「選挙大勝利、月からも見える」 EU揺るがすハンガリー

「選挙大勝利、月からも見える」 EU揺るがすハンガリー
有事の欧州政治(4)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR09DB20Z00C22A5000000/

『「さらなる努力が必要だ」。9日、首都ブダペストでハンガリー首相のビクトル・オルバンと会談した欧州委員長のウルズラ・フォンデアライエンの歯切れは悪かった。欧州連合(EU)が対ロシア追加制裁で打ち出した石油禁輸案に、オルバンが首を縦に振らなかったためだ。

【ルポ迫真「有事の欧州政治」記事一覧】
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ハンガリーはEUの問題児だ。2010年から首相を務めるオルバンはEU加盟国の首脳として最ベテランだが、ロシア大統領のウラジーミル・プーチンと親密な関係にあり独自路線を突き進んでいる。天然ガスの購入代金はロシアが要求するルーブル払いに応じるとし、ウクライナへの軍事支援も拒否した。

オルバンがロシア寄りの姿勢を崩さないのは、国民の強い支持に支えられているからだ。
4月の議会選挙でオルバンは税還付など大衆迎合的な大盤振る舞いを連発し、オルバン率いる与党連合は7割近い議席を獲得する圧勝を演じた。プーチンは「両国の関係発展が国民の利益になる」と真っ先に祝意を伝えた。オルバンは「月からでも見える大勝利だ。(EU本部がある)ブリュッセルからは確実に見えるだろう」とEUを挑発した。

ロシアの脅威にどう立ち向かうか。ソ連崩壊後、民主化の道を歩んだ東欧諸国の選択はウクライナ危機で割れた。

ハンガリーだけでなく、将来のEU加盟をめざすバルカン半島のセルビアも、ロシアと合同軍事演習を行うなど同国に接近している。

一方、法の支配を巡りEUとたびたび対立してきたポーランドは反ロシアの急先鋒(せんぽう)になった。ウクライナ難民を積極的に受け入れ、5日には首都ワルシャワでウクライナ人道支援の国際会議を主催して65億ドル(約8300億円)を集めた。欧米の軍事支援物資をウクライナに送る拠点を担い、ロシアとの対決色を鮮明にする。

「もはや意味がない」――。9日の欧州議会で、EU改革の一環として提言された全会一致の廃止案に対し、議長国フランスの大統領エマニュエル・マクロンが賛同を表明した。加盟国の全会一致を原則とするEUにとって、東欧諸国の意向は対ロ政策を左右する変数だ。EU基本条約の改正が必要となる改革はハードルは高いが、ウクライナ危機を巡る東欧諸国のスタンスが、EUの根幹まで変えようとしている。(敬称略)

白石透冴、林英樹、竹内康雄、細川倫太郎が担当しました。

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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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ひとこと解説

EUの決定のほとんどは特定多数決で採択される。過去には外交安全保障にかかわる問題も全て全会一致であったが、今では特定多数決で決せられる問題も多い。しかし、制裁に関してはまだ全会一致が維持されている。それは国家主権の中核たる安全保障の問題まで、自国の反対を押し切ってEUの決定に従うということが難しいからである。ゆえに、EUが主権国家の集まりとしての性格を持ち続ける限り、全会一致は何らかの形で残るであろう。ハンガリーの反対を押し切れないのは、主権国家の集まりの機関としてのEUとしては当然のことであり、無理をすればEUの求心力をさらに失うことになる。

2022年5月21日 5:42 (2022年5月21日 5:43更新) 』