政権奪還誓うトランプ氏、豪雨集会で見た「信仰」のワケ

政権奪還誓うトランプ氏、豪雨集会で見た「信仰」のワケ
アメリカン・デモクラシー 新たな発火点・現場から
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN102J40Q2A510C2000000/

『バイデン米政権の命運を左右する中間選挙まであと半年に迫り、各地で予備選が本格化している。台風の目はトランプ前大統領だ。オハイオ州で推薦した候補者が逆転勝利し、影響力の強さを示した。2年後の大統領選に向けて存在感を増しつつある。支持者を突き動かすものは何か。6日に米東部ペンシルベニア州グリーンズバーグで開かれた集会に向かった。

「バイデン氏なら誰も来ない」

「この雨だ。バイデン大統領の集会だったら誰も来ないよ」。地元でイベントプロモーターをしているデビッド・ストーニー氏(63)は笑みを浮かべた。足元はぬかるみ、靴はドロドロ。それでも会場になった郊外の公園には続々と支援者の車がやってくる。

「民主党政権になってから、ガソリン価格は倍になった。制裁対象のベネズエラに石油の援助をお願いしようとする始末。このままじゃこの国は本当につぶれる。みんな危機感を感じているんだよ」

トランプ氏がペンシルベニア州で集会を開くのは、前回の大統領選があった2020年以来となる。今回の目的は中間選挙で上院の共和党候補を目指すメフメト・オズ氏の応援だ。「ドクター・オズ」の通称で知られ、健康番組の司会者として有名になった。

共和党内の対抗馬は、世界最大のヘッジファンド、米ブリッジウォーター・アソシエーツの最高経営責任者(CEO)だったデビッド・マコーミック氏だ。両者の人気は共和党内でも拮抗している。なぜオズ氏を推薦したのか。トランプ氏はこれまで明確に語ってこなかった。

会場横にクレーンでつるされた巨大な星条旗をめざして集まる人々は20代から中高年までと幅広い。グッズを売る屋台の店員以外に、アジア系や黒人はほぼ見かけなかった。多くがキャップをかぶり、そこには「MAGA(Make America Great Again、米国を再び偉大に)」や「セカンド・アメンドメント(武器を保有する権利を認めた合衆国憲法修正第2条)」などトランプ氏が堅持するお決まりのスローガンが並ぶ。

会場前にはグッズを売る屋台がずらりと並ぶ(6日、ペンシルベニア州)

「集会に来ている人はみんな人種差別主義者で悪いヤツだって思っているんだろ?」。運送業のマシュー氏(51)が笑って話しかけてきた。「それは主要メディアがつくり上げた姿だ。この国には議論が必要なのに、我々はファシズムのレッテルを貼られて拒絶されている」

支配層への怒り強く

ほとんどの支援者は気さくに取材に応じてくれる。みんな根底にあるのは首都ワシントンや米ニューヨークのウォール街を仕切るエスタブリッシュメント(支配層)への怒りだ。「経済が回復しているなんてウソだ。自分たちはどんどん貧乏になっている」

トランプ氏にはさまざまな疑惑がある。20年の大統領選では明確な証拠を示さないまま自分が勝ったと今も主張し、21年1月6日に起きた米連邦議会議事堂襲撃事件を誘発した責任も認めていない。過激な陰謀論を信じる勢力「Qアノン」もトランプ氏とのつながりが指摘されている。

しかし、支持者らに何を聞いても、長い反論の後「メディアが真実を伝えていない」と口をそろえる。何が起きたかという基本的な事実がかみ合わない。こうしたメディア不信は、バイデン政権下でより根深くなっているのではないかと感じた。

22年4月にはホワイトハウスを取材する主要メディアの記者たちがホテルで夕食会を開き、主賓となったバイデン大統領がジョークを飛ばした。5月にはサキ大統領報道官がテレビ局キャスターに転身する。バイデン政権で復活した政府とメディアの「良好な関係」は、トランプ支持者らの疑念を一段と増幅している。「ワシントンから来た記者」と伝えただけで、グリーンズバーグの会場にいた女性参加者の一人は口もきいてくれなくなった。
実は地元でオズ氏の人気は高くない。「NO OZ(オズはいらない)」と書いたプラカードを掲げた女性に拍手が起き、大画面にオズ氏が映し出されるとブーイングが起きた。理由を聞くと、1人は吐き捨てるようにこう言った。「彼は所詮、セレブだから。なぜトランプ氏が彼を推薦したのかさっぱり分からない」

