世界景気、物価高で減速 日米欧の成長下振れ

世界景気、物価高で減速 日米欧の成長下振れ
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『世界景気の減速懸念が強まっている。ロシアのウクライナ侵攻で拍車がかかる物価高が重荷となり、新型コロナウイルス禍からの回復シナリオは見直しを迫られる。日米欧とも1~3月の成長率が低下し、4~6月期以降の見通しも下方修正が相次ぐ。中国のゼロコロナ政策が供給網の混乱要因となり、米国の利上げが金融市場の火種になるリスクもくすぶる。

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コロナワクチンの普及や行動制限の緩和で各国経済は正常化が進んできた。2月のロシアによる侵攻は、その流れを断ちかねないショックだった。

主要国・地域の1~3月期の実質国内総生産(GDP)は回復の鈍化が鮮明になった。米国は感染拡大当初の2020年4~6月期以来、日本は2四半期ぶりのマイナス成長に沈んだ。ユーロ圏や中国も伸び率が縮んだ。

欧州最大の経済大国ドイツではロシアからのパイプラインを通じたガス輸送が全面的に止まる懸念が強まっている。無視できないのがドイツ経済を支える製造業だ。ガス輸入の3~4割をロシアに依存しており、化学や鉄鋼などは工場の生産停止に追い込まれかねない。

欧州委員会が16日公表した最新の経済見通しによると、ユーロ圏の22年の実質成長率は天然ガスの調達が不安定になった場合に2%以上押し下げられる。ドイツ銀行協会のゼービング会長(ドイツ銀行最高経営責任者)は4月、ロシアからのガス・石油の供給が止まれば「独経済は深刻な景気後退に陥る」との見方を示した。

かねて世界経済の不安要因と指摘されてきた中国のゼロコロナ政策のリスクも顕在化している。上海の都市封鎖(ロックダウン)で4月の中国の統計指標は軒並み悪化した。工業生産は前年同月比2.9%減り、社会消費品小売総額(小売売上高)は11.1%も落ち込んだ。

上海の封鎖が今後解除されても、ゼロコロナ政策が続く限り、感染状況次第で他の都市の封鎖に動く可能性は消えない。08年のリーマン危機の後に世界経済を支えた中国は今、むしろ波乱の種だ。

「世界の工場」である中国の変調は各国に波及する。トヨタ自動車は部品不足などで5月16~21日に国内8工場14ラインを停止し、5月の世界生産計画75万台から70万台程度に見直す。先進国の需要回復にもかかわらず、供給網の混乱から日本の鉱工業生産指数は19年の水準をなお下回る。

ロシアや中国に端を発する供給不安は、世界を覆う物価上昇圧力を高め、内需の柱の個人消費にブレーキをかける。経済協力開発機構(OECD)がまとめた4月の消費者信頼感指数を21年12月と比べると、英国が5.7ポイント低下するなど欧州の落ち込みが目立つ。

イングランド銀行(中央銀行)はインフレによって22年の家計の実質所得が前年より1.75%縮むと予測する。この通りなら統計を遡れる1964年以来で過去2番目の減少率になる。ベイリー総裁は「多くの市民とりわけ低所得層に困難をもたらす」と懸念する。

旺盛な需要がけん引する米景気もインフレが影を落とす。米ミシガン大学が13日発表した5月の消費者態度指数は前月比6.1ポイント下がり、10年9カ月ぶりの低水準に落ち込んだ。米ウェルズ・ファーゴ証券のシニアエコノミスト、ティム・クインラン氏は「消費者に明るい材料を見いだすのが難しい」と指摘する。

物価と金利の連鎖的な上昇はとりわけ住宅市場への逆風となる。米市場の9割を占める中古の販売件数は3月、前月比3%減の577万戸(年率換算)となった。厳しい移動制限で販売が急減していた20年6月以来の低水準となった。米抵当銀行協会(MBA)によると、新規購入向け住宅ローンの週間申請件数は前年同期比10%前後の減少で推移する。

コロナ後の経済の持ち直しの基調が崩れたわけではない。米ゴールドマン・サックスが14日まとめた4~6月期の米GDPの予測は前期比年率2.5%増。従来比0.4ポイントの下方修正ながら堅調な数字だ。

17日発表の4月の米小売売上高は前月比0.9%増と高インフレの下で4カ月連続で伸びた。セントルイス連銀のブラード総裁は「23年くらいまで消費は強い」とみる。本格的な景気悪化には至らないとの声が市場には多い。米失業率は足元で3.6%。半世紀ぶりの低水準だったコロナ前の3.5%に近づく。日本も4~6月期は行動制限緩和などでプラス成長に戻るとみられている。

今後の世界経済の回復シナリオを左右する大きな材料は米金融政策だ。米国が利上げを急げば緩和マネーの収縮ペースが速まり、金融市場の混乱要因になる。既に新興国の株価指数は22年に入って13%落ち込んでいる。ドル高が進むと、ドル建ての債務を抱える新興国や途上国の負担も増す。

インフレ下で景気の底割れを防ぐカギは国際協調だ。「我々は輸出に関するいかなる不当な制限措置もとらないようにする」。主要7カ国(G7)の農相は14日、食料価格の高騰をけん制する共同声明を採択した。

その陰で同日、インドが小麦の輸出停止を発表した。「国内の食料価格を抑制し、食料安全保障を強める」。先進国が中心の国際秩序は限界も透けてみえる。世界景気が安定した回復軌道に戻れるかはなお見通せない。

(ベルリン=南毅郎、ロンドン=篠崎健太、ニューヨーク=大島有美子、マクロ経済エディター 松尾洋平)

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永浜利広
第一生命経済研究所 首席エコノミスト
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ひとこと解説

日米とも1-3月期はマイナス成長となりましたが、詳細を見ると、全く状況が異なります。

というのも、米国は個人消費をはじめ内需が旺盛な中で、外需や民間在庫の大幅押下げによりマイナス成長となっていることから、完全に需要が旺盛な中での供給不足によるマイナス成長です。

一方の日本は、行動制限で個人消費が低迷する中で民間在庫もプラス寄与となっていることから、完全に需要不足によるマイナス成長です。

こうしたことからすれば、景気過熱の米FRBが金融を引き締める一方で、景気低迷から日銀が金融緩和を続けることでドル高円安となるのは自然な結果といえるでしょう。

2022年5月19日 8:27 (2022年5月19日 8:28更新)

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田中道昭
立教大学ビジネススクール 教授
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ひとこと解説

世界全体のGDPの約4分の1を占める米国経済。

1-3期は前期比年率▲1.4%だった一方、その主因は輸入急増と輸出減少や民間在庫の伸び鈍化によるもの。

米国経済の約7割を占める個人消費は+2.7%、住宅投資も+2.1%と堅調でした。

その一方、4月までを含んだ今週の小売企業決算では消費鈍化を示す数値が頻発、昨日発表4月住宅着工・建設許可も減少に転じました。

同数値は景気先行指標です。ウォルマート決算でマクミロンCEOは(米国での景気指標である)ガソリンがガロン当り4ドルを超える状況では当社のワンストップ購買の優位性は高まると発言、実際には同社も原油価格高騰の影響を受けています。2Qがより懸念されます。

2022年5月19日 6:58 』