米主導の新経済枠組み、日本で発足 中国対抗へハードル

米主導の新経済枠組み、日本で発足 中国対抗へハードル
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN17E0C0X10C22A5000000/

『バイデン米政権は17日、新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を5月下旬に日本で発足させると表明した。サプライチェーン(供給網)やデジタルで緩やかな連携をめざす。アジア各国が求める市場開放には踏み込まず、中国に対抗する経済圏を築くにはハードルが高い。

レモンド商務長官が同日の記者会見で明らかにした。バイデン大統領は韓国と日本を訪れ、23日に岸田文雄首相と会談する。レモンド氏も大統領に同行し、日本でIPEF発足を宣言する。24日には日米豪印の「Quad(クアッド)」で首脳会議を開く。

レモンド氏はIPEF発足の理由について「米国がもっと存在感を出し、明確な経済戦略を持つようインド太平洋の国々から求められた」と説明した。「(トランプ)前政権がこの地域に関与せずに生じた空白を、我々が埋める必要がある」と強調した。

IPEFは、環太平洋経済連携協定(TPP)に復帰できないバイデン政権がTPPの代わりに苦肉の策として打ち出した枠組みだ。

具体的には

①貿易
②供給網
③インフラ・脱炭素
④税・反汚職

――の4分野で構成し、それぞれで政府間協定を結ぶ交渉を始める。日本のほか、韓国やオーストラリア、ニュージーランド、シンガポールなどが参加する見通しだ。分野ごとに参加国は異なる。

米通商代表部(USTR)高官によると、貿易の分野ではデジタル、労働、環境で新たなルールを設ける。企業にサーバーの設置義務を課しデータを自国内に保存させる「データローカライゼーション」規制の緩和などを決める。

供給網では、半導体などの戦略物資について在庫や生産能力といった情報を共有する体制を整える。災害など有事に速やかに協力できるようにする。

インフラでは中国の広域経済圏構想「一帯一路」に対抗し、低利融資などの支援策をまとめる。

バイデン政権は、関税の削減には踏み込まないと明言する。支持基盤の労働組合や与党・民主党の左派は「市場を開放すれば米国人の雇用が流出する」と警戒し、TPPのような自由貿易協定(FTA)を敵視するからだ。

市場開放という魅力に欠けるIPEFに、東南アジア各国をいかに巻き込むかが課題になる。米国が求める高水準のルールを受け入れる代わりに、得られる経済的な利益が乏しいからだ。

岸田文雄首相はバイデン氏との会談でIPEF参加の意向を伝える見通しだ。

5月上旬に訪米した萩生田光一経済産業相はレモンド氏に「スタートありきではなく、どれだけ多くの国々が趣旨に賛同するかが大事だ」と伝えた。日本は「多くの国が内容に意見が言える環境が必要だ」と水面下で繰り返し訴えてきた。

日本側は米国のインド太平洋への関与を引き出しながら、将来のTPP復帰に期待する。

インド太平洋の経済秩序における主導権争いは激しい。中国は、日本やオーストラリアなど多くの国の最大輸出先だ。中国はTPPへの加盟を申請し、日中韓が加わる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)も発効した。

米ケイトー研究所のコリン・グラボウ氏はIPEFについて「米国は片腕を自ら縛ったまま、中国と影響力を競うようなものだ」と指摘する。

実効性を持たせられるかも焦点だ。各国議会の承認が必要な貿易協定ではないため、米国で政権が代われば立ち消えになる可能性がある。米国内では「IPEFは紳士協定のような形になるだろう」(米通商関係者)との見方が根強い。

バイデン政権の経済政策は2国間の対中政策をいまだに策定しておらず、IPEFの位置づけが曖昧だ。対中姿勢が定まらないまま、IPEFは見切り発車する形になる。

(ワシントン=鳳山太成、加藤晶也)
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青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
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ひとこと解説

このタイミングでのIPEFの発足は、アメリカや日本にとって大きな追い風となっています。

中国はゼロコロナ政策による操業リスクが改めて浮き彫りとなり、また経済成長も大きく落ち込むことが予想されています。

IPEFの成否はASEAN諸国の動向に左右されるといっても過言ではありませんが、ASEANとの関係を促進するうえで日本に期待される役割は大きいと言えましょう。

2022年5月18日 12:40 』