プーチンは病んだ独裁者か
https://kotobukibune.at.webry.info/202205/article_7.html
『1.支配地域をわずかに広げるロシア
5月2日、アメリカ国防総省の高官はロシアのウクライナ侵攻について、ロシア軍が東部でわずかに支配地域を広げたとの分析を明らかにする一方、ロシア軍は、ウクライナ軍の抵抗によって東部で予定通りの侵攻ができていないとの見方を明らかにしました。
高官は、ロシア軍が東部ドネツク州との州境に近いハルキウ州イジュームの東側とルハンスク州のポパスナで支配地域をわずかに広げる動きがあったとしています。
ただ、ウクライナ軍も激しく抵抗しており、戦況は一進一退。ハルキウではロシア軍が砲撃を続けているものの、直近では、ウクライナ軍がロシア軍を40キロ東に押し戻す動きもあったとのことです。
また、南東部の要衝マリウポリでは、ロシア軍が標的への誘導装置が付いていない無誘導爆弾を用いて攻撃する一方、ロシア軍はマリウポリから兵力を北進させる動きも続けていて、ドンバス地方で抵抗するウクライナ兵を包囲することが狙いとみられています。
このうちハルキウについては、イギリスも分析を進めています。
5月4日、イギリス国防省は、イジューム付近にロシア軍が22の大隊戦術群(BTG)を配置しているとする分析を公表しました。
その分析によると、ロシアはウクライナの防衛ラインを破るのに苦戦しているものの、イジュームを突破し、ドネツク州クラマトルスクとルハンスク州セベロドネツクの攻略を狙っている可能性が高いとしているようです。
イギリス国防省は「これらの都市を攻略すれば、ドンバス北東部のロシア軍の支配が強固になり、この地域のウクライナ軍を切り崩す足場となる」と指摘しています。
2.宣戦布告は戯言だ
ロシアのウクライナ侵攻について、西側諸国を中心に、プーチン大統領が5月9日の対独戦勝記念日に宣戦布告を宣言するのではないかと注目されているのですけれども、5月4日、ロシアのペスコフ大統領報道官は、この件について報道陣に問われ、「ない。この質問にはすでに答えている。たわごとだ」と否定しました。
メディアはロシアの情報機関関係者からの非公式の内部情報をもとに、プーチン大統領は、開戦以来の苦戦にいら立ち、5月7日までのドンバス地方の完全掌握を軍に厳命したと伝えています。
それによると、4月22日にオンラインで行われた安全保障会議で、プーチン大統領はウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州の完全掌握を改めて指示。ゲラシモフ参謀総長は「モルドバはウクライナのような抵抗はできない。いいボーナスになる……時間はかかるが、ウクライナ南部のニコラエフ州やオデッサ州の占領でも大きな成果が得られよう」とプーチン大統領の命令履行を約束し、数ヶ月後にウクライナ南部とモルドバ全体を支配下に置く構想を示したそうです。
これに対し、プーチン大統領は参謀総長の計画を原則的に支持しながら、「2州の行政境界線への到達が最優先だ」と強調したと伝えています。
これを見る限り、プーチン大統領はオデッサやモルドバの支配よりも、ドネツク、ルガンスク2州の掌握を優先していることが見て取れます。
けれども、これについて、安保会議の専門家グループは、戦力バランスやロシア軍の装備から見て、これら2州掌握という目標達成は疑問であり、ロシア軍に多大な死傷者が出る可能性があるとする戦況分析報告を作成したようです。
その報告書によると、現状ではロシア軍がクリミアを除くウクライナ全土の支配権を失い、42日から65日のうちに戦争が終結する可能性があると予測したと伝えられています。
3.ウクライナ軍の裏にあるアメリカのサポート
今のところ、ロシア軍はプーチン大統領の指示どおり、東部2州の掌握に全力を上げているように見えますけれども、冒頭で述べた通り、ウクライナ軍の抵抗も激しく、必ずしもプーチン大統領が期待している通りには進んではいないようです。
このウクライナ軍の強さの裏には、やはりアメリカのサポートが大きいようです。
5月4日、ニューヨーク・タイムズ紙は、アメリカ情報機関がロシア軍部隊や司令部の位置情報をウクライナに提供し、ロシア軍将官への攻撃を支援していると報じました。
欧米メディアはロシア軍の侵攻以来、少なくとも7人のロシア軍将官が死亡したと報道しており、戦力で劣るウクライナ軍の効果的な反撃につながったとしています。
ニューヨーク・タイムズ紙によると、アメリカは機密衛星や商業衛星などを駆使し、頻繁に場所を変えるロシア軍の移動司令部やその他部隊の位置情報をリアルタイムで把握。ウクライナ軍はアメリカからの情報に加え、独自で傍受したロシア軍の通信内容などから、将官がいると推測される地点を攻撃。中にはアメリカ側から攻撃地点を助言することもあったそうです。
更には、他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国もロシア軍の位置情報を提供しているそうですけれども、5月3日、アメリカ軍ミリー統合参謀本部議長が上院委員会で「アメリカからウクライナに大量の情報が流れるパイプを開放している」と言及しているところを見ると、相当詳細かつ大量の軍事情報がウクライナをサポートしていることが窺えます。
4.戦争の終結シナリオは2つ
ロシアのウクライナ侵攻はどのようにして終わりを告げるのか。
これについて、ウクライナは3月始めの段階で2つのシナリオがあると明かしています。
