インド、対中懸念で豪とFTA アキル・ラメシュ氏米パシフィック・フォーラム常勤フェロー

インド、対中懸念で豪とFTA アキル・ラメシュ氏
米パシフィック・フォーラム常勤フェロー
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD2526Y0V20C22A4000000/

 ※ 米・中ロ対立激化で、世界は「合従連衡」の時代へと突入したか…、にも見える…。

 ※ しかし、安全保障(軍事を含む)の観点だけで視ると、「全体像」を見失う…。

 ※ 各国とも、自国の「安全保障」を図りながら、経済的な分野においては、強か(したたか)に「実利」を取って行く…。

 ※ 経済分野においては、「対立」しながら「協調」する…、ということが可能だ…。
 ※ そういう「複眼思考」が、必要だ…。

『4月2日にインドとオーストラリアが調印した暫定的な自由貿易協定(FTA)は重要な分岐点になる。豪州の対印輸出の85%以上、インドの対豪輸出の96%について関税を撤廃する協定は3つの重要な進展を含んでいる。

まずインドがビジネスに開放され、保護主義から脱却しつつある点だ。第二にインド太平洋地域に中国以外の市場ができることにより、豪州企業が経済的な威圧行為から身を守ることができる。第三に気候変動への取り組みで中国の資源に依存する必要がなくなる。

1947年の独立以来、インドは保護主義の姿勢を堅持し、先進国とのFTAを避けてきた。東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)のような貿易圏にも参加していない。

60~70年代にかけては保護主義が官僚的な認可制度に姿を変え、汚職が横行する土台になった。

91年の新産業政策に始まる経済自由化にもかかわらず、インドが世界に開放されるには30年かかった。

 Akhil Ramesh リスクコンサルティング会社勤務などを経て現職。南アジアなどインド太平洋地域の政治・経済を研究。

インドの方針転換の理由は2つある。1つは世界の製造業へと脱皮を目指すモディ首相の願望、2つ目はインド太平洋地域の地政学や経済状況の変化だ。

交渉が10年以上に及んだ豪州との貿易協定は中国への懸念に突き動かされてまとめられた。

豪州の視点からすれば、中国による経済的な威圧行為が代替市場を探す誘因になった。

中国は2020年に豪州の牛肉や大麦、ワイン、石炭の輸入を停止・制限したり、高関税をかけたりした。今回、豪州のインドへの石炭輸出に対する25%の関税がゼロになり、チタン、リチウム、コバルトなど重要な鉱物の関税もなくなる。印豪の新協定はインド太平洋地域の状況を一変させる可能性がある。

インドは21年10月、深刻なエネルギー危機に見舞われた。5つの州で産業や家庭の電力に必要な石炭が底をつきそうになったからだ。豪州から石炭を輸入すれば電力危機を防ぐことができる。

リチウムやコバルトなどの安定した調達が可能になれば、インドが温暖化ガス排出削減の目標を達成する一助にもなるだろう。よりクリーンな電力に切り替えるという長期的な政策によって、電気自動車(EV)や太陽電池パネル、風力タービンに使用される鉱物の需要が高まると予想される。

自動車の製造や再生可能エネルギーで知られるインド南部では、豪州の重要な鉱物がEVなどの生産に道を開くだろう。豪州産の液化天然ガス(LNG)の関税がゼロになったことで、石炭から再生エネへの移行期の燃料として天然ガスにも期待ができる。

中国の国営メディアが他国との貿易協定に対して好んで使う「ウィンウィン」という表現は印豪の暫定FTAの文脈にもあてはまる。

豪州がダイヤモンドや繊維など労働集約型の輸出品に対する関税を引き下げることで、インド国内で数百万人の雇用が創出される。インドは2国間協定によって、労働力の自由な移動や中国の輸出品が市場にあふれる恐れなど、RCEPに抱いていた懸念も解消できるだろう。

日豪印は3月の経済大臣の会合で、サプライチェーン(供給網)の強化に向けた取り組みを進めることで合意した。インドの豪州とのFTAは日米豪印4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」の発展途上にあるパートナーシップを強化し、4カ国間の経済協力をさらに緊密にするだろう。

関連英文はNikkei Asiaサイト(https://s.nikkei.com/3xD8wMW)に

実利でクアッド強固に

ロシアと関係が深いインドはウクライナ危機の対応で米国との距離を広げる。ロシアを非難する国連総会の決議を棄権し、ロシア産原油の輸入を増やした。クアッドで対中包囲網を築く米国の試みは空中分解しかねない。

盲点は米中の2極で描く直線的な世界観にある。仮にインドがロシア非難で西側と歩調を合わせれば、唯一の選択肢としてロシアは中国への傾斜を強めるだろう。かといってロシアへの支持を明確にしすぎれば、米国が中国を懐柔する融和策に転じる可能性もある。

インドが最も恐れるのは、米ロのいずれの後ろ盾もなく中国と対峙する構図だ。独自の安全保障観を持つインドのクアッド離脱を避けたければ、抽象的な価値観の共有ではなく、通商で現実的な恩恵を与える必要がある。

(編集委員 太田泰彦)』