中国、ソロモンへ周到に進出 リチャード・マクレガー氏

中国、ソロモンへ周到に進出 リチャード・マクレガー氏
豪ロウイー研究所シニアフェロー
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD263WU0W2A420C2000000/

『中国は3月末、南太平洋の島国ソロモン諸島との安全保障協定に基本合意した。中国は太平洋における軍事拠点の構築に関心がないと発言してきたが、本心ではないことがはっきりした。

2018年、中国が南太平洋のバヌアツに軍事施設の建設を検討しているとメディアが報じると、中国外務省の報道官は「まったくの作り話」と否定した。しかし中国とソロモン諸島との協定が真実なのは否定できない。

21年末にソロモン諸島で起きた暴動で中国大使館や華僑が経営する商店が破壊された。これを受けて両国が交渉を急いだ協定は、中国の警察官や民兵組織が携帯できる武器の種類など中国側の要請を詳細に列挙している。
 Richard McGregor 英フィナンシャル・タイムズで北京と上海の支局長を務め、米国の大学で研究員としても活動。中国政治などに関する著書多数。 

中国の意図は明確だ。これまで70年以上、米国とその同盟国が支配してきた太平洋地域に武装警察を配備することだ。伝統的な大国の地位は打撃を受け、中国は広大な太平洋の他の地域でも影響力を持つことになる。

ソロモン諸島の立地は歴史的に重みをもってきた。首都ホニアラのあるガダルカナル島の近辺では今でも日本や連合国の艦船の残骸を確認できる。第2次世界大戦の重要な戦闘の名残だ。連合国と日本はソロモン諸島を支配すれば太平洋を横断する補給線を支配できると考えた。こうした戦略的論理は今でも変わらない。

オーストラリアと米国は協定を無効にしようとしている。ニュージーランドも豪州のタカ派的な対中政策に極めて批判的だったが、今回はソロモン諸島の計画に強く反対している。フィジーの首相らもソロモン諸島のソガバレ首相に電話をかけ、中国との協定の危険性について警告した。しかしソガバレ氏が考え直す気配はない。

中国はソガバレ氏との関係強化にかなりの時間と資金を費やしてきた。ソガバレ氏は19年に台湾と断交し、中国と国交を結ぶ決定に極めて重要な役割を果たした。豪州はこの地域における最大の援助国で安全保障の主要な提供国だ。しかし太平洋の島国は経済や安全保障のパートナーを多様化することを望んでいる。そうすれば従来のパートナーからもより多くを引き出せると知っているためだ。

中国のソロモン諸島への融資は足元では減少しているが、ソロモン諸島のような太平洋諸国の重要な経済パートナーであることに変わりはない。中国は他国が使えないもうひとつの切り札も持っている。政治学者が「エリート・キャプチャー」と呼ぶ戦術だ。

わかりやすく言えば、中国はこれらの国の指導層のご機嫌取りにいそしみ、会談や旅行の機会を提供する。中国は西側諸国のように臆することなく、自由にこうした手段を行使する。太平洋諸国の指導者は中国に到着すると習近平(シー・ジンピン)国家主席と1対1で会談する機会を与えられる。米国なら国務省の役人とコーヒーを飲むのがせいぜいだろう。

台湾はソロモン諸島で、選挙区ごとの開発プロジェクトを実施できるように、個々の議員に開発資金を提供していた。中国はこの政策を引き継いだ。

西側の政府はこのような戦術を使う意志も能力もない。ソガバレ氏に中国との安保協定を思いとどまらせる別の方法を見つけられるかどうかはまだ不明だ。中国は地域大国として太平洋にとどまるだろう。ソロモン諸島を巡る争いは長期にわたる闘争の最初のエピソードにすぎない。

関連英文はNikkei Asiaサイト(https://s.nikkei.com/3L2bOgz)に

豪は近隣外交の点検を

豪州から北東へわずか2千キロメートルに位置するソロモン諸島への中国の軍事進出は、米国の鼻先に旧ソ連がミサイルを設置し、あわや核戦争の危機を招いたキューバを思い起こさせる。その形容は大げさとしても、南シナ海の軍事拠点化を進める中国の脅威が、南太平洋まで飛び火してきたのは間違いない。

もともと豪州はソロモン諸島と安保条約を結び、治安維持へ軍を常駐させていた時期もある。にもかかわらず中国の進出を許したのは「戦後最大の外交失策」(最大野党の労働党)と非難されても仕方がない。米英との安保協力枠組み「AUKUS(オーカス)」での原子力潜水艦の導入など、対中けん制の強硬策ばかりが注目を浴びるが、第2、第3のソロモンが出ぬよう、地道な近隣外交を再点検すべきだろう。

(編集委員 高橋徹)』