講和条約から70年 国家主権と国際ルールつなぐ法整備を

講和条約から70年 国家主権と国際ルールつなぐ法整備を
編集委員 大石格
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD26AWP0W2A420C2000000/

第2次世界大戦で敗れた日本が米国などと締結したサンフランシスコ講和条約が発効して、今年で70年になる。きょう4月28日はいわゆる「主権回復の日」である。国家主権の重要性は、ロシアのウクライナ侵攻によって再認識させられたが、一方で国際化の進展で国家主権と国際ルールがうまく合わない事例も増えている。両者をつなぐ法整備が必要だ。
4月28日は「主権回復の日」
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28日を主権回復の日と呼ぶ運動を始めたのは小堀桂一郎東大名誉教授だ。1998年に出版した「『国家主権』を考へる」で、「押しつけ憲法をあれだけ祝っておきながら何故(なぜ)独立主権の回復を祝うという気がなかったのか」と国民意識を批判した。これに共鳴した安倍晋三氏は首相在任中だった2013年に政府主催で主権回復の日を祝う記念式典を開催した。
「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」。退席する天皇、皇后両陛下(当時)を万歳三唱で見送る出席者(2013年4月28日、東京・永田町の憲政記念館)

ここでいう国家主権とは要するに独立国かどうかということだ。主権にはもっとさまざまな側面がある。明治政府は1889年に大日本帝国憲法を発布した際、国家主権は天皇にあると定めたが、そもそも主権とは何かをめぐり、意思統一はできていなかった。
明治の思想家の植木枝盛(国会図書館のデジタルアーカイブより)

「主権を以(もっ)て法律制定の権と為(な)す」。自由民権運動の指導者として知られた植木枝盛は1882年に発表した「国家主権論」にこう記した。天皇や将軍の権威による支配でなく、法制度が整うことで国家たり得るという考え方だ。

こうした考え方も踏まえ、明治政府は憲法制定後、矢継ぎ早に法律をつくる。そのひとつが「法例」だった。日本がつくった法律の適用範囲を明記したものだ。

幕末から明治維新にかけては、ある意味で現代を上回る国際化の時代である。日本の主権は出だしから外国の法律や国際ルールと重なる部分をどう取り扱うのかに頭を悩ませたわけだ。ちなみに法例は現在の国際化の波に対応するため、2006年に全面改正され、名称も「法の適用に関する通則法」に変更された。
国際協調で変わる日本の主権概念

戦後日本は、国際協調主義を掲げて再スタートした。そこで、いまの憲法に明記したのが条約順守義務である。98条は「国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵(じゅん)守することを必要とする」と強調する。

日米安全保障条約のような2カ国条約であるか、国際人権規約のような国際条約であるかを問わず、締結して批准したら、法律と同等の拘束力が生じる。国家主権を法制度と捉えれば、主権が部分的に国際ルールに置き換わった、言い換えれば制限された状態になるのだ。

国内法と条約の関係については、電子版コラム「憲法のトリセツ」2019年3月号も参照してほしい。

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問題は、日本国内と国際社会において概念が異なる制度が少なくないことだ。例えば、日本では軍隊と警察は全く異なる存在とみなされるが、諸外国、特に途上国においては軍隊が日常的な治安業務も担当していることが珍しくない。警察がある場合でも、反政府ゲリラと戦えるだけの重武装だったりする。
PKOであらわになった世界とのズレ

日本は1992年にカンボジアにおける国連平和維持活動(PKO)に自衛隊を派遣した。国内の反対論を意識し、文民である警察官も派遣した。そのひとりである高田晴行警視は武装集団に襲われて殉職した。日本での警察活動を念頭に置いて、丸腰に近かった。

警察庁は、海外では重武装できる法整備を求めるのではなく、派遣そのものに応じなくなった。ようやく2006年に再開したが、武器携行基準の見直しはいまもなされていない。武器携行の国内基準と国際水準のずれは、諸外国の軍隊と自衛隊の間にもある。武器携行基準を明確にする法整備はした方がよい。

日本と諸外国の法制度の違いを埋める方法のひとつに、地位協定の締結がある。地位協定というと、日米間のものが有名だが、日本が自衛隊などを海外派遣する際にも結ぶことがある。1994年にザイール(現コンゴ)と交換公文を交わし、2003年にクウェートと、09年にジブチと地位協定を締結した。いずれも自衛隊員らが公務中に犯した罪の裁判権は日本にあると定める。後者には自衛隊が持ち込む物資への関税免除なども記載された。
2009年に日本はジブチと地位協定を締結した

これらをめぐり、日米地位協定と同じような課題も出ている。例えば、ジブチの自衛隊駐屯地でも新型コロナウイルスの感染者が出たが、協定上は駐屯地は治外法権であるため、ジブチ政府による出入り者の検疫は実施されなかった。

日本では、今年初めのコロナの第6波の流行の初期、沖縄、山口、広島3県で爆発的な感染増がみられ、米軍基地からの染みだし感染ではないかとされたが、基地内の立ち入り検査などはできなかった。日本も同じことをジブチでしていることになる。
連合組織と国家主権、悩む欧州

国際秩序において、課題となっているのは、国際機関、なかでも欧州連合(EU)のような一定の統治権を持っている組織と加盟国の主権の関係だ。EUに加盟すると、財政の健全化などが求められるので、財政や金融に関する独自の政策は進めにくくなる。それへの不満などが積もり積もって暴発したのが、20年の英国のEU離脱である。

ウクライナ侵攻によって、EUは一時的に結束力を取り戻しつつあるようにみえるが、国際化の反動としてのナショナリズムの高まりは加盟国の多くで極右勢力が台頭していることからも、うかがえる。龍谷大の高橋進名誉教授は、こうした現象を「再国民化」と呼んでいる。

今後の世界においては、サイバーや宇宙といった従来の主権概念では対処できない分野の課題が増えることが予想される。すでに問題になっているものとしては、海外にあるサーバーを通じた漫画などの著作物やわいせつ映像の流通などが挙げられる。

主権とは何か。それぞれの国の意思はどこまで尊重されるべきなのか。包括的に考え、わかりやすい法制度をつくる必要がある。一般に保守派は国家主権の制限に否定的だが、国家的な損得を考えるのであれば、進むべき方向性は明らかだ。

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