プーチンへのレクイエムとなった対独戦勝77周年軍事パレード

プーチンへのレクイエムとなった対独戦勝77周年軍事パレード
ロシア産原油は売り先失い国庫は火の車、独りほくそ笑む米国
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/70053

 ※ 長いんで、一部を紹介する…。

『 対独戦勝77周年軍事パレードの特徴(2022年5月9日)

 5月9日の軍事パレード最大の注目点は、S.ショイグ国防相による軍事パレード準備完了報告を受けた後のプーチン大統領訓示がどのような内容になるのかという点でした。

 事前予測では戦争宣言をするかも知れないと言われておりましたが、筆者は、それはないだろうと思っていました。

 プーチン大統領が対ウクライナに宣戦布告をして一番迷惑を受けるのが、軍事同盟(CSTO/計6か国)を締結しているカザフスタンやベラルーシなどです。

 軍事同盟ですから、ロシアが戦争宣言すれば、参戦しなければなりません。

 しかし、意味も意義も大義もない戦争にカザフスタンやベラルーシが参戦するのでしょうか?

 筆者は参戦しないと思います。この場合、ロシア軍事同盟国の中に亀裂が入ることでしょう。

 カザフスタン北部には大勢の(民族としての)ロシア人が住んでいます。シベリアの大草原を南下すれば、何の障害物もなく自然とカザフ領土に入ります。

 ですから、カザフスタンのトカエフ大統領は眠れぬ夜を過ごしていたことと思われます。

 本日5月9日の軍事パレードを過去の軍事パレードと比較すると、以下の点が特筆されます。

・軍事パレ―ド規模は例年より小ぶり(参加人員約11千人/軍用車両約130輌)。

・軍用車両行軍は10時46分から56分までの10分間のみ。

・悪天候で軍用機77機の飛行パレード中止。

・軍用車両行進後、軍楽隊退場して11時に終了。

 今回の軍事パレード最大の特徴は国家親衛軍が参加していない点です。ウクライナの首都キーウ(キエフ)攻略戦で大被害を蒙り、今回は参加不可能になったものと推測します。』

『 対独戦勝77周年軍事パレード/筆者の感想

 5月9日の軍事パレードを観た筆者の感想は以下の通りです。

 まず驚いたのが、ロシアの孤立です。例年必ず誰か外国からの元首・要人が参加するのですが、今回はゼロでした。

 次に驚いたのが、プーチン大統領の精気のなさです。

 精気なく、現在の戦況をそのまま反映している顔つきでした。精気ないプーチンを通じて、ロシアの未来が透けて見えてきたように思えます。

 約10分間の演説の途中で次頁の原稿がうまく開かず、言葉に詰まる場面もありました。従来のプーチンでは考えられないことです。

 プーチン大統領の演説は結局、戦争宣言もウクライナ東部2州併合宣言もなく、NATO批判とナチズムと戦っているという軍事作戦を正当化するプロパガンダのみで、内容は自分自身の保身演説でした。

 総じて戦意高揚の軍事パレードにはなっておらず、ロシア国民には対ウクライナ特別軍事作戦の行方を不安視させる軍事パレードになったと筆者は感じました。

 実際問題として、5月7日と8日の戦闘地図を見るとウクライナ東部2州の戦線は膠着状態ですが、ハリキウ(ハリコフ)周辺ではウクライナ軍が反撃に転じ、ロシア軍は東に押し戻されています。

 ウクライナ軍がハリキウから東進すると、イジュ―ムを攻撃しているロシア軍の北側補給路が断たれます。

 朝鮮戦争で言えば、南進した北朝鮮軍が釜山近郊まで南下した時、国連軍が仁川に上陸して補給路を断たれ袋の鼠になった戦史が想起されます。

 もしウクライナ軍が東進し国境を越えてロシア領に進撃すると、これは第2次大戦における第3次ハリコフ戦車戦で勝利したドイツ機甲部隊が東進して、クルスクまで進出。ここで、ドイツ軍と赤軍による史上最大の戦車戦が展開され、ドイツ軍が敗退した戦史を繰り返すことになるでしょう。

 ウクライナ側は負けなければよいのですから、ウクライナ軍は国境を越える必要がありません。

 近代戦は補給戦です。持久戦・長期戦になれば、欧米の支援を受けて兵站補給可能なウクライナ軍が有利になる一方、ロシア軍は在庫兵器・弾薬が尽きれば終わりです。』

『 第3部:プーチン・ロシアの近未来

ロシア経済のアキレス腱

 ロシアのアキレス腱、それは経済です。ロシア経済のアキレス腱、それは油価です。

 ロシア経済は天然資源依存型経済構造であり、そのような経済構造を筆者は≪油上の楼閣経済≫と呼んでおります。

 旧ソ連邦諸国の中の天然資源大国は皆、大なり小なり典型的な≪油上の楼閣経済≫にて、もちろん中東産油国もこの範疇に入ります。

 V.プーチン新大統領は2000年5月7日、故B.エリツィン大統領の後任として、新生ロシア連邦2人目の大統領に就任。

 大統領就任後、ロシア経済は2000年代前半に原油・天然ガスの価格上昇とともに輸出拡大と好調な内需などに支えられて成長しました。

 故B.エリツィン初代ロシア連邦大統領は油価低迷により失脚。後任のプーチン大統領は油価高騰を享受。油価高騰に支えられたロシア経済は油価依存型経済構造から脱却できず、逆にますます依存度を高めていきました。

