新たな段階に入ったプーチンの戦争 占領地のロシア化とウクライナ軍の反攻

新たな段階に入ったプーチンの戦争 占領地のロシア化とウクライナ軍の反攻
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/468464.html

『2022年05月17日 (火)
石川 一洋 解説委員

プーチン大統領による理不尽なウクライナへの侵略から3ヶ月近くが過ぎました。中立を保ってきたフィンランドとスウェーデンがNATO加盟申請を正式に決定したのに対してプーチン大統領は同盟国の首脳会議をモスクワで開催しました。

一方戦場では、ロシアは占領地のロシア編入の動きを進めています。しかしウクライナ軍が北東部を中心に反攻の動きを強め戦闘は新たな段階に入りました。長期化の様相を強める“プーチンの戦争“について現状と見通しを解説します。

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プーチン大統領は16日、NATO拡大の動きの中でベラルーシなど同盟国とCSTO集団安全保障条約機構の首脳会議をモスクワのクレムリンで開催しました。プーチン大統領は、 NATO拡大はアメリカが主導しているとしてアメリカを強く非難しました。

「NATOの拡大は、アメリカの外交的な利益のために行われている。アメリカはNATOを外交政策の道具として執拗に極めて攻撃的にそして巧みに利用している」

ただプーチン大統領は、軍事施設の拡大には対抗策を取るとしつつフィンランド、スウェーデンとは対立点は無く、加盟そのものは脅威ではないとして、一応冷静な立場を示しました。NATOとロシアの直接の軍事衝突が起こるのではという同盟国の懸念を払しょくしようとしたのでしょう。

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要衝マリウポリではロシアの完全掌握に向けて大きな動きがありました。製鉄所アゾフスターリの地下に立て篭もるアゾフ大隊についてウクライナ参謀本部は戦闘任務が終了した発表、ロシア国防省は負傷兵を含む兵士265人が工場を出てロシア側の管理する病院などに移送され投降したとしています。

ロシアの動きで際立つのは、占領した地域で、ロシア編入に向けたロシア化を進めていることです。

私が注目したのは、ロシア大統領府のキリエンコ第一副長官と与党統一ロシアのトゥルチャク総評議会書紀の2人がしばしばマリウポリやヘルソンなど占領地を訪れていることです。

キリエンコ氏は大統領府の内政の責任者、トゥルチャク氏は与党統一ロシアの選挙など実務を取り仕切る責任者で、プーチン体制の内政を取り仕切る鍵となる政治家です。

選挙や地方の人事、プロパガンダの方向性などを行政と与党のラインで実際に動かしているのはこの2人です。

5月9日の対独戦勝記念日も占領地でのロシア化に利用しています。占領した地域で、第二次大戦に参加した退役軍人への一時金を支給すると発表したり、ロシア国籍も希望者には認めたりするとしています。占領地の政治的、行政的、経済的なロシアとの結びつきを強めようとしています。

トゥルチャク総評議会書記の「我々がここから去らないと断言する」という発言にみられるように、占領地の一方的なロシアへの編入を狙っていることを今や隠していません。

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ロシアが東南部の占領地の一方的なロシアへの編入を急ぐのは、軍事的な理由もあるとアメリカのシンクタンク戦争研究所は指摘しています。

それによりますとプーチン大統領は、「占領地についてもロシア領に編入することで、攻撃に対して核使用を許す軍事ドクトリンの対象とする」と明らかにする可能性があるとしています。

つまりロシア領に一方的に編入することで、占領地をロシアの核抑止力でカバーして、ウクライナの反攻と奪還の試みを防ぐおそれがあるとしているのです。プーチン大統領はロシア軍苦戦の中で今の占領地の確保に手を打っているようにみえます。

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ここで注目されるのは、CSTO集団安全保障条約機構の立場です。

集団安全保障条約は、もしも加盟国の領土が攻撃された場合、国連憲章に定められた集団的自衛権を行使することができるとしています。

今後、ロシアのウクライナ侵攻で、集団的自衛権を発動するかどうか、一つの焦点となります。明確なのは、ロシアのウクライナ領への軍事侵攻であり、これは集団的自衛権発動の条件とはなりません。

