[FT]「ゼロコロナ」で冷える中国消費 不動産市場を直撃

[FT]「ゼロコロナ」で冷える中国消費 不動産市場を直撃
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『中国の上海市に住むオフィスワーカーのウーさん(28)は、普段なら1カ月当たり約1万2000元(約23万円)を日々の生活で使う。買い物をためらうことはほとんどないと彼女は話す。だが上海市でロックダウン(都市封鎖)が実施された4月には、普段の3分の1程度しかお金を使えなかったという。

上海での新型コロナウイルス検査では大勢の住民が長蛇の列を作った=ロイター

「買ったものといえば肉、卵、牛乳、野菜など欠かせない食材が大半だ」。1回の買い物で卵を90個購入したこともあったという。「すでに冷蔵庫は満杯だが、まだ不安だ」

中国では新型コロナウイルスのオミクロン型による感染拡大を抑え込むため、数十の都市でロックダウンが実施され、何億人もの身動きが取れなくなった。その中国が全国的に深刻な景気後退に直面している。ウーさんのような消費者がお金を使えないことが原因の1つだ。

中国国家統計局が16日に公表した4月の経済統計では、厳格なロックダウンによる打撃の深刻さが初めてとらえられた。最も明白なのは、消費への影響だ。消費活動の指標となる小売売上高は前年同月比で11%減少し、2020年初頭以来の落ち込み幅となった。一方、工業生産は3%減少した。

長年、中国の平均的な消費者の購買力が上昇することによって、輸出と建設を中心とした経済成長モデルから脱却できると期待されていた。だが、今秋の共産党大会で異例となる3期目の党トップ就任を狙う習近平(シー・ジンピン)国家主席は、ウイルスの感染封じ込めを狙う「ゼロコロナ」政策を推進しており、そうした経済の長期目標とは相いれない。
「貸出残高の伸びは低調」

すでに中国は不動産部門の危機に対応するため金融緩和に乗り出しており、多くの経済専門家は今年中に追加の景気刺激策が実施されると予測している。政策当局者にとって悩ましい問題は、このような厳しい行動制限のなかで従来の金融緩和や財政出動が期待されるほどの効果を上げられるのかどうかだ。とりわけ、今回あるいは今後の新たな感染拡大に伴う制限がいつまで続くのか先が見えない状況では疑問が残る。

英調査会社オックスフォード・エコノミクスのリードエコノミスト、トミー・ウー氏は「4月までの金融統計を見てみると、すでに様々な刺激策が実施されているにもかかわらず、需要低迷の影響で貸出残高の伸び率はまだ比較的低調だ」と指摘する。「企業は明らかに借り入れを増やしたがっていない」

不動産市場に関する統計には、経済活動をてこ入れすることの困難さが表れている。中国政府は15日、1軒目の購入者を対象に住宅ローン金利の下限を4.6%から4.4%に引き下げた。だが、4月の住宅販売は床面積ベースで前年同月に比べて42%落ち込んだ。2年前にコロナ禍が始まって以来、最大の減少幅だ。

住宅ローン金利の引き下げに加え、中国人民銀行(中央銀行)は4月25日、預金準備率を0.25~0.5ポイント下げた。だが人民銀の動きは一貫して慎重だった。

スイスのプライベートバンク大手ユニオン・バンケール・プリベ(UBP)のアジアエコノミスト、カルロス・カサノバ氏は「実体経済に効果をもたらし、金利引き下げが景気に反映されると確信できない限り、人民銀はより強力な支援策を実施しないとみられる」と解説する。

飲食料品や医薬品など販売増はわずか

4月の小売売上高では、商品購入全般が10%減少したのに対し、飲食業では23%と落ち込みが激しかった。消費項目別で前年同月と比べて増加したのは食料、飲料、石油、医薬品のみだった。一方、自動車は31.6%と最も大きく減少した。

上海市自動車販売業協会によれば、4月は上海市内の新車販売台数がゼロだった。上海市内全域のロックダウンは約7週間続いている。

一方、4月には失業率が20年の初頭以降で初めて6%を超え、消費意欲をさらに冷え込ませている。オランダ金融大手INGの中華圏担当チーフエコノミスト、アイリス・パン氏は、国有企業が雇用を増やす可能性を指摘する。「複数回のロックダウンを乗り越えた民間企業には、そのような余裕はもうない」

中国政府は3月、1.5兆元の増値税(付加価値税)を年内に還付すると表明した。9割は零細企業に還付される見込み。一部地域では消費クーポン券の配布などの財政措置も取られる。だがオックスフォード・エコノミクスのウー氏は、先に人々が消費する必要があるため、政府が取りうる手段は限られると指摘する。

「このような状況では、人々はそもそも消費したがらない」とウー氏は説明する。「新型コロナに対する警戒で心理が冷え込み、労働市場は低調で、収入の見通しが好ましくない状況では、何をしようと景気回復は非常に難しい」

封鎖緩和でも根強い消費者の不安

その代わりに、大規模な感染防止策を取る中国政府にとっては、コロナ対策をどうするかが最大の政治的手段になっている。とはいえ、ワクチン未接種の高齢者が多いなかで、あくまで感染拡大を収束させる方針を押し通してきた政府としては、コロナ対策の緩和は政治的な賭けになる。

「もし上海市でロックダウンが緩和されれば、必ず6月には繰り延べ需要の影響だけで消費の回復がみられるだろう」とカサノバ氏は予測する。ただし、緩和されたとしても「消費ブーム」になるとは考えられないという。

今もロックダウンで閉じ込められている冒頭のウーさんは、制限が解除されたときのために買いたい物をリストに書き出した。しかし、あまりに不安感が強く、どんな消費衝動も2、3日しか続かないという。

「ロックダウン中に給与が3分の1もカットされた」とウーさんは打ち明ける。「この経済的な不安は簡単には消えないだろう」

By Thomas Hale and Andy Lin

(2022年5月18日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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