[FT]イタリア、長く続いたロシアとの友好関係に終止符

[FT]イタリア、長く続いたロシアとの友好関係に終止符
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB091020Z00C22A5000000/

『ロシアが2014年にクリミア半島を一方的に併合した翌年、イタリアのベルルスコーニ元首相はこの半島を訪れ、ロシアのプーチン大統領と面談した。2人はクリミアのワイナリーで240年前に醸造された年代物のワインを開けたという。

ウクライナ政府が国の宝として大切にしていたワインだ。ベルルスコーニ氏はイタリアに戻ると、クリミア併合を支持し、ロシア政府に対する欧州連合(EU)の制裁措置を批判して、プーチン大統領の指導力を称賛した。

イタリアのドラギ首相は、ロシアのウクライナ侵攻を「欧州の安全保障に対する深刻な攻撃」と非難する=ロイター

ベルルスコーニ氏は当時すでに首相ではなかったが、同氏がクリミアに赴いたことは、イタリアの政治家やビジネスエリートとロシアとの間の強い絆を示すものだった。イタリア政府は伝統的に、EUと緊張関係にあるロシア政府に共感を抱いてきた。

しかし、2月24日のウクライナ侵攻以降、イタリアはロシア政府へのこのような気遣いを一切見せなくなった。

ドラギ首相のもと、イタリアはロシアに対して強硬な姿勢を示している。イタリア企業も懲罰的な対ロ制裁について沈黙を保っている。

ロシア軍による残虐行為への国民の反感

ロシアのウクライナへの侵攻と、ロシア軍による残虐行為に恐怖を覚えた国民の反感が、イタリアにこれまでとは違う厳しい対応を取らせている。これほど大きな外交方針の転換は、ドイツが防衛戦略の見直しを進めていることと並び、欧州の近年の歴史の中でも珍しいことだとアナリストは指摘する。

イタリアはロシアと、西欧諸国の中で最も友好的な関係を最も古くから築いてきた。そのため過去には欧州の外交関係者から、ロシア政府の攻撃的姿勢に対してEUが厳しい対応をとることを妨げていると非難されてきた。

しかし今、ドラギ首相のもと、イタリアは長年の友好国と袂(たもと)を分かった。欧州中央銀行(ECB)総裁を務めていたドラギ首相は、ロシアのウクライナ侵攻を、第2次世界大戦後の多国間秩序に対する攻撃だと非難した。

イタリアの元駐北大西洋条約機構(NATO)大使ステファノ・ステファニーニ氏は、「ロシアに対する融和的な姿勢で欧州の主流から外れ別の道を行くという、かつてのイタリアはもう見られない。イタリア外交におけるロシアへの見方は根本的に修正されつつある。断行したドラギ首相は称賛に値する。ドラギ政権後もこの方針は変わらないだろう」と語った。

ドラギ首相は、21年12月の時点では、ウクライナ侵攻の危険性は小さいとしてプーチン大統領と関係を保つことの重要性を強調していた。また、制裁を実施すればイタリアが被る打撃はほかのEU加盟国以上に大きくなると警告した。イタリアは天然ガスの輸入の40%をロシアに頼っている。

しかし、2月24日以降、ドラギ首相はウクライナ侵攻を欧州の安全保障に対する深刻な攻撃であると非難している。ウクライナのゼレンスキー大統領の勇気と抵抗を称賛した。さらにドラギ首相は、6430億ドル(約84兆円)にのぼるロシア外貨準備の多くを凍結するというロシア中央銀行に対する厳しい制裁の立案にも協力した。

イタリアの当局は、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)が保有する大型クルーザーや海岸沿いの別荘など総額10億ユーロ(約1380億円)を超える資産を差し押さえた。当局が差し押さえに動いても、イタリアの有力者たちとのコネで守ってもらえるだろうと思っていた人たちにとって衝撃的な出来事となった。

ドラギ首相は、ウクライナ国民に対してふるわれる暴力に嫌悪感を隠さない。同時に、イタリア国民に対しても犠牲を覚悟するよう促す。4月には「私たちは平和を望むのか、それともエアコンをつけることを望むのか」と問いかけた。

