円安加速、政策にジレンマ 緩和修正なら利払い負担増

円安加速、政策にジレンマ 緩和修正なら利払い負担増
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『円安が加速している。日銀が金融緩和の継続を強調し、金融引き締めを急ぐ米国との違いが改めて際立った。円安は資源高にねざす輸入価格の上昇に拍車をかける。だが政府・日銀は対応に手をやき、政策の枠組みは様々な矛盾をはらむ。市場はジレンマを突いて一段の円売りを進めようとする。連鎖を断ち切るには構造問題に切り込む必要がある。

28日のニューヨーク外為市場で円相場は一時1ドル=131円25銭近辺をつけ、20年ぶりの安値水準をさらに更新した。日銀が金融緩和を続ける姿勢を明確にし「円相場は日銀の考慮の対象外」(オランダ金融大手ING)との反応が広がった。

背景には世界的な資源高がある。米国では国内発の要因と相まってインフレが急加速し、米連邦準備理事会(FRB)が金融引き締めに入った。資源を輸入に頼る日本は、輸入品の値上がりによる海外発の「輸入インフレ」が景気に強い下押し圧力をかける。国内要因の物価上昇は鈍く、金融政策の正常化は遠い。この対比が日米金利差の拡大をもたらし、強烈な円安圧力を生んだ。

輸入インフレ対応で主役を担うのは政府の財政政策だ。26日にはガソリン補助金の拡充や生活困窮者への現金給付を柱に物価高対策を決めた。日銀は金融緩和を続けて景気を下支えし、政府の対策を側面支援する。円安阻止に向けて直接の対処が必要になれば、財務省が円買い介入に動く。

だが政府・日銀は円安への対応に苦慮し、さらなる円売りを招いている。物価高の主因は世界的な資源高だが、円安は高騰する資源価格を円換算で膨らませ、輸入インフレに拍車をかける。

日銀は輸入インフレの悪影響を弱めようと金融緩和を続ける。ところが副産物として円安が進むと、かえって輸入インフレが加速し、家計や企業を苦しめる。そんな矛盾した状況は長続きしないとみて円売り攻勢をかける海外投資家も多い。

影響は政府の対策にも及ぶ。円安でインフレが進むと歳出規模が膨らみかねない。日銀が金利上昇を容認すれば円安は収まる可能性もあるが、政府債務が膨張するなかでも国債の元利払い金が少なくすんでいるのは、日銀が国債の利回りを低く抑えている力が大きい。財政は日銀が生む円安で歳出膨張リスクを負うと同時に、同じ日銀による低金利維持によって支えられている。

いざというときの円買い介入にもハードルがある。鈴木俊一財務相が「悪い円安」と言及するなど財務省は円安進行に神経をとがらせるが、日銀が緩和姿勢を強調すればするほど円安が加速してきたのが実態だ。日銀が生む円安を財務省がけん制する姿は金融当局間の足並みの乱れを連想させ「米国の理解は得られにくい」との思惑を生む。

もし日銀が円安阻止に向けて金融緩和を修正すると、住宅ローン金利の上昇や企業の借金負担の増大を招く可能性がある。円安が止まっても輸入インフレ自体が終息するとは限らず、金利上昇が物価高による所得や収益の減少に追い打ちをかけかねない。日銀が円安の経済への影響について「全体ではプラス」との評価を崩さない以上、円安批判が強まったとしても軽々には動けない。

参院選を夏に控えたなかでの政策変更には政治的なリスクも伴う。自民党の安倍晋三元首相が円安是正に「金融政策を使うことは間違っている」と語るなど、今のところ与党内には現状の政府・日銀の役割分担を理解する空気がある。政策は現状維持に傾きやすい。

円安を巡るジレンマは日本が抱える構造的な弱さを映す。東日本大震災後の原子力発電所の稼働停止で日本のエネルギー調達は化石燃料の輸入に一段と頼るようになった。震災前に20%程度だった日本のエネルギー自給率は2020年には主な先進国で最低水準の11%に落ち込んだ。

市場では経常収支の赤字懸念がくすぶる。経常赤字になると輸入企業の円売り需要の増大がさらなる円安を生み、それが経常赤字を膨らませる悪循環を生みかねない。

政府の物価高対策もガソリン高騰の痛みを和らげる対症療法が中心で、再生可能エネルギーの普及促進を含む抜本策には踏み込めていない。

内閣府によると日本の製造業の海外生産比率は前回1ドル=130円台をつけた02年度の13%台から直近の21年度には22%台に達する見込み。日本に残った企業の競争力は衰え、円安効果を生かしにくくなっている。エネルギー調達や産業競争力の向上といった問題に手をつけないと、抜本的な解決は望めそうにない。

(金融政策・市場エディター 大塚節雄)

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