マルコス氏圧勝、成長への憧憬背景 フィリピン大統領選

マルコス氏圧勝、成長への憧憬背景 フィリピン大統領選
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『【マニラ=志賀優一】フィリピン大統領選で圧勝したフェルディナンド・マルコス元上院議員(64)は、デジタル環境にも踏み込んだインフラ整備の推進を訴える。

だが、有権者が期待する景気回復と所得増では具体策を示さない。同氏に投票した有権者の多くは1986年までの約20年間、開発独裁で国を富ませた父親の元大統領に郷愁や憧憬を感じている。期待にこたえられなければ「失望」が広がりやすい。

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マルコス氏は選挙戦を通じ、SNS(交流サイト)などで「団結が重要だ」と繰り返した。

「独裁者」と呼ばれ、市民らの大規模なデモで国を追われた父親を「フィリピンを近代化した」「(国造りの)ビジョンを持っていた」「道路や学校、教育や医療のシステムを築いた」と称賛。「こうしたことを私たちは継続する必要がある」と主張し、自身が父親の後継者であると印象づけた。

父親が大統領だった時代を知る年配の女性は選挙期間中の4月下旬、「当時は誰も『貧しい』という気持ちを持たなかった」と述べ、マルコス氏への支持を表明した。

フィリピンの平均年齢は25歳前後。

若い有権者の多くは父親が大統領を務めていた時代を知らず、マルコス氏の主張に一定の理解を示す。マニラ首都圏でマルコス氏に投票した男性(27)は「マルコス氏の父親は多くのインフラ整備を手がけた」と述べ、ドゥテルテ大統領の目玉政策でもあったインフラ整備推進の継続に期待を示した。

経済成長を優先して人権を抑圧する開発独裁という手法は戦後の東南アジア諸国では一般的で、マルコス氏の父親は反対派を投獄、拷問したと批判された。一方、所得増という「成長の果実」を手にした国民も多かった。

東京外語大の日下渉教授(東南アジア地域研究)はマルコス氏が世論調査の支持率で独走して当選を決めた一因として「開発独裁への郷愁が強まった」と分析する。

支持者が期待するのは景気回復と所得増だ。フィリピンの実質成長率は新型コロナウイルスのまん延前、年率6~7%に達した。

だが、感染拡大が始まった20年にはマイナス成長に転落。21年は5.7%(フィリピン政府)に持ち直したが、先行きは不透明だ。

フィリピンの調査会社パルスアジアの21年9月の世論調査では、懸案として「安定収入の確保」(47%)、「毎日の十分な食事」(46%)などが上位にあがった。

マルコス氏は選挙戦で、副大統領選に立候補したドゥテルテ氏の娘と連携し、成長重視の政策を引き継ぐ構えをみせている。

だが、ほかの候補との討論会には基本、参加せず、具体的な政策の多くは明らかにされていない。インフラ整備の継続は明言しているが、意欲を示すのは原子力発電所の稼働だ。父親の時代にマニラのあるルソン島で建設されたが未稼働のバターン原発が候補にあがる。

ドゥテルテ氏は16年の大統領就任後、国内総生産(GDP)の約5%を毎年、首都圏の鉄道延伸などインフラ投資にあてた。インフラ建設は雇用を生み、投資を呼び込む基盤になる。
だが、足元の債務は増える。3月末の政府債務残高は前年同月比で約18%増え、過去最高の12兆6800億ペソ(約31兆6000億円)に達した。

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安川新一郎
グレートジャーニー合同会社 代表
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分析・考察

哲学者マルクスガブリエルが「世界史の針が巻き戻る時」にて指摘した通り、人々は低成長経済と情報化社会が見える化してしまった格差と固定化に不満を抱き、古き良き過去にノスタルジーを抱く様になっています。

トルコのエルドワン大統領のカリフ制の復活、プーチンのソビエト的大ロシア主義、イスラム圏での宗教政治の復権、ヨーロッパの極右台頭、習近平の中華民族の偉大なる復興、トランプ大統領の古き偉大なアメリカの復活に対する根強い支持などです。

日本においても成長経済のスローガンを謳ったアベノミクスが長く支持されたり「田中角栄が今総理大臣だったら」という本が売れたりするのと、今回のフィリピン選挙結果は同じ流れです。

2022年5月11日 7:32

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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分析・考察

「あの頃はよかった」という年齢が高めの世代の郷愁に訴えかける形で、「ボンボン」マルコス氏が大統領選で圧勝した。

父親のマルコス政権が打倒された際の人々の熱気「ラバン(ピープルズパワー)」をニュースで追った経験のある筆者としては感慨を禁じ得ない。

他国ではどうか。韓国では「漢江の奇跡」と呼ばれる経済復興を成し遂げた朴 正煕(パク・チョンヒ)の次女の朴槿恵(パククネ)が父親の時代への郷愁に助けられて大統領になったが、その後失脚した。

北朝鮮では金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記が、祖父の金日成(キムイルソン)時代を連想させる髪型にするなどの演出をしている。

フィリピンでは今後どうなるのか、興味深い。

2022年5月11日 7:57

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菅野幹雄
日本経済新聞社 上級論説委員/編集委員
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分析・考察

記事で引用された識者のコメントにある「郷愁」がキーワードだと思います。

あの独裁者のマルコス氏の息子、フランス極右のルペン氏の娘、そしてもちろん米で完全なアウトサイダーだったトランプ氏……。主流メディアが排除しがちな人物に相当数の支持者が集まる状況は、いまだに変わりません。

国の外からみていれば異様であっても、その国の感覚は違います。本当に多くの有権者が、あたかも「郷愁」を実現してくれるような、わかりやすい主張をする候補者に心を惹かれるのですね。

米軍基地があるフィリピンには中国に近づいてほしくない……。そんなメディアの先入観が事実の理解を曇らせます。肝に銘じなければなりません。

2022年5月10日 21:36 』