クライナの先に台湾有事 日本、アジアの安定へ求心力

ウクライナの先に台湾有事 日本、アジアの安定へ求心力
世界の分断と日米㊤
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA187J60Y2A510C2000000/

『「いま、日本周辺ではこんなことが起きている」。日米豪印4カ国「Quad(クアッド)」首脳の会議が続いていた24日昼、岸田文雄首相は一報を伝えた。

日本周辺の上空を中国、ロシア両軍の爆撃機計6機が共同飛行していた。東京にバイデン米大統領らが集まったタイミングに合わせたかのような示威行動は、民主主義陣営の結束に力で対抗する中ロの構図を浮かび上がらせる。

「インド太平洋の安全保障環境はこれほど厳しくなっている」と会議で続けた首相の言葉は、ロシアのウクライナ侵攻は人ごとではないとの実感でもある。

初の対面での本格的な日米首脳会談に臨むにあたって、首相と外務省は「米国のアジアへの関与をどこまで引き出せるか」に焦点を定めた。そのためには、自分の国は自分で守る具体策を示さなければならない。

首脳会談で米側に伝えた防衛費の相当な増額と「反撃能力を含め、あらゆる選択肢を排除しない」という軍事面での強化策は「日本の決意をバイデン氏に示す材料」だった、と首相周辺は明かす。

バイデン氏が首相との共同記者会見で台湾有事の際には米国が軍事的に関与する、とまで踏み込んで発言したのは、日本側にとっても驚きだった。

「戦略的あいまいさ」を修正するバイデン氏の発言はこれまでにも2度あるが、3度目で発言した場所が台湾と中国に近い日本であることを考えれば「もはや失言ではない」と政府当局者は受け止める。

もうひとつ、首相が日米首脳会談に定めた目標があった。来年の主要7カ国(G7)首脳会議を、首相の地元で被爆地でもある広島で開くことに賛意を得ることだ。

首相に近い元政府高官は「核の脅威が現実になっているからこそ、核兵器なき世界の意義を広島で訴えるべきだ」と首相に促していた。軍事力を全面に出してくる強権体制への対抗にもなり得る。

それは首相の唱える「新時代リアリズム外交」の具現化になる。ロシアが核兵器使用を示唆する現状で、欧州には広島開催を疑問視する声もあった。首脳会談で直接、バイデン氏に伝える作戦は奏功した。

一連の外交日程を終えた首相には、自らの発言や共同文書の具体化が待つ。

年末には国家安保戦略など防衛関係3文書の改定がある。「相当な増額」を約束した防衛費は来年度予算編成でまず結果を出さなければならない。限りある財源をどうやりくりするかには政治決断を伴う。

25日、バイデン氏が日本を離れると、北朝鮮は複数の弾道ミサイルを発射した。中ロの共同行動に続く北朝鮮の行動は、欧州だけでなくアジアでも力による威圧がすでに横行する国際社会のリアリズムを見せつけた。

日本は中国、ロシア、北朝鮮に囲まれる。力による脅迫には、防衛力の強化と民主主義陣営の結束が抑止になる。一方で、民主主義と強権主義の対立が先鋭化すれば、アジアで距離を置く国も出てくる。

平和を求める理念を象徴する広島サミットの開催は、こうした国々の共感を呼ぶ日本の強みにもなる。アジアの安定構築へ求心力をいかに高めるか。首相が掲げる新時代リアリズム外交が本番を迎える。

(秋山裕之)

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分析・考察

ウクライナ侵攻の当初、「あらゆる非軍事的な手段で侵攻を止めなければならない」と書きました。軍事侵攻で得をしたという前例を残しては、再発を止められないからです。

しかしその後、世界はむしろ「軍事的な」威嚇と挑発の度合いを強めているように見えます。

無論、自衛の備えは必要です。ですが我々は、軍事ブロックは2度の世界大戦を全く防げず、前の冷戦でもキューバ危機で我々は破局の直前まで行ったことを、忘れてはなりません。

今、地道でも日本が取り組むべきは、乱立する軍事ブロックに依存しない、国連の解決能力の強化に向けた改革であり、自立のためにエネルギーや食糧の対外依存を減らす努力では、ないでしょうか。

2022年5月26日 7:43』