 ロシア国庫歳入案に占める石油(原油と石油製品)・ガス税収案は、プーチン大統領が誕生した2000年は約2割でしたが、油価がバレル100ドルを超える高騰時には、国庫歳入の半分以上とGDP(国内総生産)の約1割が石油と天然ガスからの税収になりました。

 油価と政府歳入に強い正の相関関係があります。

 ソ連邦が崩壊した背景も、1985年から続いた油価下落・低迷でした。ですから、油価下落・低迷はプーチン大統領にとり悪夢となります。

 2022年2月24日のロシア軍のウクライナ全面侵攻を受け急騰した油価は、その後急落。4月25~29日の週間平均油価は北海ブレント$103.92/bbl(前週比▲$1.80/スポット価格)、WTI $102.85(同▲$1.17)、ウラル原油(露黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)$66.85(同+$0.49)となり、北海ブレントと露ウラル原油の価格差は従来のバレル$3~4から10倍に拡大。露ウラル原油はバナナの叩き売り状態となりました。

 これは露ウラル原油が欧米市場から敬遠されていることを示唆しており、ウラル原油のみならず、ロシア産軽油と重油も売り先に困るようになりました。

 安くなった露ウラル原油を中国とインドが追加購入しようとしていると言われていますが、中国大手国営会社は買い増ししておらず、中小私企業が買い増ししている模様です。

 インドも買い増ししていますが、ウラル原油はサワー原油ゆえ、製油所脱硫装置の能力が隘路になっています。

(油価:US$ / bbl)
(出所:米EIA、他資料より筆者作成)』

『 露ウラル原油と露国民福祉基金資産残高の関係

 ロシア財務省は従来、国民福祉基金資産残高を毎月公表してきました。

 これは一種の石油基金です。「ロシア連邦安定化基金」として2004年1月の法令に基づき、同年設立されました。

 露原油(ウラル原油)の油価が国家予算案で設定された基準を上回ると「安定化基金」に組み入れられ、国家予算が赤字になると、「安定化基金」から補填される仕組みでした。

 この仕組みを考案したのが、当時のA.クードリン財務相です。

 この基金は発足時の2004年5月の時点では約60億ドルでしたが、油価上昇に伴い、2008年1月には1568億ドルまで積み上がりました。

 この安定化基金は2008年2月、「予備基金」(準備基金)と「国民福祉基金」(次世代基金)に分割され、「予備基金」は赤字予算補填用、「国民福祉基金」は年金補填用や優良プロジェクトなどへの融資・投資用目的として発足。

 分割時、「予備基金」は約1200億ドル強を継承、残りを「国民福祉基金」が継承。この石油基金のおかげで、ロシアはリーマンショックを乗り越えられたと言えましょう。

 その後、「予備基金」の資金は枯渇してしまい、2018年1月に「予備基金」は「国民福祉基金」に吸収合併されました。

 露財務省は2022年3月1日現在の資産残高は1548億ドル(GDP比9.7%)と発表。2021年11月1日現在の資産残高1978億ドルから430億ドルも減少しました。

 しかし国民福祉基金の設立趣旨・構造からして、これはあり得ない数字です。

 2021年の露国家予算案想定油価(ウラル原油)はバレル$45.3ですが、実績は$69.0。22年の露政府想定油価は$62.2です。

 油価が$45.3以上で輸出される場合、想定油価以上の輸出税収は「国民福祉基金」に入りますので、基金残高は積み上がるはずです。

 今年2022年も油価は想定油価より高いので、基金資産残高は更に積み上がるはずでした。

 ご参考までに、発足時2008年2月1日から2022年3月1日現在までの資産残高は以下の通りです。
(出所:ロシア財務省統計資料より筆者作成)

