モルドバとロシア系未承認国家「沿ドニエストル共和国」 対立の一方で運命共同体的依存関係も

モルドバとロシア系未承認国家「沿ドニエストル共和国」 対立の一方で運命共同体的依存関係も  – 孤帆の遠影碧空に尽き
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 ※ 『 沿ドニエストルにおける「無料の」天然ガスの大口消費者は、領内総発電量の9割を占めるロシア国営企業INTER RAO社所有の火力発電所である。電力は鉄鋼の電気炉のエネルギー源となるだけでなく、輸出にふり向けられており、沿ドニエストル経済の要となっている。
 
電力の輸出先はモルドヴァであり、モルドヴァが消費する電力の3分の2は沿ドニエストル産で賄われている。

沿ドニエストル産電力はEU産の半値以下という安さであり、貧乏国モルドヴァにとって欠くことができない供給源となっている。結果として、モルドヴァは沿ドニエストル最大の輸出相手国となっている。』…。

 ※ こういう「カラクリ」があるんで、この世の中、一筋縄ではいかない…。

 ※ 何事も、「単純明解」「一本調子」でなく、「複雑怪奇」「奇々怪々」となっているものだ…。

 ※ おそらく、ロシアとウクライナ間にも、これに類する話しは、ずっとあったんだろう…。

 ※ そういう「連綿ともつれた関係」を、一方的に「清算」しようと動いた…、という側面があるんだろう…。

 ※ ロシア側からすれば、「この恩知らず!裏切りものめが!目にもの見せてくれるわ!」という「裏の話し」が、山のようにあるんだろう…。

『ただ“ロシア軍の介入”云々の話、よく理解できないところも。

ロシア系住民の保護を目的にロシア軍が介入・・・・と言っても、沿ドニエストル地域自体はすでに平和維持軍として1500人規模のロシア軍が駐留している親ロシア派が実効支配する地域で、更にロシアが介入する必要もなさそう。

モルドバへの領土拡張を目指すという話になると、ウクライナで手一杯のロシアにそんな余裕はないように思えます。

沿ドニエストル地域からウクライナへ侵攻という話なら、別に揉め事を起こさなくても、現存する1500人規模のロシア軍をウクライナ南部に向けて動かせばいい話で、敢えて事件を起こして介入云々の必要もないのでは・・・もし、共和国とロシアが同じ考えであれば。

【モルドバ、ウクライナとの関係が死活的に重要な「沿ドニエストル共和国」 プーチンの戦争に巻き込まれることを回避】

サンドゥ大統領が言うように、一連の攻撃・爆破事件は「不安定化で利益を得ようとする独立派内部の派閥争い」ということであれば十分にありうる話でしょう。サンドゥ大統領の指摘するように「戦争を望む勢力」というのはどこにでもいます。

そのことは、親ロシア派支配地域「沿ドニエストル」とは言えど、必ずしも「戦争を望む」状況にはないこと、そのことへ「戦争を望む勢力」が仕掛けた“独立派内部の派閥争い”ということにもなります。

実際のところ、未承認国家「沿ドニエストル共和国」はこれまでロシアによるウクライナ侵攻には関りを避ける“慎重姿勢”をとっています。更に、未承認国家「沿ドニエストル共和国」とモルドバは、帰属をめぐる対立関係という根本問題はあるにせよ、経済的には“持ちつ持たれつ”の依存関係にあるようで、ことさらに揉め事を起こす状況にもないようです。

****プーチン戦争に巻き込まれ苦悶する沿ドニエストル****

(中略)「親ロ派」と称される沿ドニエストルだが、当初から極めて慎重な立場をとってきた。
 
ロシアによるドンバスの2つの人民共和国「国家承認」や「特別軍事作戦」発動に際して、沿ドニエストル当局は論評を加えず、住民に対して平穏と出国自粛を呼び掛け、そして避難民を受け入れる用意があることを表明しただけであった。
 