ロシア大統領との対話は「無益で時間の無駄」

イタリア政府は、ほかのEU加盟国が同意するならロシア産エネルギーの禁輸に反対しないと明言している。また、ドラギ首相は最近、プーチン大統領との対話は「無益で時間の無駄だ」という意見に賛成するとイタリア紙に語った。

イタリアのテレビのトーク番組は今も、ロシア寄りの人々のために多くの放送時間を割いている。5月1日の晩にはロシアのラブロフ外相がイタリア最大手の民間放送局の番組に生出演したほどだ。この放送局のオーナーはベルルスコーニ氏だ。

しかし、ミラノの国際政治研究所が最近実施した調査によると、イタリア国民の約61%が紛争の責任はプーチン大統領にあると考えている。NATOに責任があるとする人は17%、わからないが17%だった。

かねてプーチン大統領を称賛しているイタリアの極右政党「同盟」のサルビーニ党首でさえ、同大統領から距離を置いている。ローマのウクライナ大使館前で献花して、憂慮の念を示した。

侵攻の1カ月前、ロシアの部隊がウクライナ国境沿いに集結していた段階でさえ、イタリアのビジネスリーダーたちはプーチン大統領とリモートで会談し、関係強化について話し合っていた。その彼らも、EUの対ロ制裁について口を閉ざしている。14年には制裁に対して不満を並べていたのとは対照的だ。多くのイタリア企業はロシアでの事業を縮小しようとしている。

イタリア国際問題研究所のナタリー・トッチ所長は、「取り返しのつかない事態が起きた」と指摘する。

イタリアとロシアの結びつきは東西冷戦期にまで遡る。その時代にイタリア企業は、石油・ガス大手のイタリア炭化水素公社(ENI)や自動車のフィアットを中心に、ソビエト連邦での事業を開始した。西欧最大の共産党を擁したイタリアは、ロシアと西側諸国との仲介役を自任していた。

1990年代初めのソ連崩壊後も、イタリアの主要銀行をはじめ、さらに多くの企業がロシア市場に参入し、両国の関係は深まっていった。ロシア人の間でイタリア製のぜいたく品への嗜好が急速に高まり、新興のロシアの起業家はイタリアの資産に投資した。ベルルスコーニ氏はイタリア首相在任中、NATOが旧ソ連の同盟国だった東欧諸国に拡大することを巡るロシア政府との摩擦を軽減するため、NATOロシア理事会の枠組みを擁護した。

最近では、ロシア政府はサルビーニ氏の同盟と左派「五つ星運動」というイタリアの2つの大きなポピュリズム(大衆迎合主義)政党との関係を深めていた。

ウクライナ侵攻前から見られた関係のひずみ

しかし、国際問題研究所のトッチ所長は、侵攻前でさえ両国関係にはひずみが生じていたと指摘する。ロシア政府がイタリアの内政に関与しているように見えることに国民が反発し、安全保障機関はロシアがリビアに野心を見せることを不快に感じていた。リビアはイタリアの元植民地であり、イタリア政府はエネルギーや移民問題の面で戦略的な懸念を抱いた。

アナリストは、イタリアの対ロ強硬姿勢はドラギ政権が終われば緩む可能性があると指摘する。とりわけ、ウクライナ紛争でイタリア国民の負担が重くなり、それが23年に予定される総選挙の主要な政治的争点となった場合には、その可能性は高まるという。

米ジョージ・ワシントン大学欧州ロシアユーラシア研究所の客員研究員ジョバンナ・デマイオ氏は、「制裁がイタリア経済にどう影響するか次第だ。戦争が続けば、誰が政権をとるにせよ、強硬な姿勢を貫くのは難しいだろう」と予測する。

しかし、大半のアナリストは、ウクライナ侵攻で損なわれたイタリア企業のロシアへ信頼感は元には戻らないと感じている。そうなれば両国の商業的なつながりは急速に失われ、旧来のロシア支持層の力は弱まるだろう。

「停戦になれば制裁の強化は止まる。しかし、ロシアへの依存を弱める流れは変わらない」とステファニーニ氏は言う。「ENIのような大企業は現実を受け入れている。天然ガスの禁輸は実施されるかもしれないし、されないかもしれない。しかし、24年、あるいは25年の冬には、イタリアはもはや天然ガスと電気をロシアに依存していないだろう」

By Amy Kazmin

(2022年5月2日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2022. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation. 』