南アジアを味方に引き込むことも各陣営にとって戦略性が高まっている。

この中で日本の役割は大きい。欧米のアプローチがとかく「上から目線」になりがちの時、信頼できるパートナーとして日本が果たす役割がカギを握りうる。アジアでのエネルギー・脱炭素の取組み協力にも当てはまる話だ

2022年5月27日 7:29 』