域内に平和維持軍と称するロシア軍部隊を抱えているが、何とかウクライナ戦争外に身を置きたいという沿ドニエストル政府の苦悩が見え隠れする。

ロシアと境界を接しない沿ドニエストル
沿ドニエストルが曖昧な態度をとり続けている理由は簡単だ。沿ドニエストルはロシア連邦と境界を接しておらず、ウクライナ、モルドヴァに境界を囲まれた内陸国であるからだ。対応を誤るとウクライナ、モルドヴァから制裁・封鎖を食らって一瞬で干上がってしまう。
 
ロシアと違い、沿ドニエストルは食料、医療品からエネルギー、工業原材料に至るまであらゆる自給率が低く、しかも基金や外貨準備の蓄えがほとんどない。
 
逆に言うと、1992年の沿ドニエストル紛争停戦から30年間、沿ドニエストルが存続してきたことは、ウクライナ、モルドヴァと一定の関係を維持してきた証でもある。
 
しかし2022年2月24日の開戦によって、まずウクライナとの経済関係が破壊されてしまった。
ウクライナ・沿ドニエストル境界は事実上の閉鎖状態にあり、ウクライナに頼っていた食料品、医療品の輸入は途絶え、交易ルートとしてのウクライナ領も使用不可能になっている。
 
例えば、沿ドニエストル工業生産額の4割を占める鉄鋼業は国際市場の高値に支えられ絶好調であったが、開戦後、ウクライナ領の輸出ルート、そして屑鉄原材料の輸入経路が使用不可能となり、操業停止に追い込まれている。

また、コロナ禍から回復基調にあった出稼ぎ労働も陸路を塞がれてしまった。今や、沿ドニエストルの労働者にとって、主たる出稼ぎ先であるロシアに辿り着くことも、ロシアから帰国することも困難である。空路トルコ経由やエジプト経由は技術的には可能であるが、費用の面で全く現実的ではない。
 
ウクライナ側が使用できないため、沿ドニエストルにとってモルドヴァとの境界線が唯一の交易ルートとなっており、モルドヴァ側に通商を支配されてしまっている。
 
ウクライナから流入する避難民問題も深刻である。

沿ドニエストル当局によると2万5000人余りが避難民として登録されており、そのほとんどが、領内の縁者・親戚宅に滞在している。
 
避難民の数は沿ドニエストル全人口の8%に達しており、沿ドニエストルに対する国際社会からの支援が入っていないことも考慮すると、モルドヴァより負担率は高い。
 
プーチン戦争によって、沿ドニエストルはピークからどん底に突き落とされてしまった格好だ。

運命共同体のモルドヴァと沿ドニエストル

例外的に機能しているのが天然ガスだ。天然ガスはロシア・ガスプロム社がモルドヴァのモルドヴァガス社との契約によって、ウクライナのパイプラインを利用して供給を続けている。ウクライナのパイプライン企業は契約に基づいた輸送を粛々と続けており、ガスプロムも輸送料をウクライナ側に支払い続けている。
 
沿ドニエストルはモルドヴァより上流に位置しているため、天然ガスを先に抜き取ることができる。沿ドニエストルは抜き取った天然ガスの対価をガスプロムに支払っておらず、事実上、無料で消費し続けている。
 
沿ドニエストルの消費分を誰が負担するのかは係争になっているが、モルドヴァ側は自らの勘定外であるとして拒否しており、ロシアが垂れ流し続けて沿ドニエストル側のガス債務が紙上で累積する形になっている。
 
沿ドニエストルにおける「無料の」天然ガスの大口消費者は、領内総発電量の9割を占めるロシア国営企業INTER RAO社所有の火力発電所である。電力は鉄鋼の電気炉のエネルギー源となるだけでなく、輸出にふり向けられており、沿ドニエストル経済の要となっている。
 
電力の輸出先はモルドヴァであり、モルドヴァが消費する電力の3分の2は沿ドニエストル産で賄われている。

沿ドニエストル産電力はEU産の半値以下という安さであり、貧乏国モルドヴァにとって欠くことができない供給源となっている。結果として、モルドヴァは沿ドニエストル最大の輸出相手国となっている。
 