ただウクライナがハルキウ周辺でロシア軍を国境まで押し戻し、ロシア領を逆に攻撃することも可能性としては考えられます。

また占領地のロシア領への編入を集団安全保障機構が認めれば占領地への攻撃をロシア領への攻撃とみなす可能性もあります。

しかしウクライナについては首脳会議では足並みの乱れが明らかになりました。

冒頭発言でウクライナ侵攻について触れ、ロシア支持を訴えたのはベラルーシのルカシェンコ大統領のみで、他の首脳は全く触れませんでした。

一方プーチン大統領はウクライナ軍事侵攻の状況について非公開の場で詳細に説明したとする一方、同盟国からの軍事支援など直接の参加は議題とならなかったとしています。

ロシアを支持するベラルーシの立場は微妙ですが、他の加盟国は直接の参加は全く考えていないものとみられます。

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占領地のロシア化にウクライナは激しく反発して、必ず解放するとしています。また占領地の住民はロシアへの敵意を隠していません。

NHKの取材に対してヘルソン州に住む住民は、匿名で「ひどい国には絶対に編入されないし、ロシアに対して友好的になりたくもない。われわれは降伏しないし、ロシア側に行くことはない」と憤りをあらわにしました。

またヘルソンを訪れたロシアのジャーナリストも「カフェに入ったら敵意に満ちた目で見られた」と自分のFBに投稿し、ロシアの占領に敵意を持つ人が多数であることを認めています。ロシアの一方的な編入は、国際的にもまた地域の住民からも認められることはないでしょう。

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さてロシアの侵略に対してウクライナは反転攻勢を強めています。

特に2月から包囲されてきたウクライナ第二の都市のハルキウでは、ロシア国境に向けてウクライナ軍が占領されてきた村の解放を進めています。

イギリスの国防省はハルキウ周辺ではウクライナ軍が勝利したと分析しています。

またドンバスでもアメリカから提供された榴弾砲などを使い、ロシア軍の地上部隊に大きな損害も与えています。NATOのストルテンベルグ事務総長はウクライナ軍が勝つ可能性も出てきたとして、さらなる軍事支援を強める方針です。

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ウクライナ軍がここにきて反転攻勢の動きを示しているのは、

▲欧米各国から最新鋭の兵器が提供されるとともにロシア軍の動きなどを即時に共有するインテリジェンス面での協力が効果を上げていること、

▲戦車など伝統的な重火器を中心として前進を図るロシア軍に対して、少人数で遊撃的に攻撃するウクライナ軍の戦術が有効であること。

▲軍だけでなく国土防衛隊など住民が志願した軍事組織を含めてウクライナ軍が住民の支持を受けて戦意が高いのに対して、侵略軍のロシアは将校を含めて戦意やモラルの低下が見られることなどが要因としてあげられています。

国土防衛に対するウクライナの強い決意が反転攻勢を支える一番の要因でしょう。

 ただドンバスの決戦の行方は予断を許しません。

ロシア軍とウクライナ軍との間で、一つ一つの拠点を巡り凄惨な戦闘が続いています。

ロシアと親ロシア派の武装勢力の攻撃も各地で続き、掌握された町村もあります。

ドンバスの戦いが今後の戦局を大きく左右するでしょう。停戦交渉は事実上停止し、戦争は長期化の様相を示しています。

ドンバスでは住民がどのような状況に置かれているのか、情報がほとんど入ってこないだけに、住民の犠牲がさらに増えるのではないか、ウクライナの悲劇が続いています。

プーチン大統領は戦勝記念日の演説で、今のウクライナでの戦争をナチスドイツから祖国を防衛する戦いとなった第二次大戦と重ね合わせました。

しかし今、ロシアは第二次大戦とは真逆の侵略する立場であり、ウクライナの側こそ祖国を守る戦いです。理不尽で、同時に不名誉な戦争からできるだけ早く撤退することこそプーチン大統領にとって残された道のように思います。

(石川 一洋 解説委員) 』