日米、人権巡り対中輸出管理 首脳会談で枠組み協議

日米、人権巡り対中輸出管理 首脳会談で枠組み協議
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『日米両政府は中国向けを念頭に置いた先端技術の輸出管理の新たな枠組みをつくる。軍事転用可能な技術に加え、人権侵害につながる恐れのある技術の流出も防ぐ。半導体や人工知能(AI)のほか、顔認証や位置情報の技術も想定する。日本では電子部品が焦点になる。人権の尊重など価値観を共有する他の有志国とも足並みをそろえる。

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23日の岸田文雄首相とバイデン米大統領との会談で協議し、共同声明にも明記する方向で調整する。輸出管理は軍事転用の恐れのある製品や技術を特定し、国際秩序を乱す可能性のある国などに輸出されないように監視する仕組み。日米は人権侵害にも対象を広げた管理の計画を共同で策定し、両国の産業界の意見も聞き実効性を高める。

今後速やかに対象となる技術をすり合わせ、法令改正などについて判断する。5月上旬に萩生田光一経済産業相とレモンド商務長官が会談した際に「機微なデュアルユース(軍民両用)技術、深刻な人権侵害や虐待を助長する目的で利用される可能性のある先端技術」の輸出管理を強化することで一致していた。

念頭にあるのは顔認証や監視カメラの技術だ。中国は新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル族など市民の行動監視に使っているとされる。監視カメラで世界最大手となった杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)のような企業も育つ。

ただ、最終製品を組み立てる技術はあっても、機器に組み込む電子部品は日本などの先端品を使っているケースも多い。

スマートフォンの個人情報を収集するスパイウエアや、位置情報がわかる全地球測位システム(GPS)なども人権侵害行為に使われる懸念が指摘されている。日米両国で輸出管理を厳しくすべき技術や製品を洗い出す。

バイデン政権は人権重視の輸出管理に力を入れている。2021年12月に開いた民主主義サミットにあわせ、オーストラリアやデンマークなどと監視技術の流出を防ぐ「輸出管理・人権イニシアチブ」を打ち出した。

日本は現時点では参加していないものの「米国との技術的、実務的な協力を進める」(政府関係者)との姿勢で、米国との連携を軸に他の民主主義国との協調をめざす。

輸出管理を巡っては冷戦期に「対共産圏輸出統制委員会(COCOM)規制」で社会主義国への技術流出を防止してきた。今は冷戦終結後に有志国が設立した「ワッセナー・アレンジメント」が、汎用機器や部品の軍事転用を防ぐために規制品目を議論している。すべての国への輸出を対象とする枠組みで、中国向けの輸出も含まれる。

ただ42カ国が参加する枠組みで意思決定に時間がかかるうえに、ウクライナに侵攻したロシアも参加している。日米や欧州などで機動的に輸出管理ができる仕組みを検討する。

日米首脳会談ではレアアースなど重要鉱物の安定供給に向けた枠組みの構築も議論になる。電気自動車(EV)やスマホなど脱炭素やデジタル化に欠かせないレアアース(希土類)を中国に依存しているケースも多い。日本はレアアースの6割を中国からの輸入に頼る。

中国は10年、沖縄県の尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件後に日本へのレアアースの供給を滞らせた。今後も重要鉱物を対立した国などに主張を押しつけるための外交手段として使ってくる可能性がある。日米は安定確保に向けてオーストラリアなどの資源国やアジアの国・地域との連携を念頭に置く。

22日に来日したバイデン氏はインド太平洋経済枠組み(IPEF)の発足を宣言する見通しだ。同地域で覇権を争う中国に対抗する経済圏をつくるのが目的だ。首脳会談では安全保障面だけではなく、経済面でも日米が主導して中国に対峙する姿勢を打ち出す。

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説

ほんとうのことをいうと、中国国内で人権侵害があっても、米国大統領は口では非難するが、それ以上の措置はない。この点について双方はよく知っている。

ただ反中の評論家は煽るだけである。今回の経済安全保障に関する議論は、安全保障にかかわるハイテク技術をめぐる覇権争いの一点である。そのカギは半導体技術である。

技術者に聞くと、ZTEとファーウェがトランプ大統領を刺激しなければ、あと数年で中国は半導体技術を手に入れることができた。中国は半導体部品の純輸入国であり、PCやスマホのOSも米国に依存している。これらの技術を守るのはIPEFである

2022年5月23日 7:31 (2022年5月23日 7:40更新)

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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員
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ひとこと解説

輸出管理の難しいところは、自由貿易の原則を維持しながら、安全保障上の目標を達成し、かつ自らの経済成長の犠牲を最小に抑えるということです。

日米は安全保障の利益を共有する同盟国であると同時に、経済的には競合することもあります。だからこそ日米での緊密な調整が必要だともいえます。

2022年5月23日 8:26

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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察

IPEFがどのようなものになるのかはまだ明らかではないが、日本は先端技術の輸出管理を、現在のワッセナー・アレンジメントのような枠組みではなく、より少数の国による、特定の技術に特化したミニラテラルの輸出管理体制を検討している。

いずれの技術に関しても日米は中心的役割を果たすので、その第一歩としてこの日米首脳会談が使われることになるのだろう。こうした流れが進むことで、より効果的な輸出管理の仕組みが作られることが期待される。

2022年5月23日 7:54 』