このように、沿ドニエストルは親ロであるが、モルドヴァと敵対しているわけではない。
沿ドニエストル領内のロシア軍部隊は1500人規模と言われており、これに沿ドニエストル国軍の動員が加われば人員はかなりの数に達する。
 
沿ドニエストル当局の意向がどうであれ、最終的な参戦の決定はプーチンが握っている。
しかし戦力以前に、現在のロシア軍のウクライナ南部作戦が停滞している状況下、沿ドニエストル側から大々的にウクライナに進行すると、どうなるのか想像に容易い。
 
ウクライナ側が対抗して天然ガス輸送を止めた瞬間に沿ドニエストルは即死する。輸送停止は、明確な契約違反であるが、「ロシア軍の攻撃でパイプライン損傷」など、いくらでも理由は付けられる。
 
沿ドニエストルはガス備蓄がなく、発電所は操業停止して全域でブラックアウト、工業生産額と輸出額の3分の2を占める鉄鋼、発電が消滅する。ロシアが沿ドニエストル回廊を形成して代替燃料供給や送電を行えない限り、即死リスクがつきまとう。
 
一方でこのパイプラインの終着はモルドヴァで下流に他の利用国は存在しない点は重要である。
モルドヴァは、技術的にはルーマニア側から電力、天然ガスを輸入できるため、支払い能力があるかは別として、ぎりぎりエネルギーバランスを保つことはできる。

興味深い事実が一つある。
目下、モルドヴァは天然ガス、電力ともに短期契約で凌いでる状況にあるが、2022年4月末にガスプロムとの間で5月の天然ガス供給で合意した。発電所へのガス供給の目途が立ったことで、沿ドニエストル側とも5月の電力供給契約で合意している。いずれも1か月限定である点が注目される。
 
少なくともこの期間内は、ウクライナ領を経由するモルドヴァ(および沿ドニエストル)へのガス輸送が続き、沿ドニエストルの発電所は稼働してモルドヴァに電力輸出することが想定されていることを意味している。
6月以降のガス契約と電力契約で、ロシアがウクライナ侵攻にどのような展望を抱いているのか見えてこよう。【5月9日 藤森 信吉氏 JBpress】
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非常に興味深いモルドバ、沿ドニエストル共和国、ウクライナの関係です。親欧米国と親ロシア未承認国家というイメージだけではわからない関係が現実にはあるようです。

となると、そういう関係に不満な「戦争を望む勢力」がトラブルを起こし・・・という話もあり得る話です。

モルドバは人口の17%にあたる45万人超のウクライナ難民(人口比では世界最多)を受入れている“欧州最貧国”であり、国連のグテレス事務総長は10日サンドゥ大統領と会見し、その貢献を称賛し、国際社会に支援を呼び掛けています。

【ジョージアの未承認国家「南オセチア共和国」もロシア編入・ロシアへの加担を拒否】
なお、やはり親ロシアの未承認国家「南オセチア共和国」では、ロシアへの編入手続き開始を提案していた現職大統領が「大統領選」で敗退しています。

****親ロシア派支配の南オセチア、「ロシア編入」白紙…「大統領選」で編入提案の現職敗北***
旧ソ連構成国ジョージアから一方的に分離独立を宣言している親ロシア派支配地域「南オセチア共和国」で8日、「大統領選」の決選投票が行われた。タス通信などによると、ロシアへの編入手続き開始を提案していた現職のアナトリー・ビビロフ氏(52)が敗れ、慎重派の野党党首のアラン・ガグロエフ氏(41)の勝利が確実となった。
 
ビビロフ氏は、選挙後にロシアへの編入を問う住民投票を実施する意向を示していたが、ロシアによる「併合」は白紙となる。

併合の動きが進めば、北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)への加盟を目指すジョージアとの対立激化が予想されていた。ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し、多くの民間人が犠牲になる中、地域の住民が侵攻に巻き込まれる事態を懸念したとみられる。(後略)【5月10日 読売】
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親ロシア派なのでロシア編入を望んでいる、ウクライナ戦争でロシアを支援している・・・という単純な話でもないようです。』