バイデン外交「ASEAN重視」の本気度試す秋の陣編集委員 高橋徹

バイデン外交「ASEAN重視」の本気度試す秋の陣
編集委員 高橋徹
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD223BR0S2A520C2000000/

 ※ トランプ政権が、そうまで「対アセアン外交」をないがしろにしたとは、知らんかった…。

 ※ まあ、香港統制強化とか、BLM関連の暴動とか、対応に追われて、手を回している余裕が無かったという側面も、あるんだろう…。

 ※ 今は、やっと、それの「修復段階」という感じなんだろう…。

 ※ IPEFとかは、その「修復」が済んだ後の、話しなんだろう…。

『ソウルから東京へ転戦し、きょうの「Quad(クアッド)」首脳会議に参加する。

バイデン米大統領初のアジア歴訪は、短い旅程に日韓やインド、オーストラリアとの首脳会議をぎゅっと詰め込んだ。

中国やロシアの覇権主義に対抗し、米国主導でアジア秩序の再構築を試みる対面外交が本格化しているが、そのプロローグが、直前の12~13日に開いた東南アジア諸国連合(ASEAN)との特別首脳会議だった。

オバマ政権以来、6年ぶり2度目だった米国へのASEAN首脳の招請は、初めて首都ワシントンを舞台に設定した。

ハリス副大統領やブリンケン国務長官、オースティン国防長官、ペロシ下院議長らを総動員し、手厚いもてなしが印象的だった。

オバマ元大統領は「アジア・リバランス」を掲げてASEANに接近した(16年2月、カリフォルニア州での初の特別首脳会議)=ロイター

国軍支配のミャンマー、大統領選後の政権移行期のフィリピンを除き、はせ参じた8カ国の首脳は自尊心を満たされたことだろう。

米国は1億5000万ドル(約190億円)の支援を表明し、2017年から空席だった駐ジャカルタのASEAN大使を指名した。

また双方の関係を「包括的戦略パートナーシップ」に格上げすることにも合意した。

「ASEANは私の政権の戦略の心臓部。今後50年の歴史の大部分は米ASEAN関係によって記される」。バイデン氏はこう言い切った。

今回の特別首脳会議を、アジア側はどう受け止めたのか。

「米ASEAN関係は過去6年間のような〝自動運転〟モードではなくなりそうだ」とバイデン政権の関与を高く評価するのはタイのチュラロンコン大シニアフェロー、ガヴィ・チョンキタウォーン氏だ。

一方、ジャカルタ・ポスト紙のシニアエディター、エンディ・バユニ氏は「ASEANと米国はインド太平洋(の枠組み)については同じ考えを持つが、必ずしも同じ船に乗っているわけではない」と中国排除の姿勢に疑問を投げかけた。

政権を挙げて熱烈歓迎したものの、バイデン氏とASEAN各首脳の個別会談はなかった。

新たに拠出する資金も、昨年11月に習近平(シー・ジンピン)国家主席が出席し、やはりASEANと特別首脳会議を開いた際に中国が約束した15億ドルの10分の1にとどまった。

「首脳会議はうまくいった。だが米国は東南アジアでの影響力を中国に奪われ続ける。『まあまあの結果』は、米国に先んじる中国のスピードの速さを、米国が過小評価していることを示している」。豪ローウィー研究所のリサーチフェロー、スザンナ・パットン氏のこんな論評が、おおよその最大公約数といえるだろう。

可もなく不可もなく、ではあったにせよ、ここに至るまでの米ASEAN関係の曲折からすれば、確かな前進だと考えていい。

17年11月、トランプ前大統領は東アジア首脳会議に参加せず、マニラから帰国の途に就いた=ロイター

東西冷戦の終結後、「反共の砦(とりで)」だったASEANへの関心が薄れた米国だったが、「アジア・リバランス(再均衡)」を掲げたオバマ政権下で、両者は再び接近した。

米国は11年、ASEAN主導の東アジア首脳会議へ正式に参加した。16年2月には初めてASEAN側を米国に招き、カリフォルニア州の保養地サニーランドで第1回の特別首脳会議を開催した。

ところが17年1月に発足したトランプ政権は、一転して両者の関係を冷え込ませた。トランプ氏の在任中、ASEANとの首脳会議への出席は、同年11月のマニラ会合の1度きり。このときもクライマックスの東アジア首脳会議を待たずに帰国の途に就いた。

極めつきが19年11月のバンコク会合だ。大統領特使として派遣したのは副大統領でも国務長官でもなく、オブライエン大統領補佐官。

これまで16回を数える東アジア首脳会議で、外相より格下の出席者は、後にも先にもこの年の米国しかない。「オブライエン・ショック」に抗議するため、このときの米国との「首脳会議」に、ASEAN側は10カ国中7カ国が出席者を外相にとどめる異例の対応をとった。
慌てたトランプ政権は、翌20年3月にASEANを招いて特別首脳会議を催すと表明した。

