[FT]スペイン首相らスパイウエア被害、情報局長官更迭

[FT]スペイン首相らスパイウエア被害、情報局長官更迭
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『スペインの政権は情報機関のトップを解任した。スパイウエア「ペガサス」が首相に対して使われていたことに加え、北東部カタルーニャ州の独立派の政治家数十人が監視されていた疑いも浮上して政治危機に発展するなか、政権は事態を収拾しようとしている。

スペイン政府は、スパイウエア「ペガサス」が首相と国防相に対して使われていたと発表した=ロイター

スペイン国家情報局(CNI)のエステバン長官が9日に解任された。政府はその1週間前、サンチェス首相とロブレス国防相のスマートフォンがペガサスを使ってハッキングされたことを公表していた。

ペガサスが現職の政府首脳に対して使用されたことが確認されたのは今回が初めて。このスパイウエアは既に米商務省のブラックリストに入っており、欧州議会の委員会も調査を進めていたが、今回の件で論争はさらに激しくなった。

イスラエル企業のNSOグループが開発したペガサスは、標的のスマートフォンに潜入し、データを送信させることができる。テロや犯罪に対する使用を条件に販売が許可されているが、米商務省は2021年、政府職員や活動家などを「標的として、悪意を持って」使用されていると断定した。

サンチェス首相=ロイター

スペインでのスパイ行為の発覚を受けて、サンチェス氏が率いる弱体の少数与党政権への支持率は低下した。また、同国を分断するカタルーニャの地位の問題では、永続的な政治決着への進展が止まりかねない状況となった。

カナダのトロント大学を拠点とするデジタル人権団体のシチズン・ラボは4月、カタルーニャのアラゴネス州首相など60人以上の独立派の監視にペガサスが使われていると告発した。これをきっかけに、CNI初の女性長官だったエステバン氏への圧力が強まっていた。
カタルーニャ独立派の電話を盗聴

スペイン国会の委員会が開いた非公開の聴聞会に出席した議員らによると、エステバン氏は、CNIは裁判所の許可を得てカタルーニャ独立派の指導者18人の電話を盗聴していたと述べたという。スペイン政府は、この件について知らされていなかったとしている。

政府側は、「外部」勢力が閣僚を狙ってペガサスを使用していたとしているが、使用者の具体的な名は挙げていない。カタルーニャの指導者に対する使用については、政府機関による確認はなされていない。

閣僚のスマホがペガサスでハッキングされていたという政府の発表を受けて、なぜ防止できなかったのか、なぜ1年近くも検知されなかったのかという疑問が持ち上がった。政府は10日、グランデマルラスカ内相のスマホからもペガサスが検出されたと公表した。

記者会見でロブレス氏は「明らかに改善を要する事柄がある」と述べるとともに、エステバン氏はカタルーニャの指導者に対する監視が理由で解任されたのではないと否定した。後任のCNI長官には現国防副大臣のエスペランサ・カステレイロ氏が就く。

ペガサス問題でスペインの左派連立政権は失速した。世論調査では、最大野党の右派、国民党が支持率を伸ばし、サンチェス氏の社会労働党に迫っている。

国民党のアルベルト・ヌニェス・フェイホー党首は10日、サンチェス氏はカタルーニャの独立派政党をなだめるためにCNI長官の「首を差し出した」と非難し、「自分の保身のために国を弱体化させている」とした。

だが、カタルーニャ州政府はCNI長官の更迭は問題の解決にならないとしている。「説明が必要だ。誰がスパイ行為を命じ、誰がそれを許し、誰が知っていたのか」と広報官は述べた。

携帯電話がスパイウエアの被害にあったロブレス国防相=ロイター

バレンシア大学のフアン・ロドリゲス・テルエル教授(政治学)は、「サンチェス氏が国防相を追い出すことはできないとわかっているので、(政府は)ERC(独立派政党のカタルーニャ共和左派)が納得できる誰か(の更迭)を差し出そうとしている」と話す。「それが十分かどうかは数日中にわかる」

カタルーニャの政党はこれまで、ロブレス国防相の辞任を求めていた。同氏はサンチェス政権で数少ない穏健派の有権者に人気のある閣僚の1人だ。だがERCのウリオル・ジュンケラス党首は10日、地元紙エル・パイスのインタビューで解任を求める姿勢を後退させた。
連立与党に足並みの乱れ

ペガサス問題を受けて連立政権内の摩擦が高まっている。4月、政府は、ロシアのウクライナ侵攻による影響を緩和するために160億ユーロ(約2兆2000億円)規模の経済対策を打ち出したが、北部バスク地方の分離独立を目指す小政党の支持を得てようやく僅差で可決されたことで、連立与党内の足並みの乱れが明らかになった。

社会労働党と連立を組む急進左派政党ポデモスと、国会内で極めて重要な協力関係にあるERCは、ともにペガサスによる監視について調査するよう求めている。

ERCの支持を失えば、若者や社会的弱者の賃借人を保護するための住宅改革など、今後の法案の成立も難しくなりかねない。労働改革など他の重要施策は承認されている。

エステバン長官の解任は「(社会労働党を)政権の座に押し上げた多数の座を取り戻したいという願望を表している」と指摘するのは、マラガ大学のマヌエル・アリアスマルドナド教授(政治学)だ。

コンサルティング会社テネオのアントニオ・バローゾ調査副部長は、「この問題が政権崩壊につながるほどの重大な政治危機を引き起こす可能性は薄いと思う」と話す。「このところの世論調査での国民党の勢いからして、サンチェス首相が総選挙を前倒しするとは思えない」

By Peter Wise & Ian Mount

(2022年5月11日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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