[FT]米国、最速スパコン開発で中国追い上げ

[FT]米国、最速スパコン開発で中国追い上げ
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『米国がスーパーコンピューターの新時代に突入しようとしている。処理能力が10年に1度の飛躍を遂げ、気候変動の研究から核兵器の実験まで様々な分野に大きな影響を及ぼすとみられている。

スーパーコンピューターの機器が並ぶオークリッジ国立研究所=C.B. Schmelter/Chattanooga Times Free Press via AP

通常ならこうしたブレークスルーによって国家の威信は高まるが、今回に関してはその可能性は低そうだ。中国が最初に突破口を開き、他国ではまだ使われていない次世代の高度なスパコンの構築に向けてすでに順調に進んでいる。

この分野の米専門家によると、中国の進歩を一段と際立たせているのは、国内の技術でそれが成し遂げられたことだという。開発に不可欠と考えられていた米国製ハードウエアへのアクセスを米政府が禁じたことが背景にある。

米国のスパコン専門家であるジャック・ドンガラ氏は、中国が20年以上前からスパコンの研究開発を積み重ねてきた結果、同国が世界をリードするという「驚くべき状況」になっていると指摘する。

最先端のスパコンは、気候変動や核爆発の影響を予測するモデルなど非常に複雑なシステムのシミュレーションを改善するために利用されている。英マンチェスター大学のニコラス・ハイアム教授(数学)によると、暗号の解読など機密分野でもひそかに利用されており、国家安全保障上の重要なツールになる可能性が高いという。

トップ500は中国が最多

スパコンの性能を競う世界ランキング「トップ500」に入っている台数は、米国の123台に対して中国は186台とすでに世界最多になっている。中国は今後、この分野で米国に先駆けて次の大きなブレークスルーを達成し、そうしたマシンを次々に開発して、何年にもわたって優位な立場を確保できるポジションにいる。

中国がブレークスルーを達成したのは、1秒間に100京(10の18乗)回の計算ができる「エクサ級」スパコンの開発競争だ。この計算速度は、10年以上前に登場したペタフロップス級の初代の1000倍にのぼる。

米エネルギー省のオークリッジ国立研究所(テネシー州)ではここ数カ月、国内で計画されている3台のエクサ級スパコンのうち、1台目の組み立てと試験が進められている。年2回発表されるトップ500の作成に携わるドンガラ氏によると、避けられない「バグ」が解消されれば、米国製エクサ級スパコンは5月末にもリスト入りするという。

一方、アジア技術情報プログラム(ATIP)でディレクターを務めるデービッド・カハナー氏によると、中国初のエクサ級スパコンは1年以上稼働しており、その後2台目が加わっている。ATIPの研究は最も権威あるものとして広く引用されている。

中国はエクサ級スパコンが2台あることを公式には発表していない。だが、その存在は2021年末に確認された。このマシンを使った科学的研究がスパコン分野のノーベル賞ともいわれるゴードン・ベル賞に応募され、ある論文がこの国際コンテストで最優秀賞を受賞したからだ。

米エネルギー省のローレンス・バークレー国立研究所で最近まで副所長を務めていたホルスト・サイモン氏は、最先端のスパコンを所有する中国は国防上、敵対国に対して明らかな優位性があると指摘する。

中国はスパコン開発のブレークスルーを公式に認めていない。この分野では何十年も前から、科学者が包み隠さず成果を語り、各国が最先端のマシンをいち早く自慢するのが常だったため、中国の判断はそうした歴史との決別と言える。この秘密主義には、米国からのさらなる報復を回避する狙いがあるかもしれないと専門家はみている。

米政府は19年、スパコン開発に関わる中国の5団体に制裁を科し、1年前にさらに7団体を対象に加えた。制裁の追加が行われたのは、中国初のエクサ級スパコンが起動した翌月のことだった。

中国がかつてエクサ級の壁の突破を目指していた時は、米半導体大手アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)の技術に依存していたため、米国による貿易の制限で影響を受けやすい状態だった。これに対し、現行の2台は国内の半導体設計に基づいている。この2台に使われている半導体の国内メーカー、天津飛騰信息技術と上海高性能集成電路設計中心はいずれも21年の米国の制裁対象リストに含まれていた。

ドンガラ氏は「極めて短い期間に独自の技術でシステムを構築できたことには非常に感銘を受ける」と語った。ただ、半導体の生産が、世界最先端のメーカーと肩を並べるにはまだ何年も遅れている中国本土と台湾のどちらで行われているかは不明だという。

ソフトは米国に強み

中国は何年もの間、スパコンを中心に国内産業を築いてきた。2000年には当時世界最速のマシンを発表し、主なライバルである米国と日本に衝撃を与えた。エクサ級スパコン時代の幕開けは、もっと明確なリードを取るチャンスかもしれない。

米国は3台のエクサ級スパコンを開発中だが、中国の目標は25年までに10台を保有することだとATIPのカハナー氏は指摘した。同氏の調査によると、中国企業は今や海外のライバルが何をしているかよりも、国内での競争に重点を置いているという。米中間の格差が拡大すれば、米国は「(中国の)システムを深く探れるよう」期待して、江蘇省無錫市にある国立スーパーコンピューティングセンターに対する制裁の緩和を検討するとカハナー氏はみている。

中国はハードウエアでリードしているが、特にソフトウエアに関しては、米国の能力の幅広さが強みになるとカハナー氏らは分析する。米エネルギー省の3台のエクサ級スパコンでは、32億ドル(約4100億円)に上る費用の半分がこの新しいコンピューティングアーキテクチャー上で動作するプログラムの10年に及ぶ開発に投じられた。一方、ハイアム氏はスパコン関連の分野で中国の高等数学研究を目にすることはほとんどないと指摘する。

米中間の協力強化を求めるカハナー氏はこう語る。「新しいシステムにアクセスすることで実験が可能になり、すべての当事者に利益がもたらされる。安全保障や公正かつバランスの取れた競争に矛盾しない範囲で、アクセスは可能な限り多い方がよい」

ただ、中国はまだ新しいスパコンの性能を公には認めておらず、米国は中国が技術大国として台頭しないよう制裁の手を緩めていないため、それは非現実的な願いであり続けるかもしれない。

By Richard Waters

(2022年5月18日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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