豪雨のなかでトランプ前大統領の登場を待つ支持者(6日、ペンシルベニア州)

オズ氏の演説が低調に終わり、トランプ氏が登場するまで1時間半。会場は豪雨に見舞われた。隣の人の声も聞こえないような土砂降りの中、観衆はじっと動かない。ようやくマイクチェックが始まると、周囲は異様な熱気に包まれた。

「私が推薦するのは、少し常識外れな人たちばかりなんだ」。登場したトランプ氏はこうオズ氏をからかいながら、マコーミック氏への批判を展開した。「彼はMAGAではない。グローバル化の支持者であり、ワシントンのエスタブリッシュメントの候補者だ。彼はすぐにフェイクニュースに屈するだろう」

ホワイトハウスを取り戻せ

トランプ氏はテレビの世界でのし上がったオズ氏を「(不動産事業で成功した)私と同じだ」と強調した。政治・金融の支配的なコミュニティーに外部から挑んだ自分のイメージを重ね合わせてみせた。エスタブリッシュメントという「共通の敵」を再確認した会場からは次第にオズ氏にも歓声が飛ぶようになった。

お決まりの政権批判を展開して会場を盛り上げて「2024年の大統領選で美しいホワイトハウスを取り戻す」と演説を締めくくったトランプ氏。踊りながら会場を後にする姿を、観衆は大歓声で見送った。

踊りながら会場を去るトランプ前大統領(6日、ペンシルベニア州)

インフレや中絶制限を巡る議論、国境を越えてくる不法移民の問題など、中間選挙の争点は数多い。だが集会のなかで感じたのは、個々の政策を議論する手前の段階で、事実を伝えるはずの主要メディアが信じられていないという事態の難しさだ。そしてそれはおそらく一段と深刻になっている。

暴力を扇動するとしてツイッターを永久追放されたトランプ氏が、2月21日に独自で始めたSNS(交流サイト)サービス「Truth Social(トゥルース・ソーシャル)」。トランプ氏はそのなかで主要メディアや政権への批判を自由に発信し、わずか2カ月半で270万人を超えるフォロワーを得ている。

信じられるものがないから、サイバー空間でつながる。そんな区切られた世界のなかだけで、デモクラシーの根幹である「表現の自由」を実現しようとする彼らの動きは、米社会の新たな発火点を生み出す。亀裂は深まるばかりだ。

(グリーンズバーグで、高見浩輔)

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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員
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トランプ前大統領の政治家としての強さは、支持者の熱狂度が高いことです。そして熱狂的支持者は、マスメディアを信用せず、アメリカの政治とグローバル経済に大きな不信感と反感を持ち、その構造を変えてくれるのはトランプ氏以外にはいない、という信仰に近い確信を持っていることです。

ただし、2016年には、トランプ「信者」の勢いが、共和党全体と無党派にまで広がりましたが、2024年にも同じ現象が起こるのかどうかは、わかりません。

それを占うために、メディアはこの記事のように、共和党の予備選におけるトランプ氏の影響力の行方を注視しています。

2022年5月13日 7:32 (2022年5月13日 8:22更新)

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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米国で根強い「トランプ熱」や「深い分断」を、現地からビビッドに伝えた記事である。
ポイントは、「個々の政策を議論する手前の段階で、事実を伝えるはずの主要メディアが信じられていないという事態」が「おそらく一段と深刻になっている」ということ。

バイデン政権のサキ報道官がキャスターに転身することが「トランプ支持者らの疑念を一段と増幅している」とは驚きである。

人々は世の中の問題を考えす際に、まず情報を入手する。新聞・テレビといった大手の伝統的なマスメディアを信用せず、SNSや偏った内容のメディアに依存して情報をインプットし続ける人々が増えると、対立は先鋭化しやすくなる。米国の民主主義は危機に瀕している。

2022年5月13日 7:56

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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トランプという人について、気まぐれでみるのも嫌なひとと、超チャーミングで大好きで熱烈なファンがいて、両者が対立しやすい。

一期目の4年間を振り返ればわかるように、トランプの思考は飛躍的すぎる。周りの人がついていけない。だから側近の多くは相次いで離れた。

考えが飛躍しあとのことを心配しないので、なかにはよくやるなという正しい政策もある。半面、どうしても理解できない言動も多い。

その一つは北朝鮮との関係。喩えて言えば、トランプは方向感が定まっていない、スピードの速い車のようなもの。ときには道路の上を正しく走るが、ときには脱線してしまう

2022年5月13日 7:46 』