[FT]高まるイタリアの存在感 対ロシア、ドイツと対照

[FT]高まるイタリアの存在感 対ロシア、ドイツと対照
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB164LR0W2A510C2000000/

 ※ トットと「一抜け」した、英国が、「高みの見物」しているように感じるのは、オレだけか…。

『国を率いている人物によって、これほど大きく変わるものなのか。ドイツとイタリアの指導者は、ロシアへの依存と決別するため、それぞれ対照的な対応を示した。

ドラギ氏はイタリア国民に「平和」と「エアコン」のどちらかを選ぶ必要があると告げた=ロイター

ドイツのショルツ首相とイタリアのドラギ首相は、ロシアのウクライナ侵攻によって拍車がかかった欧州連合(EU)の劇的な外交政策転換の最前線に立たされている。

ユーロ圏で経済規模が1位のドイツ、3位のイタリアはロシアからのエネルギー輸入に大きく依存している。ショルツ、ドラギ両氏の前任者はロシアのプーチン大統領との融和を模索し、経済的な絆を育んだ。

こうした関係の断絶は両国に、大半のEU諸国と比べて大きなダメージをもたらす。だが、ショルツ、ドラギ両氏はロシアとの決別という同じ道のりを歩んでいるものの、一方は迷い、もう一方は決然としている。そして、この違いはEU内の勢力バランスにも影響を及ぼそうとしている。

大局観のドラギ氏、状況対応のショルツ氏

ショルツ氏の慎重なアプローチは行動をためらっているように見えた。ドイツとロシアを結ぶガスパイプライン計画「ノルドストリーム2」の凍結からロシア産の石炭と石油に対するEUの禁輸措置に至るまで、同氏はまず抵抗してから譲歩した。

ドイツ軍を複数年かけて近代化する総額1000億ユーロ(約13兆円)に上る計画を打ち出したが、より切迫した問題であるウクライナへの重兵器の供与をためらったことが大きく影を落とした。

独誌シュピーゲルのインタビューで重兵器の供与は核使用のリスクを一層高めると強調したかと思ったら、数日後には対空戦車を送ることを決めた。

一方イタリアでは、ドラギ氏がイタリア国民に「平和」と「エアコン」のどちらかを選ぶ必要があると告げ、同国主要紙コリエレ・デラ・セラのインタビューで、プーチン氏とは外交を通じた問題解決は難しいのではないかとの思いを打ち明けた。

EUの対ロシア制裁についてはより厳しい措置を取るべきだとし、ロシア政府に流れ込む天然ガス収入を減らすために価格上限を設定することを提案した。欧州議会での演説では、「現実的な連邦主義」なるものを達成すべくEUを抜本的に改革する青写真を提唱した。

欧州外交問題評議会(ECFR)パリ支局のシニアフェロー、スージー・デニソン氏は「ドラギ氏がこの危機においてEUが果たすべき役割を大局的に分析、実行に移そうとしているのに対して、ショルツ氏は現状をうまく乗り切ろうとしている」と話す。

デニソン氏の同僚でベルリン在勤のヤナ・プグリエリン氏は「ドラギ氏はウクライナが民主主義と自由のために戦っている、ということを訴えている。一方のショルツ氏はウクライナ侵攻がEUに及ぼすリスクを強調している」と補足する。

平和主義を覆さなければいけないドイツ

どちらの首脳もイデオロギーが異なる政党で構成される連立政権を率いているが、ドラギ氏は国外での名声と国内での人気に助けられている。デニソン氏は、ドラギ氏の方が「1段上のレベルにいる」と指摘する。

欧州中央銀行(ECB)前総裁で、首相再選を目指す願望がない74歳のドラギ氏は「(制約から)解放された男」だ。

イタリアの元首相で現在は中道左派の民主党を率いるレッタ党首によると、さらなるロシア制裁という困難な道筋をイタリアの有権者に受け入れてもらうため、ドラギ氏は10年前に勝ち取った「ユーロ圏の救世主」としての自身の威光を利用しているという。