 積み上がるはずの資産残高が減少している理由は只一つ、ウクライナ戦争用軍事費に流用されていること以外、考えられません。

 その証拠に、従来毎月公表されてきた資産残高が発表されなくなりました。』

『 プーチン・ロシアと欧米のエネルギー取引関係

 5月9日の軍事パレードに先立ち、8日に開催されたG7にてロシア産原油の段階的禁油措置を決定。これに基づき、日本の岸田文雄首相も原則的禁油措置を発表しました。

 EUの対露経済制裁措置第6次包括案の概要も発表されました。

 今回の特徴は船舶保険業務などのサービス業務も含まれているので、ロシア産石油(原油と石油製品)を輸送するタンカーの付保が不可能となります。

 これは実質、タンカー輸送が困難になることを意味するので、今後海上輸送によるロシア産原油・石油製品輸出はほぼ不可能になります。

 なお、ロシアは原油以外に石油製品も輸出しており、主要品目は軽油と重油(M-100)です。

 この包括案を受け北海ブレントと米WTIの油価は急騰しましたが、ロシア産原油(ウラル原油)は上述の通り別の動きをしていますので、この点は別途分析が必要です。

 露ウラル原油がバナナの叩き売り状態になっている点にご注目ください。

 露ウラル原油はサワー原油であり、誰でも精製できる原油ではなく、脱硫装置を備えた製油所でないと精製できません。

 ウラル原油の主要輸出先である欧州が禁油すれば、露石油会社の生産量・輸出量・油価・輸出金額等々に即影響が出て、年末には倒産する石油会社も出てくることでしょう。

 ご参考までに、露原油の輸出量と輸出先内訳は以下の通りです(2020年BP統計):

露原油輸出量:260百万屯

露原油輸出先:欧州向け53%/中国向け32%/日本向け2%/米国向け1.5%/インド向け1%/CIS諸国向け5.7%/他アジア諸国向け4.1%

 上記の通り、露産原油の半分以上が欧州向けですから、欧州が本当に露産原油の禁油を実行すれば、露産原油は暴落、他油種(北海ブレント/米WTI/中東産原油等々)は暴騰するでしょう。

 欧州最大の露産原油輸入国オランダは既に、今年年末までに露産原油輸入停止を発表しました。

 露財務省発表の4月度月次平均油価(ウラル原油)は3月度比大幅下落しており、これはすなわち、露国庫税収減少(=戦費用財源減少)を意味します。

 また、5月5日にはOPEC+原油協調減産会議が開催され、事前予測通り、6月度も5月度と同じ日量432千バレルの減産枠緩和(=その分追加増産)になりました。

 この場合、実質増産は少量ですので、これは油価上昇要因になると当方は予測します。

 ただし、繰り返しとなりますが露ウラル原油の油価動静は別途分析必要にて、ウラル原油の油価はさらに下落すると予測します。

 上記事情により、ロシアでは既に原油生産量と国内精製量が減少しています。

 量的減少と価格暴落により、ロシア石油各社は業績が悪化して、上述の通り、倒産する企業も出てくるかもしれません。

 欧州諸国はロシア産天然ガス輸入依存度低下を目指しており、ロシア産天然ガスの輸入量を減らし、他の供給源からのガス輸入を拡大するでしょう。

 かくして、天然ガスを政治の道具に使ったプーチン・ロシアは自滅の道を歩み始めることになります。』

『 エピローグ/黄昏のプーチン・ロシア

 ウクライナ大本営発表によれば、ロシア軍がウクライナに全面侵攻した2月24日から5月7日までのロシア軍の損害は以下の通りです。

(ロシア軍損害)

戦死者:約2万5100人(前日比+200人)

戦車1122輌(同+12)/装甲車2713輌(同+27)/火砲509門(同+7)

多連装ロケット発射台172基(同+1)/対空火器システム84基(同+1)他

軍用機199機(-)/ヘリ155機(-)/ドローン341機(同+17)/巡航ミサイル90発(-)
軍艦11隻(-)

 話半分としても、昔風に言えば丸々一個師団が消滅したことになり、現代風に言えば13個BTG(Battalion Tactical Group=大隊戦術戦闘群/1個BTG約1000人)が消滅したことを意味します。

 戦死者1に対し通常は2倍以上の戦傷者が出ると言われていますので、死傷者数で言えば3個師団相当となります。

 戦闘部隊は30%の死傷者が出ると戦闘不能と見做され、通常は後送されますが、戦闘継続すれば部隊全滅もあり得ます。

 既に全滅しているBTGも出ているのかもしれません。

 マリウポリのアゾフスタール製鉄所では白兵戦が展開されており、プーチン大統領が9日に勝利宣言できるかどうか注目されていましたが、結局、5月9日に勝利宣言はできませんでした。

 では、プーチン・ロシアの今後の運命やいかに?

 ≪強いロシア≫を標榜して登場したプーチン大統領は今回、≪強いロシア≫を演出できませんでした。

 演説内容はウクライナ侵攻を正当化する内容ですが、論理的には支離滅裂。聞いていたロシアの側近や知識人たちも青ざめたことでしょう。

 既にプーチン大統領の支持率は低下していますが、5月9日の軍事パレードを受け、プーチン支持率は今後さらに低下するものと筆者は予測します。

 今回のプーチン大統領演説は黄昏の独裁者の近未来を暗示しており、本日の軍事パレード全体を一言で申せば、プーチン神話の崩壊と総括できましょう。

 筆者には、一人ほくそ笑んでいる、弱いロシアを目指す米バイデン大統領の姿が透けて見えてくるようです。』