「ウクライナ戦争」の経済的帰結 岩田一政氏日本経済研究センター理事長

「ウクライナ戦争」の経済的帰結 岩田一政氏
日本経済研究センター理事長
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD21AUY0R20C22A4000000/

『ウクライナへのロシア侵攻により「第2冷戦の時代」が始まった。ロシアが核・化学兵器を使用すれば、第3次世界大戦勃発のリスクもある。米著名投資家のジョージ・ソロス氏は、すでに第3次大戦が始まったとみている。

ロシア軍のウクライナ退出が最も望ましい帰結だが、バーンズ米中央情報局(CIA)長官によれば、ロシアのプーチン大統領は「ウクライナは実体のある国家ではなく、一部は東欧、一部はロシアに属する」と深く確信している。

戦闘の長期化は避けられず、西欧文明と東方正教会文明の境界線で、ウクライナが東西に「引き裂かれた国家」となる可能性もある。

岩田一政・日本経済研究センター理事長(日経センター提供)

対ロシア制裁もあってエネルギーや食糧価格は高騰し、景気悪化とインフレが併存するスタグフレーション圧力が世界で高まっている。

経済協力開発機構(OECD)によれば、侵攻後の1年で世界の成長率は1%低下し、物価は2.5%上昇する。

日本でもエネルギー価格高騰と円安で交易条件の悪化が加速し、実質賃金や1人当たり実質消費に下押し圧力が増している。

エネルギー価格が高騰を続ければ、景気後退、中期的な成長率低下のみならず経常赤字が持続しよう。

「ウクライナ戦争」の影響に加え米国と中国の対立で、安全で強靱(きょうじん)なサプライチェーンの維持は困難になっている。

イエレン米財務長官は、価値観を共有する国がサプライチェーンを構築し、自由貿易を実現する「新たなブレトンウッズ体制」が求められていると述べた。

ロシアは金融制裁によって、国際銀行間通信協会(SWIFT)から除外された。

より衝撃的であったのは、主要7カ国(G7)によるロシア外貨準備の凍結だ。

1930年に創立された国際決済銀行(BIS)は、今回初めて加盟国であるロシアの外貨準備凍結措置に賛同した。この結果、ロシアは6300億ドル(2021年12月末時点)の外貨準備の半分近くを凍結されることになった。

しかし、いずれの制裁措置にも抜け穴がある。

SWIFTからの除外はロシアの主要中堅行が中心で、すべての銀行をカバーしているわけではない。さらにロシアからのエネルギー輸入代金は、ガスプロムバンクを通じればルーブル支払いが可能だ。

また、ロシアは、外貨準備をドルから人民元に大きくシフトしている。中国人民銀行を経由して外貨準備凍結措置を逃れることも可能だ。

世界の通貨体制は、金・ドル本位制(ブレトンウッズ体制I)から、ドル本位制(ブレトンウッズ体制Ⅱ)へと推移してきた。流動性の高い国債市場を備え、完全に開放された資本取引が可能な国際通貨はドル以外に存在しない。

ドル本位制度から締め出されたロシアの地域別外貨準備で、最も保有比率が高いのは自ら保有する金であり、商品(金)を基礎とする通貨体制を構築するかもしれない。

ロシア寄りの国々に限定されるだろうが、スイス金融大手クレディ・スイスのゾルタン・ポザール氏は、それを「ブレトンウッズ体制Ⅲ」の誕生とみている。