米銀、遠いロシア「全面撤退」 債権・事業の売却難しく

米銀、遠いロシア「全面撤退」 債権・事業の売却難しく
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『米国の大手銀行が銀行免許返上などロシアからの全面撤退に踏み込めないでいる。ロシアのウクライナ侵攻を受け、各行は3月に段階的な事業縮小を公表したが、既存顧客との融資・サービス契約が残っているほか、ローン債権や事業の売却先を探すのも難しい。風当たりは強まりかねない。

「ロンドン―モスクワ便はいつも金融関係者で満席だった」。米シティグループのウクライナ拠点で責任者を務め、モスクワ勤務経験もあるスティーブン・フィッシャー氏は原油価格の上昇で1998年の債務危機から立ち直りつつあった2000年代初頭の対ロ投資の熱気を振り返る。

企業財務の透明性や法の支配の向上など投資家がマネーを振り向けやすい状況が整備され、米欧銀は政府機関やエネルギー・資源関連の新興財閥との取引を拡大させた。米政府が「プーチン大統領の裏金」とみなす政府系ファンド「ロシア直接投資基金」にも当初、ウォール街は関与した。

ところがロシアによる14年のクリミア半島併合、今回のウクライナ侵攻で状況は一変した。米欧は厳しい制裁でロシア政府や企業を西側の資本市場から締め出そうとしている。米銀各行は3月、新規案件停止や投融資残高の縮小方針を公表した。もはや米銀がロシアで収益機会をみつけるのは困難といえる。

シティ、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカは22年1~3月期の決算発表で、ロシア関連の引当金を計上した。シティは即時撤退を迫られるなど「深刻なシナリオ」で最大30億ドル(約3840億円)の損失が発生すると見積もる。同社の自己資本で十分吸収できる規模とはいえ、同四半期の純利益額(43億ドル)に迫る。

それでも各行は全面撤退に踏み切ろうとはしていない。JPモルガンが4月13日に開いたメディアとの電話会議。ジェレミー・バーナム最高財務責任者(CFO)は銀行免許を返上する可能性について問われると「現時点でまだ計画はない」と答えた。ゴールドマン・サックスも免許をすぐに手放す考えはないようだ。

焦点はロシア企業に対する既存融資の扱いだ。仮に銀行免許を返上し、契約途中で融資を打ち切れば、訴訟のリスクがある。残存ローン債権をヘッジファンドや投資会社に売却しようとしても、現時点では買い手をみつけにくい。シティやJPモルガンは機関投資家の株式や債券を保管する業務を手掛けている。顧客との契約上、証券の保管義務を放棄できない。

事業の切り離しも難しい。シティは侵攻前からロシアのリテール業務を売却しようとしていた。ところが買い手候補だったロシアのVTB銀行が米国の制裁対象となった。マーク・メイソンCFOは4月14日、「制裁や規制の行方は誰にも分からない」と述べ、具体的な売却時期を示さなかった。

結局、現時点では全面撤退まで踏み込まず、段階的に事業を縮小する戦略をとらざるを得ない。中途半端な戦略はもろ刃の剣といえる。ロシアでの銀行免許を維持していれば、仮に西側による制裁解除が実現した場合、事業を再建しやすい。現実には、侵攻が長期化しており非難は避けられない。

「あなた方の取引がプーチン政権にどのような利益をもたらすのか、ロシアのウクライナ侵攻でどのように利益を得ているのかについての情報を求めている」。米与党・民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員らは10日、ゴールドマンとJPモルガンの最高経営責任者(CEO)宛てに、質問状を送った。3月、両行が値下がりしたロシア社債を買い集めていると報じられたためだ。

ゴールドマンは投機目的の社債購入を否定するが、「強欲」イメージが根強いウォール街は、民主党左派の攻撃対象になりやすい。ロシア事業に関連した損失は、銀行財務面への影響が軽微だったとしても、間接的にでもプーチン体制を支えているとみなされれば、評判を落とすリスクは残る。

(ニューヨーク=宮本岳則)』