米株急落、高まる3つの不安 インフレ・企業業績・中国

米株急落、高まる3つの不安 インフレ・企業業績・中国
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『【ニューヨーク=斉藤雄太】米国の株式市場で売り圧力が強まっている。4月はハイテク株中心のナスダック総合株価指数がリーマン危機以来の急落をみせるなど、主要指数が総崩れとなった。インフレ長期化の見方からより積極的な米利上げへの警戒感が高まったうえ、米企業業績の失速や中国の景気悪化など新たな不安要素も浮上。投資家はリスク回避の株売りを急いでいる。

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4月の米株の動きを振り返ると、とりわけハイテク株の弱さが目立った。ナスダック指数の下落率は13%とリーマン危機直後の2008年10月(18%)以来、13年半ぶりの大きさを記録。小型株で構成するラッセル2000株価指数の下落率は10%、主要大型株のダウ工業株30種平均も月末にかけて崩れ、5%安になった。

投資家がここにきて株売りを強めた要因は大きく3つある。一つが米国の高インフレと、それを抑え込もうとする米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締め路線の終着点がみえないことだ。

29日発表の3月の米個人消費支出(PCE)物価指数は、前年同月比の上昇率が6.6%と約40年ぶりの大きさを記録した。それ以上に市場関係者が注目したのは、同日公表の1~3月期の雇用コスト指数だ。季節調整済みの前期比で1.4%上昇と市場予想を上回り、2001年の統計開始以降で最大の伸びになった。同指数は賃金や福利厚生など人件費の動向を映し、賃上げ圧力が中長期的な物価高につながるという懸念が強まった。

「人件費の高騰を考えると、金利市場におけるFRBの引き締めの織り込みはまだ不十分かもしれない」。米証券ジェフリーズのアネタ・マルコウスカ氏はこう指摘する。同社は23年夏にかけて政策金利が4%以上になると予想。3月時点の米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の中心シナリオは、政策金利が2.8%で頭打ちになるとの見立てだったが、より多くの利上げを迫られるとみる。

FRBは5月会合で国債などの保有資産を減らす量的引き締め(QT)を決め、急ピッチで資産を圧縮する構えもみせる。一連の引き締め観測が米長期金利の急上昇(国債価格の急落)につながり、指標となる10年物国債利回りの4月の上昇幅は0.6%と09年12月以来の大きさになった。金利上昇は将来的な企業価値の算定に影響を及ぼし、成長期待を強く織り込んでいるハイテク株や小型株の売りにつながった。

金利の上昇は本来、利ざやの改善を通じて銀行収益には追い風になる。ところが4月はJPモルガン・チェースが12%安、シティグループは10%安と大手銀行株も振るわなかった。景気悪化によるビジネスの伸び悩みや不良債権の増加などへの投資家の不安がのぞく。

2つ目の要因は企業業績の悪化だ。4月に発表が相次いだ1~3月期決算では、総じてみれば保守的な事前予想を上回る企業も多かった。ただ成長期待の剝落した一部の人気銘柄が売り込まれ、市場全体のムードが悪くなる日も目立った。

例えば米動画配信大手のネットフリックス株は会員数が過去10年で初めて減少に転じたことで売りが殺到し、4月だけで株価はほぼ半値になった。29日は前日に7年ぶりの最終赤字転落を公表したアマゾン・ドット・コムが標的になり、1日で14%安と急落。ハイテク株売りを勢いづけた。

さらに世界景気の先行き不安が3つ目の株安要因となる。世界2位の経済大国の中国で新型コロナウイルスの感染が拡大。都市封鎖(ロックダウン)などで感染を強引に抑え込もうとする「ゼロコロナ」方針が、需要の減少と供給制約悪化の両面で米国株にも逆風となっている。

中国国家統計局が30日発表した2022年4月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は47.4と、前月より2.1ポイント低下した。2カ月連続で好調・不調の境目である50を下回った。4月は中国経済が初めて新型コロナの打撃を受けた20年2月(35.7)以来の低さとなり、物流の混乱などで景況感が一段と悪化している。

中国のマイナス影響を受ける代表例がアップルだ。一部の生産拠点が一時閉鎖を迫られ、部品供給の復旧にはなお時間がかかる見通し。アップル株は4月に10%下落した。米オアンダのエドワード・モヤ氏は「中国の影響がなければアップルの決算は堅調だったが、今は供給制約の不確実性が強い」と話す。ボーイングやゼネラル・エレクトリック(GE)といった主要製造業の株も売りが優勢になっている。

2月に始まったロシアのウクライナ侵攻もいまだに収束のめどが立たない。これが資源価格の高止まりや企業の調達網見直しにつながり「インフレは少なくとも2年は続く前提で景気や政策を展望する必要がある」(あるヘッジファンド運用者)との見方が広がっている。

米国内外の景気悪化や株価の下落が急速に進むと、これまではFRBが金融引き締めの手綱を緩め、市場の安定を図ってきた。ところが現在はインフレ退治を最優先課題に据えるFRBが急ピッチの利上げやQTを断念する気配は乏しい。「救世主」不在のなか、米株相場は反転のきっかけをつかめずにいる。』