リカバリーショットはしかし、開催地にネバダ州の娯楽都市ラスベガスを指定し、ASEAN側の不興を買った。

結局、新型コロナウイルスの感染拡大で中止に追い込まれたが、その際もオンラインでの開催や代替日程の持ちかけはなかった。

トランプ前大統領は19年の東アジア首脳会議にオブライエン米大統領補佐官(当時、左端)を名代として送り、ASEANから不興を買った=ロイター

21年1月に就任したバイデン大統領は、オンライン開催だった10月のASEAN関連の首脳会議にフル参加したうえで、年明けに対面での特別首脳会議を提案した。ところがASEANとの調整が不十分なまま、米側が3月28~29日という開催日程を一方的に発表する失態を演じ、またも延期の憂き目にあってしまう。

ロシアのウクライナ侵攻への対応に忙殺されるなか、それでも1カ月半ほどで代替の日程をひねり出し、ようやく実現にこぎ着けた。合意案件の貧弱さは別にしても、関係再強化への意欲だけは、ASEAN側に伝わったはずだ。

米外交の迷走を振り返るとき、最前線に立つ国務省や国防総省がASEANを軽視したエピソードはほとんど見当たらない。トランプ外交を反面教師と考えるなら、最大の教訓は、やはり「顔の見えるトップ外交」の重要性ではないか。米上院の外交委員長や副大統領を歴任してきたバイデン氏は、そのことを誰よりも理解しているはずだ。

その意味で次の試金石は、半年後の11月に来る。11~13日にカンボジアでASEAN関連、15~16日にインドネシアでG20(20カ国・地域)、18~19日はタイでアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が開かれる。すべてにバイデン氏が参加するなら、ホワイトハウスを約10日間も留守にし、東南アジアにとどまらざるを得ない。20日にちょうど80歳の誕生日を迎える高齢の同氏でなくとも、米大統領として異例となる。

論理的に考えれば、バイデン氏は出席せざるを得ないだろう。ASEANとの会議は、合意済みの包括的戦略パートナーシップに署名する場となる。APECは米国が自ら名乗りを上げて誘致した、来年の議長国だ。G20議長国のインドネシアは、米国の助言を受け入れ、すでにウクライナのゼレンスキー大統領を招くことを表明している。

今回の米ASEAN首脳会議は、米国がASEANを厚遇したが、秋には立場が逆転する。ある外交筋によれば、ASEANには「域外国との公式な首脳会議は年1回にとどめる」という不文律があるからだ。

13年に友好協力40周年を迎えた日本や、16年の米国とは、特別会合と合わせて2回の公式首脳会議を開催した。ただこれらはあくまで例外だ。18年に豪州やインドと特別首脳会議を開いた際は、秋の定例首脳会議をあえて「非公式の朝食会」と位置づけた。昨年は中国と首脳会議を2度開いたものの、いずれもオンラインだった。

東アジア首脳会議の域外メンバーは、米中ロや日韓、インドなど8カ国に増えた。しかも米中を筆頭に、域外国間の対立がむき出しになるなかで、「年1度の首脳会議」の原則には、何とか中立を保とうとするASEANの苦心がにじむ。もし11月の米国との首脳会議を今年2度目の公式会合として受け入れ、不文律を脇に置くとすれば、それは米のアジア回帰の機を逃すまいとする、ASEAN側からのラブコールといえるだろう。

23日にバイデン氏が東京で始動を表明した米主導の新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の創設メンバーにも、ASEANからは大方の予想を上回る7カ国が名を連ねた。米市場開放という「アメ」がない分、米から逆に市場開放を迫られる「ムチ」の心配もない、という現実的な損得勘定はあるだろうが、構想の実効性はさておき、米国の呼びかけにひとまず応えておこうという判断が透けてみえる。

不確定要素があるとすれば、バイデン氏の東南アジア訪問の直前、11月8日に行われる米中間選挙だ。苦戦が予想される民主党が、議会の多数派を共和党に明け渡す事態に陥れば、政権の求心力は一気に低下し、次期大統領選でバイデン氏自身を含む民主党候補の勝利にも黄信号がともる。超大国のリーダーとして名実とも指導力を手にしたまま、東南アジアの地に降り立てるか。ASEAN側も冷徹に見極めようとするはずだ。

=随時掲載

高橋徹(たかはし・とおる) 1992年日本経済新聞社入社。自動車や通信、ゼネコン・不動産、エネルギー、商社、電機などの産業取材を担当した後、2010年から15年はバンコク支局長、19年から22年3月まではアジア総局長としてタイに計8年間駐在した。論説委員を兼務している。著書「タイ 混迷からの脱出」で16年度の大平正芳記念特別賞受賞。

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伊藤さゆり
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事
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別の視点

G20とAPECはロシアを含む枠組みでもある。

プーチン大統領の参加、西側の対応なども、焦点となりそうだ。

21日、APEC貿易相会合では日米加豪NZの5か国が、ロシアの発言時に一時退席、ロシア批判決議の文言をめぐって見解が一致せず、共同声明の採択も見送られた。

ASEANも一枚岩ではないが、G20やAPECが、ロシアと西側の対立の舞台となり、停滞することは、望んでいないだろう。

2022年5月24日 13:02 』