ロシアとの向き合い方、再考を 防衛研究所・兵頭氏インタビュー【政界Web】

ロシアとの向き合い方、再考を 防衛研究所・兵頭氏インタビュー【政界Web】
https://www.jiji.com/jc/v8?id=20220429seikaiweb

※ 今日は、こんなところで…。

『ロシアのウクライナ侵攻は開始から2カ月を超え、長期化の様相を見せる。この間、ロシアは原子力発電所や病院への攻撃、民間人虐殺などの戦争犯罪が疑われる事案を繰り返してきた。

防衛研究所の兵頭慎治・政策研究部長は、日本の隣国でもあるロシアとの向き合い方を考え直す必要があると指摘。政府が年末に改定する国家安全保障戦略でロシアに関する表現を改めるよう求めた。(聞き手・時事通信政治部 梅崎勇介)

戦果急ぐロシア

インタビューに答える防衛研究所政策研究部長の兵頭慎治氏=2022年4月22日、東京都新宿区【時事通信社】

 ―ロシアがウクライナ南東部のマリウポリを制圧したと発表した。

 実際はしていない。製鉄所の中にまだ部隊が残っている。ロシアのプーチン大統領が「制圧した」と一方的に宣言した。なぜか。当初は東部のドネツク、ルガンスク2州の完全制圧を考えていたが、(対独戦勝記念日の)5月9日までの戦果をアピールする材料がかなり厳しくなってきた。最低限マリウポリだけでも制圧し、戦果にする必要があったので、まだ完全に制圧していないにもかかわらず制圧宣言をした。政治的な判断だ。

 ―5月9日に向け東部2州の支配を急ぐか。

 ロシアにとって最も理想的なのは、5月9日までに東部2州を完全に制圧することだ。なぜかというと、「ロシア系住民がウクライナから危害を加えてられているから、今回の『特別軍事作戦』を始めた」というのがロシアの国内に向けた説明なので、まず2州は完全に押さえないと軍事作戦の大義が説明できなくなる。ただ、9日までに2州を完全に取れない可能性が高い。』

『―キーウ(キエフ)への攻撃も続くか。

 攻撃は続けるだろう。ただ、制圧に向けた動きではない。一つ目の目的はゼレンスキー政権に圧力をかけること。二つ目は、首都防衛に当たるウクライナ軍を引きつけておく必要がある。キーウに全く攻撃しなかったら、彼らが東部に来る。

 ―ロシアは新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」の発射実験を行った。

 ICBMは米国などに向けるものなので、このタイミングで実験したことは政治的なけん制だ。ロシアが核保有国であることを誇示する狙いがある。欧米諸国がウクライナにさらなる軍事支援をすれば、ロシアが核を使用する可能性があると示唆する話になる。

 ―欧米諸国の軍事支援は止まるか。

 止まらないだろう。バイデン米大統領も追加の軍事支援に踏み切っている。ロシア側を勝たせるわけにはいかないと考えている。』

『戦争、長期化か

【図解】ウクライナとロシアの戦力比較

 ―停戦に向けた交渉の状況は。

 ウクライナ、ロシア両国とも戦闘を優先している。停戦交渉と戦闘は表裏一体の関係にある。戦闘で有利な立場の方が交渉でも有利になる。だから東部2州をめぐる攻防が始まる。ここで優勢だった側が有利な状況で交渉できることになる。

 ―戦争は長期化するか。

 長期化の兆しがある。ロシアは5月9日にこだわらず、東部2州を奪取するまで戦闘を続ける。でないと何のための戦争だったのかという批判がロシア国内で出てくる。マリウポリはほぼ制圧しかかっているが、オデッサから西のモルドバまで黒海沿岸を押さえようとしている。そしてキーウの陥落にもう一度挑戦するかどうかによっても、どれぐらい長くなるかが違ってくる。

 今のような猛攻撃は何年もできない。戦費も掛かるしロシア側の犠牲者も増え、兵士の士気が大幅に下がる。どこかで支配地域の拡大はストップせざるを得ないだろう。ただ、散発的な戦闘はその後も続く可能性が高い。

 ―なぜ侵攻は今だったのか。

 まず政治的なタイミングからすると、やはり米国でバイデン政権が発足したからだ。

アフガニスタンからも撤退するし、去年の12月の段階でウクライナで何かあっても直接的な軍事介入はしないと言ってしまった。2014年のクリミア併合のときに軍事的オプションをとらないと最初に宣言したオバマ米大統領と一緒だ。

 プーチン氏も安心だ。米兵が出てくる事態は絶対に困る。直接的な米ロの対決になってしまい、本当に第3次世界大戦、核戦争になる可能性が出てくる。

 なぜ2月24日だったかに関しては、一つはやはり侵攻前にロシアが米国などにNATO(北大西洋条約機構)不拡大の法的保障を要求していたが決裂したことがある。

後は北京五輪というタイミングでいつやるのかということはやはりあった。

それから地面の状態は大きな影響があるので、そろそろ(氷が解けて)ぬかるんできていると思うが、2月のギリギリのタイミングだったが侵攻した。いろんなレベルのタイミングがある。