一方、昨年12月に長期政権を率いたメルケル首相の後を継いだショルツ氏は、より大きな外交政策の転換にも対処しなければならないとデニソン氏は指摘する。

「イタリアのほうがどちらかといえばロシアびいきだったが、ショルツ氏はメルケル時代から続いてきたロシアとの親交だけでなく、ドイツが第2次世界大戦後進めてきた平和主義の伝統も覆さなければいけないという試練に直面している」

確かに、ドラギ氏の果断な態度をもってしても、イタリア国内の親ロ感情や北大西洋条約機構(NATO)に反発する感情を完全には抑え込めていない。

レッタ氏は、マッタレッラ大統領と民主党を別にすると、残るイタリアの政治家は親EUで米国を重視する大西洋主義のドラギ氏の世界観に対して「微妙に異なる見解を示しているか反対している」と話す。

さらに「今のところプーチン氏が悪者だという話になっているが、このイタリア国民のプーチン氏への見方が変わろうものなら、ドラギ氏と異なる意見の人たちが騒動を起こすかもしれない」との見方を示した。その場合、ウクライナを助けるためにどれほど犠牲を払う覚悟があるか、まだ決めかねている国民の心を動かす可能性がある。

それでも、ロシアに弱みを握られている状況から強気な立場に転じることができたドラギ氏の積極性と、それをなかなか実現できないショルツ氏の消極性が、EU内での力関係を変えている、とデニソン氏は言う。

さらに、イタリアなど南欧諸国は約10年前、放漫財政とそれがEUに及ぼす危険について北欧諸国から非難されたが、ウクライナ侵攻をめぐる対応では大方の予想をよい意味で裏切ったと、デニソン氏は語った。

その例として、ウクライナからの避難民を南欧諸国や周縁国が積極的に受け入れたり、あるいはロシアがブルガリアへのガス供給を停止した後にギリシャが支援の手を差し伸べたりするなど、他のEU加盟国への連帯を示したことを引き合いに出す。

エネルギー調達先、多様化しやすい南欧

今回の危機では、地政学が南欧諸国に有利に働いているとレッタ氏は指摘する。地中海に近いことは、シリアとリビアからの難民危機の際には問題となったが、今はアルジェリアや中東などエネルギーの調達先を多様化しやすいことを意味する。

ショルツ氏が多くの障害を乗り越えようとするなか、ドイツ国民の声がまとまっていないことが今後EUを運営する上で障害となる可能性がある。

例えばデニソン氏は、EUが気候変動対策の目標を達成しながら新たなエネルギー供給体制を構築するための議論で、ドイツの存在感が急速に乏しくなっている点を指摘する。

「これをかなり懸念している。犠牲を払わなければならないなか、欧州の有権者は力強いリーダーシップと明確な道筋を必要としているからだ」

By Anne-Sylvaine Chassany

(2022年5月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

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伊藤さゆり
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事
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ひとこと解説

コラムはウクライナ危機対応に関するものだが、コロナ禍対応も、ドラギ首相率いるイタリアは良い意味で期待を裏切った。

イタリアは欧州で最初に感染が爆発し、観光業への依存が高いため、行動制限の打撃が大きいが、財政事情が厳しく十分な政策対応ができず、長く傷跡が残ると見られた。債務危機再燃も危ぶまれた。

しかし、結果として厳しい規制とEUが用意した枠組みなどを活用した大胆な政策支援でコロナ禍を乗り切り、GDPは10〜12月期にコロナ前の水準を回復した。

イタリアは、EUが創設した復興基金から融資も含め最大の金額を受け取る。ドラギ氏の信用力とドラギ氏が選んだ経済閣僚らの手腕がなければ実現しなかっただろう。

2022年5月18日 9:32

鈴木一人のアバター
鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察

もう一つ大きなポイントは、ドラギがイタリアの政党政治の混乱の中から生まれたテクノクラートの政権であるのに対し、ショルツは16年にわたる連立政権を率いたメルケルの後を襲い、政治的な駆け引きの中で生まれた政党政治の申し子であるというところ。

そのため、世論に対する執着や政党を率い、地方選挙などへの影響を意識しなければならない、という環境に置かれている。ゆえにドラギの方が思い切った対応ができる。

2022年5月18日 10:39 』