思索の人、ジョージ・F・ケナンの遺産

思索の人、ジョージ・F・ケナンの遺産 ―― 決して満足しない精神
https://www.asahi.com/international/fa/TKY201201060297.html

※ 今日は、こんなところで…。

『2012年1月10日発売号

ニコラス・トンプソン/ニューヨーカー誌エディター

■考えることを止めない

 (封じ込め戦略のアウトラインを示した)ジョージ・ケナンの名声に影を落とす著作が最初に発表されたのは1967年。600ページものこの大著のフロントカバーには、孤独を漂わせ、読者をみつめる若者がいた。

物語は、周りに溶け込めない中西部の少年時代の話から始まる。この少年こそ、外交経験を知識として身につけ、アメリカでもっとも優れたソビエト分析者になる人物だった。

短期間だったとはいえ、彼は非常に重要な時期に、トルーマン政権の国務省で政策企画部長を務め、第二次世界大戦後の世界を再設計する仕事をしている。

彼はモスクワからの長文電報(1946年)とフォーリン・アフェアーズで発表したX論文(1947年)を通じて、その後、「封じ込め政策」として知られる戦略を描き出し、マーシャルプランの設計にも大きな役割を果たした。

ケナンは、ドイツを分割しておくことの危険、ソビエトとの軍拡レースのリスクを指摘した素晴らしい政策メモランダムもまとめている。

 だが、その後程なく、彼はワシントンのやり方に苛立ちを感じるようになり、ワシントンも彼を厄介な存在とみなすようになる。

ケナンは聡明であるがゆえに苛立ち、遠大なビジョンの持ち主であるがゆえに不満を抱いた。

 この著作は彼がアメリカに失望し、政府を去るところで終わる。

『ジョージ・ケナン回顧録1925―1950(上巻)』を世に送り出したのはケナン自身だった。

この回顧録は、20世紀の自伝としては自己批判と省察にあふれている点で傑出している。その後、私を含む数多くの作家や研究者が彼の伝記をまとめ、タマネギの皮を一枚ずつはぐようにケナンの実像に迫ろうと試みた。新たに発見された文書や日記によって、それまで知られていた彼の実像がますます鮮明に描き出されるようになった。

 そして、2011年11月、歴史家のジョン・ルイス・ギャディスの手になるケナンの公的な伝記がついに世に送り出された。『George F. Kennan: An American Life=ジョージ・ケナン あるアメリカ人の一生』は、緻密なインタビュー、そして、自分の夢を書き留めた彼のメモを含むケナンのすべての日記を前提にまとめられている。

 ギャディスが描き出しているのは、『ジョージ・ケナン回顧録』で彼がヒーローとみなすような、賢明で、物事を深く考える人物だ。

 ケナンは同時代に起きた主要な戦争のすべてを予見していた。

1940年、彼はアメリカがドイツとの戦争にいつ介入するか、アメリカが勝利を収めるのに何年かかるかを的確に予測していた。

1950年夏には、朝鮮戦争においてダグラス・マッカーサーに大きな権限を与えることのリスクを彼は警告した。

1966年には、ベトナム戦争を戦い続けることの危険を分析し、栄誉ある撤退を促している。

ケナンは、この間ずっと厳格な自己批判、自虐的な考えを自分のメモとして書き残している。ギャディスが引用している日記の一節は次のようなものだ。「自分がひ弱で、幼稚で、役に立たないだめな人間に思えることがある」。彼の聡明さと自己卑下は常に表裏一体をなしていた。

 彼の影響力が頂点に達していた1949年、政策企画部長を辞任することを考えていたケナンは、ディーン・アチソン国務長官(当時)に宛てた手紙で「寄生虫に侵され断末魔状態の社会秩序のなかで有力なポストにあることは不幸な慰めでしかありません」と書いている。

これと同じ態度が、その後の40年間における歴史家、エッセイスト、そして核兵器に頼る愚かさを批判した評論家としての彼の人生にもみてとれる。

 ギャディスの著作が明らかにしているように、ケナンが退屈で凡庸な存在だったことは一度もなく、また彼が人生に退屈したこともなかった。

たびたび病にかかったが、病身にあっても彼が思索を止めることはなかった。

彼の人生は、いかにすれば自分が、そして自分の国がよりよい存在になれるかを考えることにあった。

生産的な時間も数多くあった。101歳まで生きた彼は、96歳のときに最後の著作を世に送りだしている。

1950年代半ばに彼は「人間、少なくとも私のような人間は、何かに突き動かされるか、追いかけられるか、取り憑かれて、毎日を地球最後の日であるかのように送らないと、まともな生活はできない」と書き残している。

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Nicolas Thompson ニューヨーカー誌のシニアエディターで、The Hawk and the Doves: Paul Nitze, George Kennan, and the History of the Cold Warの著者。ニューアメリカン財団のフェロー。

 <フォーリン・アフェアーズ・リポート2012年1月号掲載>

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