[FT]北朝鮮政府と地下の新興集団、情報統制回避で攻防

[FT]北朝鮮政府と地下の新興集団、情報統制回避で攻防
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『この調査は米国を拠点とする非営利団体ルーメンが複数の研究者に依頼して実施したもので、フィナンシャル・タイムズ(FT)が内容を確認した。「地下で動く新興のハッカー集団」さながらに、技術に詳しい少数の北朝鮮市民が政府によってスマートフォンに搭載されたソフトウエアや監視システムを潜り抜けようとする実態が浮き彫りになっている。

北朝鮮のハッカーは当局に見つかれば過酷な労働や政治犯収容所での長期収容を強いられる恐れがあり、死刑を宣告される可能性すらある。

ルーメン創設者でハーバード大学ベルファーセンターのフェローでもあるジウン・ペク氏は「北朝鮮政府は国民を情報の真空地帯にとじ込めるためにより多くの法的、社会的、懲罰的、技術的手段を活用するようになっている」と話す。

「国民が国境の外に存在する現実を知り、政府の教えの多くがうそ偽りだと気づくことが(北朝鮮政府の)アキレスけんになっている」

北朝鮮にはかなりのサイバー攻撃力がある。米財務省は4月、人気のオンラインゲーム「アクシー・インフィニティ」のプレーヤーから6億1500万ドル(約790億円)相当の暗号資産(仮想通貨)が奪われた事件に、北朝鮮政府の支援を受けたハッカー集団が関与していると特定した。

一握りの政府機関を介してインターネットにアクセスできる北朝鮮市民が少数存在するとはいえ、大多数の市民は国内のみに設けられた国の「イントラネット」を使えるだけだ。
アンドロイド搭載のスマートフォン使用

多くの北朝鮮市民が使用しているスマートフォンはグーグルのOS「アンドロイド」を搭載した中国製の中位モデルで、技術的にもどちらかというと進んでいる。

しかし、北朝鮮の当局はスマートフォン経由で国民がアクセスできる情報を制御、検閲、監視するために様々な手法を駆使している。その手法は、認められていないプログラムやコンテンツへのアクセスを拒否するデジタル認証システムから、市民のオンライン活動を無作為にスクリーンショットで記録し報告するアプリ「トレース・ビューアー」の活用まで多岐にわたる。

「そもそも北朝鮮のような国がなぜ国民にスマートフォンの使用を認めているのか、非常に興味深い」と言うのは、米ワシントンのシンクタンク、スティムソン・センターのフェロー、マーティン・ウィリアムズ氏だ。ルーメンの調査を共同で執筆している。

ウィリアムズ氏は「教育や商取引において技術のもたらす価値が目に見えるからという理由だ。だが、新しい技術が導入されるたびに政府が意図しない形で使われることもある。もろ刃の剣だ」と指摘する。

北朝鮮は使用者によって通信網を使い分けている。外国人は国際電話をかけたりインターネットを利用できたりするのに対し、北朝鮮市民が利用可能なのは国内通話と国内のイントラネットだけだ。

ルーメンの調査執筆者は脱北者2人に個別にインタビューし、北朝鮮市民が友人や同僚同士で政府のスマートフォンの利用制限をいかにかいくぐっているかを調査した。

調査報告書によると、「スマートフォンにアプリを移す場合には、USBケーブルでスマートフォンをラップトップにつなぐ。スマートフォンをうまく欺くことができれば、スマートフォンにアプリを移動し立ち上げることができる。スマートフォンに搭載されているセキュリティーソフトが検知して削除することもない」。

「その動機はスマートフォンのセキュリティーをかいくぐり、認められていない様々なアプリや写真フィルター、メディアファイルをインストールすることにある」と調査報告書は付け加えている。

こうした手法を活用できるのは技術に詳しい少数の人に限られると、執筆者の1人ウィリアムズ氏は強調する。同氏が聞き取り調査をした脱北者の1人は政府の仕事をしていたプログラマーであり、もう1人は大学生で10年以上コンピューターを利用していたという。

同氏によれば、スマートフォンに対する政府の監視の目をかいくぐる目的は国外の情報を入手したいというものから、スマートフォンの転売価格を引き上げる必要という単純な理由まで様々だが、インタビュー対象者の話からは市民の活動が政府の情報統制「回避」から「もっと過激な抵抗」にシフトしていることがうかがえるという。

北朝鮮政府がこうした活動を危惧していることは、2020年に制定された「反動思想文化排撃法」ににじみ出ている。これは外国文化の所持がみつかった者を罰する法律で、「電話管理プログラムを違法にインストール」することを具体的に禁じる条項も盛り込まれている。

ウィリアムズ氏は「地下で動く新興のハッカー集団と当局とのいたちごっこだ」という。「規模はまだ非常に小さいが、確かに存在している。我々がこれまで目撃したことのなかった現象だ」

By Christian Davies

(2022年4月27日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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