ウクライナ国防省の情報機関「情報総局」のキリロ・ブダーノウ局長は、ウクライナの週刊誌Novoye Vremya(The New Times)のインタビューに対し「1つ目の戦争終結シナリオはロシアが3つ以上に分裂することであり、2つ目はロシアの領土一体性が相対的に維持されたまま国家のトップが交代することだ」と述べました。
ブダーノウ局長は、2つ目のシナリオとなる場合、ロシアの新首脳は、それまでの首脳は「病んだ独裁者」であったとして、これまでの首脳陣が行ってきたことを国として否定するだろうとの見方を示し、その時は、ロシアが現在占領している北方領土からケーニヒスベルクまでの領土を返還するだろうと指摘しました。
そして、ブダーノウ局長は「これが2つの道だ。ロシアの軍事・政治首脳陣の大半はこれを知っている。正にそれが故に、皆が口にしている公式なレトリックとは裏腹に、非常に多くの西側世界との対話の試みが行われている……彼らは自らの賭け金を失うことを恐れている。彼らは、それが非常に迅速に彼らにとってどのように終結するかを理解しているのだ」と述べ、現在の戦争にウクライナが勝利することへの確信を示しつつ、「プーチンに退路を残すことは戦略の一つではあるが、しかし、それはほとんど非現実的だ。彼は全世界にとっての戦争犯罪者なのだ。これは彼の終わりであり、彼は自分で自分を袋小路に追いやったのだ」と強調しています。
5.病んだ独裁者
ブダーノウ局長は、プーチン大統領のことを「病んだ独裁者」と呼びましたけれども、病んでいるのが精神なのか、肉体なのか、あるいはその両方なのか。
4月21日、プーチン大統領とショイグ国防相の対面会談の映像が公開され、その中でプーチン大統領の様子が変だとネットなどで騒ぎになりました。
映像では、椅子に座っているプーチン大統領は、右手でテーブルの端をつかみ続け、ひじ掛けに乗せた右腕も微動だにしませんでした。プーチン大統領は、背もたれに上半身をのけぞらせ、首は硬直しているようにも見え、確かに普通に座っている感じでは全然ありません。
イギリスメディアは、数年前からプーチン大統領の体調不安を報じ、パーキンソン病を患っていると指摘。更にロシアの独立系メディアは今月、甲状腺がんの専門家が南部ソチにあるプーチン大統領の別荘を頻繁に訪問していると報道しています。
これについて、先述のロシア情報機関関係者の内部情報によると「主治医はプーチンにパーキンソン病の症状を抑える薬を新薬に代えるよう説得したが、大統領はこれを拒否し、震えを隠すため、テーブルの端を握りしめた」とし、ショイグ国防相が私服だったことについても「大統領は特殊作戦の苦戦に強い不満を抱いており、国防相を作戦失敗の主犯の一人と考え、軍服を着せなかった」と明かしているようです。
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6.ニコライ・パトルシェフ
プーチン大統領が病に侵されている説はそれだけではありません。
4月30日、イギリスの大衆紙「デイリー・メイル」「ザ・サン」「ザ・ミラー」は、プーチン大統領がガンの手術で一時的に軍事作戦の指揮権を手放すと報じました。
どうやら情報源は、先述したロシア情報機関関係者の内部情報のようなのですけれども、それによると、プーチン大統領は胃ガンが進行して医師団から手術を強く勧められ、当初4月後半に予定していたのが延期され、5月9日の戦勝記念日が終わってからになるようです。
手術には数日入院する必要があり、また術後も直ちに復帰するのは難しいだろうと考えられているため、プーチン大統領は一時的に軍事作戦の指揮権を手放し、ロシア連邦安全保障会議の書記で元FSB(ロシア連邦保安庁)長官のニコライ・パトルシェフ氏に指揮権を委託するとしています。
パトルシェフ氏は、かつてはKGBでプーチン大統領と経歴を共有。プーチン大統領との関係も良く、二人は2時間に及ぶ面談の末、この人事が決まったと言われています。
この面談でプーチン大統領はパトルシェフ氏に、ロシアの権力構造の中でただ一人信頼に足る友人だと伝え、「もし、手術後の経過が悪く国家行政に支障が出るようになったら行政権もあなたに一時的に委託するつもりだ」と言ったとされています。
ロシア連邦の憲法では、大統領が職務を遂行できなくなった場合は首相に権限を移譲するよう定めているのですけれども、現首相のミハイル・ミシュスチン氏は技術官僚出身で、軍隊での経験もないことから、プーチン大統領に忌避されたようです。
この報道が本当に正しいのかどうか分かりませんけれども、もし5月9日以降にプーチン大統領が姿を隠し、パトルシェフ氏が代行として出てくるようであれば、その可能性は高いと見ていいかもしれません。
ただ、それは同時にプーチン大統領にとっても最大のピンチであるともいえます。なぜなら、暗殺の危険も考えられるからです。
当然、手術は執刀医以外誰も入れない秘密のどこかで行われると思いますけれども、手術前後は動けないでしょうから、襲われでもしたら一溜りもありません。
それ以前に、執刀医を脅すか買収するかして、プーチン大統領の体に何か細工でもさせてやれば、それで終わりです。
その意味では、これはある意味プーチン大統領の権力がどれほど実効性を持っているのかを推し量るものになるかもしれません。
5月9日以降のプーチン大統領の動静には要注目です。
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