モスクワのロシア大統領府でショイグ国防相(右)から報告を受けるプーチン大統領=2022年4月21日(ロシア大統領府提供)【AFP時事】

非合理な侵攻

 ―侵攻はあり得ると思っていたか。

 東部への限定的な侵攻はあると思ったが、全土に侵攻する可能性は低いと思っていた。
なぜならば、国境付近に(兵力が)10万人しかいなかったから。全土を侵攻するなら80万人上いないとできない。

こんな数でウクライナ全土を短期間で侵攻できると判断したこと自体が非合理だ。私だけでなく、ロシアの有識者も欧米のロシア専門家もみんな全土はないだろうと思っていた。
 ―ロシアは侵攻を早く終える予定だった。

 当初は2週間で終わる見通しだった。非常に見積もりが甘い。FSB(連邦保安庁)「第5局」の情報が誤っていたんじゃないかと言われていて、職員150人が追放された。
 ―ウクライナが善戦する理由は。

 一つは14年に1回目の侵攻を受けている。また来る可能性があるから彼らが能力を高める努力をしてきたということと、欧米諸国がそれを支援してきた。

お金も装備も軍事顧問団も送っている。今はインテリジェンス協力もやっている。そこもロシアは十分評価していなかった。

プーチン氏の被害妄想

北大西洋条約機構(NATO)外相会議の後、記者会見するウクライナのクレバ外相=2022年4月7日、ベルギー・ブリュッセルのNATO本部

 ―プーチン氏は西側を敵視している。

 冷戦の敗者になってソビエト連邦が解体し、旧ソ連地域でロシアの影響圏を失った。米国が仕切るNATOが拡大してきて、「封じ込めようとしてきている」「圧力をかけようとしてきている」という強烈な被害妄想がある。

 ―NATO側にその意図はないか。

 ブッシュ政権のときのネオコンにはあった。だけど今の民主党政権にはないのではないか。

 ―フィンランドとスウェーデンがNATO加盟を申請。新たな火種になるか。

 ロシアがやり過ぎた副作用、自ら招いたオウンゴールみたいなところがある。

ただ、ウクライナとフィンランド、スウェーデンはロシアにとって違う。

ウクライナは自らの影響圏の中にあるし、ロシアにとって旧ソ連地域の中でも一番重要な国だ。自らの歴史的ルーツでもあるし、民族的にも近いし地政学的にも重要。

フィンランドとスウェーデンはそこまでではない。自らの影響圏の中にあるとは思っていない。

多連装ロケットランチャーBM21で攻撃するウクライナ軍=2022年4月10日 、ウクライナ東部ルガンスク近郊【AFP時事】

 だがフィンランドが入ればロシアとNATOの国境が1300キロ増える。そうするとロシアは国境近くに攻撃的な兵器を置かれることを心配する。国境付近に部隊を近づけ、「バルト海が非核地帯ではなくなる」と言ってけん制を始めている。カリーニングラード(ヨーロッパにあるロシアの飛び地)に核を置く可能性を示唆している。

 ―ロシアの行いにより西側は逆に結束した。

 対ロ制裁・批判のところで、かなり欧米諸国の結束力は高まった。強力な制裁に早く踏み込み、日本も石炭の禁輸や外交官の追放など、欧米諸国と足並みをそろえるような厳しい制裁に踏み切った。

 ただ、欧米諸国は特にG7(先進7カ国)、NATO加盟国を中心に高まったとは言えるが、今回のG20(財務相・中央銀行総裁会議)みたいに逆に分断化された国もある。
 ―台湾併合を目指す中国が得た教訓は。

 台湾とウクライナはちょっと違うので一概に比較できないが、力による現状変更をしたときに米国、国際社会がどういう反応をするのか非常に注意深く見極めている。

 国際社会からの激しい経済制裁がどの程度科せられるのか。ロシアも想定外だったと思うが、かなり早い段階で強力な制裁が科せられた。そこは(中国も)少しちゅうちょするのかもしれない。

ロシアは「脅威」か

ウクライナ情勢をめぐる日米欧のオンライン首脳会議で発言する岸田文雄首相=2022年4月19日 [内閣広報室提供]【時事通信社】

 ―日本にとっての教訓は。

 これだけの力による現状変更をしたロシアは日本の隣国でもある。ロシアと安全保障面でどう向き合うのか、もう一度考え直さなければいけない。

 ―自民党の提言はロシアを「現実的な脅威」と位置付けた。

 今の国家安全保障戦略はロシアについて、「安全保障およびエネルギー分野をはじめあらゆる分野で協力を進め、日ロ関係を全体として高めていく」と書かれているが、表現を変えないといけない。

 ―ロシアは弱体化するか。

 ロシアもここまでやると経済力が低下し弱体化してくる。脅威も小さくなると一概に言えないのは、その後に不安定化のリスクがあるからだ。

 ―国際秩序が損なわれた。

 独裁者が間違った判断でよその国を侵略し、力による現状変更ができてしまう怖さがある。

それは中国もそうだ。何でもかんでも合理的に説明できるわけではない。一定の臨界点を超えた非合理の世界で戦争が起きる。核が使われる可能性もある。

インタビューに答える防衛研究所政策研究部長の兵頭慎治氏=2022年4月22日、東京都新宿区

(2022年4月29日掲載)

ウクライナ避難民の日本渡航が実現  林外相ポーランド訪問、同行記者報告【政界Web】

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