フィリピン、大統領選後に迫られるメガFTAの踏み絵
編集委員 高橋徹
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD258WL0V20C22A4000000/
※ 『2010年に発足したアキノ前政権が汚職撲滅に取り組み、その土台の上でドゥテルテ現政権が「ビルド・ビルド・ビルド(造れ・造れ・造れ)」と呼ぶインフラ整備計画を強力に推進した。
総額8兆ペソ(約20兆円)もの事業は、コロナ禍もあって必ずしも順調ではなかったが、構想40年余にして首都マニラに同国初の地下鉄が着工するなど大きな進展をもたらした。』…。
※ ここら辺は、知らんかった…。
※ ドゥテルテ政権は、「インフラ整備」で功績を上げたんだ…。
※ 「麻薬の売人は、撃ち殺してもかまわん!」だけじゃ、無かったんだ…。
※ ただ、相変わらず、「製造業」基盤が薄いことは、弱点のようだが…。
※ 熱帯(高温多湿)に位置する途上国、共通の話しだがな…。
『6年に1度のフィリピン大統領選が5月9日に迫った。世論調査ではかつての独裁者の長男、フェルディナンド・マルコス元上院議員(64)が独走のまま投票日を迎える展開となりそうだ。次期政権への世界の視線は、南シナ海問題を巡る米中対立下での立ち振る舞いに集まりがちだが、新型コロナウイルス禍前にアジア有数の高成長を謳歌した経済の行方にも注目したい。
選挙後の5月下旬の国会が試金石になる。メガFTA(自由貿易協定)とも言える日中韓や東南アジア諸国連合(ASEAN)など15カ国が参加する地域的な包括的経済連携(RCEP)協定を早期に批准できるか、である。
人口と域内総生産(GDP)がいずれも世界の3割を占める巨大経済圏は、今年1月1日に10カ国で発効した。その後、韓国やマレーシアが続き、残るはインドネシアとミャンマー、フィリピンの3カ国だけだ。フィリピンはドゥテルテ大統領が昨年9月に批准書に署名済みだが、上院で承認を得られないまま、国会が2月に休会となった。
批准には上院の3分の2以上の同意が必要だ。全国区で選出された24人の上院議員は、農業団体などの反対意見に敏感なうえ「(同意が)大統領にいかに貸しをつくるかという、影響力誇示の材料になる」(政策研究大学院大の高木佑輔准教授)。
2月の国会では多くの法案が滑り込み採決されるなか、RCEPには審議時間が割り当てられなかった。マルコス氏だけでなく、レニー・ロブレド副大統領(57)やイスコ・モレノ・マニラ市長(47)ら他の主要候補も、ドゥテルテ政権の経済政策はおおむね引き継ぐ考えを示している。新大統領が協定に参加しようと思えば、改めて批准書に署名したうえで、少数精鋭の上院議員たちを説き伏せる必要がある。
ドゥテルテ大統領は後れていたインフラ整備の旗を振りつつ、外資誘致のもうひとつのカギとなるRCEP参画も前向きに進めてきた=ロイター
政治的な駆け引きを脇に置いても、慎重意見には一定の理屈はある。国連貿易開発会議(UNCTAD)が昨年末に公表した試算では、RCEPの関税削減によって負の影響を受ける4カ国のひとつがフィリピンで、輸出が1億ドル(約128億円)目減りするという。
それでもロペス貿易産業相が「不参加なら多大な機会損失が生じる」と訴えるのは、目先の貿易収支の悪化よりも、対内直接投資の誘致競争で後れをとりたくない、という事情が透ける。
1986年の「ピープルパワー革命」で民主化するまで、フィリピンは21年間に及んだマルコス独裁政権下で経済が低迷し「アジアの病人」と皮肉られた。悪名高かった汚職体質により、鉄道や空港、道路などのインフラ整備が進まなかっただけでなく、不透明さを嫌った外資に敬遠されたからだ。
そんな停滞はこの10年余りで様変わりした。2010年に発足したアキノ前政権が汚職撲滅に取り組み、その土台の上でドゥテルテ現政権が「ビルド・ビルド・ビルド(造れ・造れ・造れ)」と呼ぶインフラ整備計画を強力に推進した。
総額8兆ペソ(約20兆円)もの事業は、コロナ禍もあって必ずしも順調ではなかったが、構想40年余にして首都マニラに同国初の地下鉄が着工するなど大きな進展をもたらした。
インフラ整備をてこに外資を呼び込む必要性は、産業構造をみれば一目瞭然だ。鉱工業などの第2次産業が3割強にとどまり、サービスなどの第3次産業が6割近くを占める姿は、まるで先進国。違いは、製造業を飛ばしてサービス経済が発展してきたことだ。
国民の平均年齢が24歳と若い同国で、高止まりする失業率を改善するには、雇用吸収力の大きい製造業の振興がやはり必要だ。そのために資本と技術を持つ外資が欠かせない。IT産業で脚光を浴びつつも、あえて「メーク・イン・インディア」(インドでつくろう)を看板政策に掲げ続けるインドのモディ政権と、事情は似通っている。
人口14億人の内需という外資誘致の武器を持つインドは土壇場でRCEP交渉から離脱したが、1億人のフィリピンにとって、外資向けのセールストークとしてのRCEP加盟は重要な意味を持つ。
アキノ、ドゥテルテ両政権下のフィリピンは、コロナ前まで総じて年率6~7%台の高成長を続けてきた。国際通貨基金(IMF)は最新の経済見通しで、今年の同国のGDP伸び率を6.5%とASEANで最も高くなると予測している。コロナ禍からのV字復興に向かうフィリピンは、中長期でも持続成長を可能にできるか。大統領選の結果にかかわらず、次期政権の最大の宿題といえよう。
[日経ヴェリタス2022年5月1日号]』