“制裁破り”の動きにバイデン大統領はイライラ…ロシア産原油の購入を拡大させるインドの言い分

“制裁破り”の動きにバイデン大統領はイライラ…ロシア産原油の購入を拡大させるインドの言い分
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/04240602/?all=1

『中国を包囲する形で連携を目指す日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」を主導する米国のバイデン政権にとって、インドの外交姿勢が大きな問題になりつつある。インドはウクライナに侵攻したロシアに対する国連総会の非難決議を棄権し、西側諸国が主導する経済制裁にも参加していない。

 1947年に英国から独立を果たしたインドは、旧ソビエト連邦の社会主義計画経済をモデルとして経済システムを構築した。右派寄りでヒンドゥー至上主義を支持する年長の世代は、冷戦中にソ連がインド政府を支援してくれたこともあってロシア政府に同情的な傾向が強いと言われている。

 独立してから75年しか経っていないインド人の脳裏に英国支配下の人権蹂躙の記憶が鮮明に残っており、植民地時代の積もり積もった不満から「欧米人に人権や民主主義について説教される筋合いはない」との反発が広まっている。ウクライナ侵攻を巡り「国際社会はロシア糾弾で団結した」とする認識についても、インドでは「欧米人の希望的勘違いだ」とする見方が強い。

 国境紛争を巡り中国の脅威が高まる昨今、ロシア製兵器の主要輸入国であるインドは、ロシア政府との通商関係をなんとしてでも維持したいところだろう。ロシアへの経済制裁に加われば、中国とロシアの接近を後押しすることになりかねない。

 このような理由から西側諸国に同調しないインドをバイデン政権はこれまで大目に見てきたが、ここに来て、インドへのいらだちを募らせている。インドが「制裁破り」ともとれる動きを活発化させているからだ。』

『バイデンの「苦言」にインド財務相は…

 ウクライナ危機以降、インドはロシア産原油を大量に購入している。

 国際エネルギー機関(IEA)によれば、3月のロシア産原油の輸出量は日量570万バレルだった。最大の輸出先である欧州のシェアは2月の61%から41%と急低下し、中国のシェアはほぼ横ばいの24%だったのに対し、インドのシェアは9%と急上昇した。

 ロシア産原油が大幅な割引価格で売られていることが影響していることは間違いない。
「このような状態を放置すれば同盟国や友好国に示しがつかない」と憂慮した米国のバイデン大統領は4月11日のオンライン会談でインドのモディ首相に対して「ロシアからのエネルギー輸入を加速させてはならない」と釘を刺した。

 これに対し、インドのシタラマン財務相が「燃料が安く手に入るなら、なぜ買ってはいけないのか」と疑問を呈するなど両国の溝は埋まっていない。

 世界第3位の原油需要(日量約500万バレル)を誇るインドはロシア産原油の購入拡大に向けて着々と準備を進めているようだ。

 インドの中央銀行は3月中旬、インド・ルピーとロシア・ルーブルを使った貿易決済制度について検討を始めていた(3月18日付フィナンシャル・タイムズ)。

詳細は明らかになっていないが、ロシアの中央銀行とインドの中央銀行がお互いに持ち合っている他国通貨の口座を使ってルーブルとルピーの交換を行い、民間の貿易決済を助ける仕組みだとされている。

 旧ソ連が構築した貿易圏であるコメコン(経済相互援助会議)内では貿易の大半は2国間の通貨建てだった。

インドはコメコンの参加国ではなかったが、旧ソ連と広範に貿易を行っていた。

インド中央銀行は1970年代から90年代前半にかけてルピーとルーブルの交換制度を運営してきた経験があり、国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの主要銀行が排除されたとしても、インドは対ロ貿易を継続させることが比較的容易なのかもしれない。「昨今のロシア産原油購入の決済は米ドルではなく、インド・ルピーとロシア・ルーブルが使用されている」とする観測も出ている。

 インドが今後もロシア産原油の購入を拡大するような事態となれば、「原油の禁輸によりロシアの戦争資金を断つ」という西側諸国の戦略が骨抜きになってしまう。』

『背景に苦しいインドの台所事情

「堪忍袋の緒」が切れつつある米国政府がロシア企業と取引するインド企業を対象に二次的制裁を発動するリスクが生じているが、インドには割安となったロシア産原油の購入を断念できない苦しい台所事情がある。

「2030年に国内総生産(GDP)が日本を抜いて世界第3位になる」と予測されるインドだが、年を追うごとに電力不足は深刻になるばかりだ。

 主な発電燃料は原油と石炭だが、昨年10月以来、石炭の国内在庫の水準が歴史的な低さとなっている。そのせいでインドの電力の予備率は3月中旬に危機的なレベルにまで低下し、「今年の夏は大停電になってしまう」との危機感が高まっている。

 大惨事を回避するためには石油火力発電所のフル稼働が不可欠であり、割安となったロシア産原油は「喉から手が出る」ほど欲しいのだ。

 隣国パキスタンでは通貨安と商品高が招いたインフレの高進が原因で10日、カーン首相が失職に追い込まれた。

エネルギー資源の輸入依存度が高く、ウクライナ危機後の通貨安に悩まされている点ではインドも同じだ。「インフレ圧力が強まるインドの今年の成長率は急減速する」との予測も出ており、世界最大の民主主義国を率いるモディ首相の心中は穏やかではないだろう。
西側諸国のロシア制裁に応じる余裕はなく、国内の安定をひたすら追求するしかないのが実情だと思う。

 成長著しいインド経済の足元は極めて脆弱だと言わざるを得ない。この点を考えれば、インドが西側陣営から離反するのは時間の問題なのではないだろうか。

藤和彦

経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部 』