苦悩深める旧ソ連諸国 対応割れたロシアの「裏庭」

苦悩深める旧ソ連諸国 対応割れたロシアの「裏庭」
編集委員 池田元博
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD211JE0R20C22A4000000/

『ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中、旧ソ連諸国が対応に苦慮している。

民間人の大量虐殺がとりざたされるロシアの非人道的な軍事行動には総じて否定的だが、面と向かって反旗を翻せばロシアの反発は必至だ。強硬なロシアの報復を恐れ、目立った外交活動は控えざるを得ないのが実情のようだ。

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影響力を誇示するプーチン氏

ロシアのプーチン大統領は4月8日、旧ソ連構成共和国だった中央アジアのタジキスタンのラフモン大統領、トルクメニスタンのベルドイムハメドフ大統領と相次ぎ電話会談した。いずれも外交関係の樹立30年を記念したもので、「戦略的パートナーシップ」の強化で合意した。

翌9日。プーチン氏はこんどは、同じ旧ソ連のアルメニアのパシニャン首相、アゼルバイジャンのアリエフ大統領と個別に電話会談した。アルメニアとアゼルバイジャンは係争地ナゴルノカラバフを巡って対立している。ロシアは平和維持を目的として現地に軍部隊を派遣しており、電話会談では停戦合意を順守する重要性を確認した。パシニャン氏はさらに19日、訪ロしてプーチン氏と直接会談した。

アルメニアのパシニャン首相(右端)はロシアを訪問し、プーチン氏と会談した(20日、モスクワでの式典)=AP

プーチン氏は12日には、旧ソ連のベラルーシのルカシェンコ大統領とロシア極東の宇宙基地ボストーチヌイを訪れた。会談後の共同記者会見で、プーチン氏は「我々は常にベラルーシを兄弟とみなしてきた」と指摘。ルカシェンコ氏もベラルーシはロシアの「弟分」だと繰り返し、ロシアへの従属姿勢を強調した。

一連の会談は、ウクライナでの軍事作戦に集中する中でも、プーチン氏が自らの「裏庭」とみなす旧ソ連諸国の動静に目を光らせていると誇示する狙いもありそうだ。

12日、ロシア極東アムール州で、ロシアのプーチン大統領(左から2人目)と宇宙基地を視察するベラルーシのルカシェンコ大統領(同3人目)=ロシア大統領府提供、タス共同

では、旧ソ連諸国はロシアのウクライナ侵攻にどう対処しているのか。ロシアを全面的に支持するのはベラルーシだけで、日米欧の制裁対象にもなっている。逆に、すでに完全に西側陣営に入っているバルト3国以外で反ロシアを鮮明にし、軍事侵攻を非難しているのがジョージア(グルジア)とモルドバだ。ジョージアは2008年にロシアと戦火を交えた経緯もある。

それ以外の国々は総じて、ロシアのウクライナ侵攻を冷ややかに受け止めつつも、明確な態度表明を控えている。

立ち位置示した国連決議

こうした各国の立ち位置を如実に示したのが、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた一連の国連総会決議だ。

3月2日にロシア軍の即時撤退を求めた決議、3月24日にウクライナでの人道状況改善に向けた決議、4月7日には国連人権理事会のロシアの理事国資格を停止する決議が採択された。ベラルーシはロシアとともに、すべての決議案に反対。ジョージアとモルドバはいずれも賛成票を投じた。

7日、国連人権理事会からのロシアの追放を決議した国連総会の様子(米ニューヨーク)=AP

他の国々は原則として棄権、あるいは投票に参加しなかった。ただし国連人権理からロシアを追放する決議案には、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンの中央アジア4カ国が反対に回った。

この投票に先立って演説したカザフの代表者は、すべての当事者に戦闘停止を要請した。「ウクライナの人道状況は悲惨だ」と語り、カザフも航空機で3回、合計で50トンを超える支援物資を送ったと明かした。

一方で「この決議案は紛争解決につながらない」と強調。人権理も含めたあらゆる枠組みで交渉プロセスを進めるべきだと主張した。また、ロシアによる大規模な人権侵害の有無を中立的な立場で捜査するのが先決だとして、決議案への反対を表明した。

カザフスタンは1月のデモ鎮圧でロシア軍の支援を受けた(1月6日、モスクワ郊外からカザフに向かうロシア軍兵士)=ロシア国防省提供、AP

カザフ、キルギス、アルメニアはロシア、ベラルーシとともにユーラシア経済同盟に参加する。

さらにタジクも加えた6カ国で、ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」を構成する。

ロシアに肩入れして西側の制裁対象になるのは避けたいが、経済でも政治・軍事面でも依存するロシアとの関係も損ねるわけにはいかないというジレンマを抱える。

日本の外交成果、予断許さず

反ロを鮮明にするジョージアやモルドバにも別の懸念がある。

ジョージアには親ロシア派が実効支配する南オセチアとアブハジア、モルドバには沿ドニエストル地域があり、いずれもロシア軍が駐留する。

ロシアとの対決姿勢を過度に強めれば、ウクライナに次ぐ「標的」になりかねない。

「我々はロシアの制裁逃れに加担しないが、ロシアと交易を続ける以外に道はない」。

あるカザフ政府高官は、自国の苦しい立場をこう説明する。

林芳正外相は脱ロシアを念頭に置いたエネルギー外交の一環として、資源が豊富なカザフ、ウズベクを近く訪問する見通しだ。日本が期待する成果が得られるかは予断を許さない。

池田 元博 』