東欧、防衛装備の更新急ぐ 軍事企業は増産体制に

東欧、防衛装備の更新急ぐ 軍事企業は増産体制に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB263YP0W2A420C2000000/

『【タリン=細川倫太郎、ヒューストン=花房良祐】東欧各国が防衛装備の更新を急いでいる。保有していた旧ソ連製の戦車などをウクライナ支援として供与する代わりに、米国や西欧諸国の協力を得て新型兵器などの配備を進める。米欧各国はウクライナへの武器供与も続ける方針で、軍事関連企業は増産体制に入った。

バルト3国の一つ、エストニアのメディアによると、同国はロシアの侵攻が始まってから、ウクライナに旧ソ連製のりゅう弾砲など総額2億3000万ユーロ(約310億円)以上の軍事支援をしてきた。

エストニア軍幹部は12日、首都タリンで日本経済新聞などの取材に寄付できる旧ソ連製の武器は残っていないと説明した。そのうえで、「我々は西側の武器にシフトしている。大きな結束を感じている」と強調した。同国は多連装ロケット砲(MLRS)や機雷などを調達し、装備を大幅に拡充する方針だ。

ポーランドのモラウィエツキ首相は4月下旬、ウクライナに同国の戦車を送ったと明らかにした。同国メディアによると、200両以上の旧ソ連製戦車「T72」を供与した。英国防省はその穴埋めとして、英国製「チャレンジャー2」を展開すると公表した。

ポーランドは既に米国との間でM1A2エイブラムス戦車250両を47.5億ドル(約6200億円)で購入する契約で合意した。国防費支出を国内総生産(GDP)比で2021年の約2%から23年には3%に引き上げる。

ウクライナは米欧などに武器供与を求めるなかで、自軍が取り扱い方法がわかっている旧ソ連製の戦車などを要望している。旧ソ連製の武器は東欧諸国に残っていることが多く、これらをウクライナに供与する代わりに、東欧の防衛力が落ちないように米国や西欧諸国が代替品を融通・配備する手法がとられている。

スロバキアはウクライナに旧ソ連製の地対空ミサイル「S300」を提供した代わりに米国からパトリオットの配備を受けた。ロイター通信によると、ヘゲル首相はさらに旧ソ連製の戦闘機「ミグ29」もウクライナに供与することも検討している。ポーランドも一時検討したが、実現しなかった経緯がある。

東欧諸国が防衛装備の強化を急ぐ背景には、ウクライナに侵攻するロシアの脅威が自国にも迫っているためだ。ロシア軍は5月上旬、バルト海沿岸の飛び地カリーニングラード州で、核弾頭を搭載できる短距離弾道ミサイルの模擬訓練を実施した。

米国はウクライナなどへの兵器の貸し出しを迅速にする「武器貸与法」を復活させた。同法は武器貸与について必要な手続きを大幅に省く効果がある。東欧諸国にも新法を適用し、東欧防衛の強化にも役立てる。

中長期的に武器の需要は拡大するとみて、軍事関連企業は生産を拡大する。

米防衛大手ロッキード・マーチンは携行型の対戦車砲「ジャベリン」の生産能力を2倍の年4000基に増やす。同業のレイセオン・テクノロジーズも地対空砲「スティンガー」を増産する。欧米がウクライナに供与したジャベリンとスティンガーは大きな威力を発揮し、ロシア軍の車両などを大量に破壊している。

バイデン米大統領は5月上旬、ジャベリンを生産する南部アラバマ州のロッキード工場を視察し、「(この工場の従業員は)ウクライナを防衛しており、ロシア軍を(世界中の)笑いものにした」と激励した。

ロッキード・マーチンの13日時点の株価はロシアのウクライナ侵攻前の2月23日に比べ約12%、英航空・防衛大手BAEシステムズは同約23%それぞれ上昇した。同じ期間でS&P500種株価指数が下落しているのとは対照的だ。

【関連記事】
・米兵器、対外供給増で逼迫(The Economist)
・米、武器貸与法が成立 ウクライナ支援を迅速に

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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員
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貴重な体験談

私はコロナ禍の前の2018年と2019年に、ポーランドのワルシャワで行われた民間シンクタンクが主催するワルシャワ・セッキュリティ・フォーラムに参加しました。

(2020年と2021年はオンライン開催)パートナーには、ロッキード・マーティン、ノースロップグラマン、レイシオンという米国の防衛産業大手が連なり、これらの企業のブースによる兵器のショーケースもありました。

2018年の参加者には私の米国シンクタンク勤務時代の同僚だったジュリアン・スミスNATO大使もおり、ロシアの脅威に対応するために、東欧諸国が着実に米国との軍事関係を強めてきたことを、今あらためて実感しています。https://warsawsecurityforum.org/partners/
2022年5月16日 8:08

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白井さゆり
慶應義塾大学総合政策学部 教授
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ひとこと解説

ロシアのウクライナ侵攻によって西側の団結は強まった。

第一に、NATOにはフィンランドはスウェーデンが参加を申請しメンバーが拡大し、各国の軍事支出も増えていく見込みだ。

第二に、ロシアからのエネルギー自立をするために欧州は団結して再生エネルギーや水素戦略を強化していくが、エネルギー生産国の米国との連携が高まる可能性がある。

第三に、ウクライナの軍事経済支援のために団結して支援を拡充していく見込みだ。

EUはコロナ危機からの経済回復がまだ途上であるがコロナ危機をきっかけに共通のEU債発行をはじめ域内の復興・グリーン投資を実施している。

さらに共同債を発行し上記の目的を遂行しEUの連帯を強める可能性がある。

2022年5月16日 7:58

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説

米欧によるウクライナへの武器供与が強化されるにつれて、いわば「回転が効いている」状態になり、防衛産業大手の株価が上昇している構図である。

ウクライナ軍が訓練なしに操縦・操作できる旧ソ連製武器の供与を求めたことが、結果的に、NATOに加盟している中東欧諸国の装備の近代化につながることになった。

インドやトルコの事例からもわかるように、他国が製造した兵器を大量に購入すると、それにマッチした弾薬調達や購入した兵器のメンテナンスなどにおいて、その国とのつながりは強くなる(その国との関係を断ち切るのは難しくなる)。

ポーランドやスロバキアなどがロシアにとって従来以上に脅威になるわけで、プーチンの誤算と言える。

2022年5月16日 7:27 』