頼れぬ米国、日本の覚悟は ミドルパワーが担う国際秩序

頼れぬ米国、日本の覚悟は ミドルパワーが担う国際秩序
編集委員 菅野幹雄
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK275PG0X20C22A4000000/

『2カ月半近いウクライナでの戦乱は、戦後にできた国際秩序の亀裂を決定づけ、安全保障に関する新たな現実を我々に突きつけた。日米欧の民主主義勢力と中国、ロシアなどの強権主義勢力は交わることなく、それぞれの道を歩み始めている。

22日、バイデン米大統領が就任後で初めて来日する予定だ。ロシアの侵攻に対抗した制裁やウクライナ支援、インド太平洋で脅威を増す中国へのけん制など、強固な日米同盟を確認する場となるだろう。そのうえで留意すべき点がある。我々は米国にどこまで頼れるのかという根源的な問いだ。

米国は半年後に連邦議会の中間選挙を迎える。新型コロナウイルスの収束に手を焼き、ガソリン高騰などインフレの高止まりが続くなか、大統領と与党の民主党に劣勢を挽回する道筋がみえない。

わずかな過半数を握る下院では改選後に共和党に大敗を喫するとの見方が優勢となり、現在は50対50の同数である上院の議席も民主党が失う可能性が強まっている。政策や人事の停滞が必至となる。

バイデン再選に不透明感

それだけではない。野党・共和党は2020年の大統領選挙で敗北したトランプ前大統領の「選挙は盗まれた」との根拠に欠く主張をいまだに取り下げていない。

トランプ氏に近く、将来の大統領候補とも目されるフロリダ州のデサンティス知事は選挙犯罪を取り締まる独立組織を設ける州法案に署名した。選挙という民主主義の根幹にも疑念が深まる米国。混迷は2年後の大統領選、あるいはその先まで続く可能性がある。

「私は中間選挙を恐れていない」。バイデン氏は4月30日のホワイトハウス記者会主催の夕食会で明言し、こう続けた。「残り6年の任期で問題を解決できる」。冗談混じりに2年後の大統領選挙での再選への意欲をにじませた。一方、米経済紙の世論調査で「バイデン氏が2期目に挑む」と予想する回答は29%にすぎない。過半数の52%は出馬を疑問視する。

国際情勢の厳しさを考慮すれば、日米同盟の維持と強化の歩みを止めることは考えられない。だが同時に「頼れない米国」という時代の到来に賢く備えることも、日本が留意すべき点ではないか。トランプ前大統領が17年の就任後、米国と欧州の同盟関係を自ら壊した前例もある。

中間選挙で動けなくなる米国、ゼロコロナ政策の難航や秋の共産党大会の準備に追われる中国の習近平(シー・ジンピン)指導部……。新興国もインフレ抑止に動く米連邦準備理事会(FRB)の金利引き上げの余波で、自国経済にストレスがかかる。ウクライナ危機は、国連など国際機関の限界もあぶり出した。

日独仏に連携強化の余地

厳しい環境のなかで追求すべき視点がある。「ミドルパワー」の結束だ。超大国には及ばないものの、日本やドイツ、フランスといった一定の経済力と外交力を持ち価値観や理念を共有する勢力だ。国際秩序の安定を担う数少ない存在といえるのではないか。

前進を示す材料がある。4月24日のフランス大統領選挙の決選投票では現職マクロン氏が極右のマリーヌ・ルペン氏を下し、02年のシラク氏以来の再選を果たした。

得票の差は5年前の同じ顔合わせに比べてほぼ半減した。フランス社会の分断は一段と深まっている。6月の議会選挙は地方レベルでのマクロン氏の信任投票となるだろう。

それでもマクロン氏が勝利したことで世界情勢の風景は大幅に好転した。欧州連合(EU)を軸とした域内連携の強化の路線が維持され、日本と欧州の有力国が協力する下地ができた。

21年12月に就任したドイツのショルツ首相と岸田文雄首相は4月28日、東京で会談した。巨大な輸出市場の中国でなく日本を優先して訪れたことは、ドイツ外交の構造変化を示す。ショルツ氏はエネルギー調達でロシアへの依存度を急速に引き下げ、国内に慎重論が強かった重火器のウクライナへの支援も打ち出した。「質的に日独関係を新たなレベルに引き上げる」という同氏の発言は単なるリップサービスではないだろう。

「黄金の3年間」担う責任

日本はどうか。夏の参院選の結果は先取りできないものの、岸田内閣の支持率は60%台と比較的安定している。劇的な失点がない限りは、自民党を軸とする政権の優位は動きがたい。その後には、衆院議員の任期となる25年まで大きな国政選挙がない、いわゆる「黄金の3年間」が訪れる。

選挙を経た日独仏の首脳がともに当面は安定した政権基盤を保つことは前向きな材料だ。気候変動や新型コロナなどの疫病対策、経済や通商のルール形成といった多国間による協議をけん引できるのは、ミドルパワーしかないのではないか。

岸田首相はベトナムなどを訪問し、対ロシア結束を呼びかけている(右はベトナムのファム・ミン・チン首相、1日、ハノイ)=共同

機能不全がいわれる国連の改革、20カ国・地域(G20)の今後の運営などにも、もっと主体的に関わるべきだろう。ロシアのウクライナ侵攻が世界中に知らしめた戦闘行為の悲惨さを顧みれば、中長期的な戦争の抑止や核の不拡散についても、ミドルパワーが議論を主導する余地がある。

今年と来年はそれぞれドイツと日本が主要7カ国(G7)議長国を務める。米国、中国、そしてロシアが内向きですくみ合うなか、ミドルパワーが支え役にならなければ、世界の秩序は糸の切れた凧(たこ)のように乱れてしまいかねない。その意味で岸田首相の国際的な責任は想像以上に重い。

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