[FT]加速する食料保護主義

[FT]加速する食料保護主義、価格高騰と需給逼迫に拍車
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『世界の食料市場でウクライナ紛争に起因する混乱が続くなか、穀物、食用油や豆類など主要産品の輸出を制限する国が増えており、そうした保護主義の高まりが市場の混乱に拍車をかけている。

インドネシアのパーム油の輸出禁止措置は食用油の価格高騰に悩む消費者にさらなる打撃を与えた=ロイター

食料価格の高騰や社会不安の恐れを理由に、輸出を禁止したり輸出関税の引き上げや輸出上限の設定などの措置に踏み切ったりする国が増えている。こうした輸出国の保護主義的な政策により、重要な食料品を外国に依存している国では輸入額の負担がさらに増えており、世界で最も貧しい国々に影響が出始めている。

欧州復興開発銀行(EBRD)のチーフエコノミスト、ベアタ・ヤボルシク氏は保護主義について、すでに記録的なレベルに高騰している食料価格を人為的に上昇させ、世界の食料不安を加速させることにしかならないと警告した。「世界の貧困率が上がるだろう。極端な場合、権威主義体制の国はさらに抑圧を強めかねない」

ロシアのウクライナ侵攻が引き金に

ウクライナ侵攻以前から、干ばつや新型コロナウイルスの感染拡大に伴う労働力不足によって食料の国際価格は上昇していた。米シンクタンクの国際食糧政策研究所(IFPRI)にると、ウクライナ紛争を受けて23カ国が食料保護主義に転じた。

IFPRIによれば、世界の食料取引量のうち輸出規制がかけられている生産物の割合はカロリーベースで17%に上る。これは2007〜08年の食料・エネルギー危機の際に見られた水準だ。

インドネシアは4月、パーム油の輸出禁止を発表した。パーム油はケーキから化粧品まで様々な用途に使われており、植物油では世界で最も多く取引されている。

インドネシア政府の決定は、すでに食用油の価格高騰に苦しんでいた消費者に追い打ちをかけた。価格の上昇は、ヒマワリ油の生産大国であるウクライナが侵攻を受けたことに起因する。欧州や英国では食用油の買い占めが起きたため、スーパーは買い物客の購入数を制限している。

パーム油の輸出大国であるインドネシアが禁輸に踏み切ったことで、ウクライナ産とロシア産のヒマワリ油も合わせると、世界に供給される植物油の4割以上が入手困難になった。
パーム油禁輸には政治的な意図も

インドネシア政府による前例のないパーム油の全面禁輸は、イスラム教の断食月(ラマダン)明けを前に実施され、政治的に成功を収めたようだ。インドネシアの世論調査会社インディカトルによる最新の調査によると、急落していたジョコ大統領の支持率は4ポイント上昇して64%まで回復した。

輸出禁止はインドネシア国民の不満を鎮めた一方で、海外では混乱を加速させた。パキスタンの新政権はインフレ危機への対応に加え、パーム油不足に取り組むタスクフォースを立ち上げた。パキスタン商務省のウスマン・クレシ次官補によれば、同国政府は国民を安心させるため、インドネシア政府関係者に5月中の輸出再開について確約を求めたという。

農産物を扱う貿易業者は輸出禁止が長くは続かないと予測している。一方で、インドネシアの予期せぬ動きはビジネス相手としての同国の評判を傷つけたと批判する向きもある。パーム油を取引するシンガポールの貿易業者は、「取引先をもう少し(インドネシア以外に)多様化するつもりだ」と話した。

IFPRIのシニアリサーチフェロー、ダビド・ラボルド氏は、輸出規制はドミノ効果をもたらし、世界的に必要とする人々への供給量を減らしていると指摘した。「世界の貿易制度をむしばむことになる」だけでなく、国際市場へのアクセスを制限することによって、農家が作物を育てるインセンティブを減らすことにもつながり、「自国の農業体制や食料供給さえも傷つけている」という。

注目集まる小麦大国インドの動向

貿易業者の間では今、インドが食料の輸出禁止を発表するかどうかに注目が集まっている。

インドは小麦の生産大国だ。3月末までの小麦の年間輸出量は700万トンを超えて過去最大となり、ウクライナ紛争による供給不足の埋め合わせに貢献した。だが3、4月に気温が最高45度に達する熱波が小麦の生産地帯の大部分を襲い、国内供給への懸念が高まった。今後も6月にモンスーン(雨期)が始まるまでの数週間は高温が続くとみられるため、インド政府は今週、6月末までの21~22年期の小麦の収穫量予測を5%引き下げ、1億500万トンに下方修正した。

インド政府がさらなる不足から国内備蓄を守るために輸出規制を検討しているという報道を受け、ここ数日、小麦価格が世界各地で上昇している。

しかし、インド消費者問題・食料・公共配給省のスダンシュ・パンディ事務次官は、国内需要は十分に賄えると反論し、輸出規制に否定的な考えを示した。4日の記者会見で「小麦の輸出は続いている」と述べ、6月以降にアルゼンチン産小麦の輸出が始まればインド国内および世界の需給逼迫が緩和されるはずだとの見通しを示した。

貿易業者は、もしインドが輸出を規制すれば国際市場の動揺は避けられないと口をそろえる。「これまで世界的に需給が逼迫し、黒海周辺からの供給も非常に厳しい状態のときの代替的な供給元としてはインドが頼みの綱だった」と英穀物商社ED&Fマンのリサーチ責任者、コナ・ハク氏は解説した。インドが輸出禁止に踏み切る兆しが現れれば、確実に「世界の小麦市場はパニックに陥り、価格は上昇する」と同氏は警告した。

By Oliver Telling, Benjamin Parkin and Emiko Terazono

(2022年5月10日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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