ロシア、制裁で傷む経済 3月の製造業生産マイナスに
インフレ懸念、利下げ制約
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『ウクライナ侵攻をめぐり米欧から制裁を受けるロシアで、実体経済の傷みが目立ってきた。禁輸措置などのあおりを受け、3月の製造業の生産指数は前年同月比で1年1カ月ぶりにマイナスに転じた。ロシア中央銀行は2回連続の利下げを決めたが、インフレ懸念から大胆な金融緩和には踏み切れない。ロシア経済の冷え込みが続けば、軍事作戦継続への影響が出そうだ。
ロシア中銀は29日、政策金利を17%から14%へと引き下げると決めた。5月4日から実施する。利下げ発表は4月8日に続き2回連続。声明では利下げの背景として「企業は生産や物流面で相当な困難に直面している」と指摘した。
制裁の影響を見えにくくするため、ロシア政府は原油生産量など一部の経済統計の発表を取りやめている。それでも入手可能なデータの分析からは、同国経済の苦境が垣間見える。
一例が鉱工業生産指数で、3月は3%増と2月(6.3%増)から勢いが鈍った。鈍化の主因は製造業だ。2月の6.9%増から一転、3月は0.3%減だった。自動車関連は45.5%低下し、電気機器やたばこも10%以上下がった。
「外資撤退や部品不足による生産減が顕著に表れてきた」(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの土田陽介副主任研究員)。2月下旬以降、欧米や日本は半導体や工作機械の輸出を停止し、ロシア産製品の輸入も禁じた。
外資に頼ってきた自動車生産は特に縮小が目立つ。仏ルノーやトヨタ自動車など車各社は3月にロシアでの生産を相次ぎ止めた。欧州ビジネス協議会(AEB)によると3月のロシアの新車販売台数は前年同月比63%減った。
雇用への影響は深刻だ。米エール大経営大学院によればロシア事業の停止や縮小を表明した企業は750社以上。モスクワ市長は同市の外国企業で働く「約20万人が職を失う恐れがある」とブログに投稿した。
同国の主力産業である石油や天然ガスなど鉱業は7.8%増と堅調さを保っており、鉱工業生産指数全体ではプラス圏を維持した。欧州などはエネルギーをロシアに依存し、禁輸に踏み切れていない。
ただし直近では消費者からの批判を懸念して、商社などがロシア産原油を自主的に回避する動きがじわりと広がる。金融調査会社リフィニティブによると、欧州北西部向けの輸出量は3月後半以降、前年同期を1~2割下回る週が目立ち始めた。
国際エネルギー機関(IEA)は、ロシア産の石油供給が5月以降日量300万バレル減るとの見方を示す。輸出量の4割に相当する。主に欧州向けに輸出されるロシア産原油は需要鈍化のせいで国際価格に比べて約3割安で取引されている。
国際金融協会(IIF)の分析では原油・石油製品・天然ガスはロシアの輸出の5~6割、財政収入の25%を占める。「輸出や生産が落ち込めば財政への打撃は大きく、支出削減を迫られる可能性がある」(IIF)
景況感の悪化を受け、ロシア中銀は金融政策を見直している。2月下旬はルーブル急落を食い止めるため政策金利をそれまでの約2倍となる20%に引き上げた。利上げや資本の流出規制でルーブル相場が回復すると、景気下支えのため一転利下げに転じた。
だが「政策金利が十数%に高止まりするうちは、景気を刺激する効果は乏しい」(第一生命経済研究所の西浜徹主席エコノミスト)。政策金利をウクライナ侵攻前の1ケタ台へ戻せば、制裁による物不足で加速したインフレがさらに悪化しかねない。ロシア中銀によると4月の物価上昇率は前年同月比17.6%に達する。
世界銀行は2022年のロシアの経済成長率を前年比マイナス11%と見込む。国内景気の悪化と外貨収入の減少、インフレに手足を縛られる金融政策という三重苦になっている。
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