G7とE7の分断に陥った世界 笛吹く米国、踊らぬ新興国

G7とE7の分断に陥った世界 笛吹く米国、踊らぬ新興国
金融PLUS 金融部長 河浪武史
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB215CK0R20C22A4000000/

『20~22日に開いた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁の関連会議は、共同声明を出せずに決裂して終わった。

あらわになったのは、ロシア問題を巡る日米欧7カ国(G7)と新興国の分断だ。

中ロなど主要新興7カ国(E7)の経済規模は2030年にG7を追い抜くとされる。G7とE7の分断は短期的には対ロ制裁の効果を弱め、長期的には米国と中国の覇権争いのバランスを大きく変化させる。

新興国が対ロ制裁の抜け穴に

ワシントンで開いたG20財務相会議。シルアノフ・ロシア財務相がオンラインで演説を始めようとすると、イエレン米財務長官は席を立って会場から退出した。それでも同調したのは英国など一部にとどまり、中国やブラジルなど新興各国は会場に残ってロシアの主張にじっと耳を傾けた。

米国はロシア非難を明確にするため、同国の会議不参加を求めていた。

議長国のインドネシアがロシアの参加を認めたのは「中国やインド、ブラジルなど新興国側から強い要求があった」(G20同行筋)からだ。G20のうち新興10カ国(ロシア含む)はG7が主導した対ロ制裁にすら加わっていない。米欧はG20会議でロシアの孤立を演出しようとしたが、鮮明になったのはG7と新興国の埋めがたい分断だった。

対ロ圧力を強めるG7。それが世界の本流ととらえると情勢を見誤る。

米欧はハイテク製品のロシア輸出を禁じたが、中国がその代替供給ルートとなる。

インドは4月初旬にロシアと外相会談を開き、原油や武器などの貿易維持を協議。

インドネシアもロシア産原油の輸入再開を検討する。G7が対ロ制裁で結束しても、新興国が同調しなければ効果は思うように発揮できない。

新興国の経済規模はいよいよG7に追いつこうとしている。

G20が初めて公式の首脳会議を開いた2008年、参加する日米欧など10カ国・地域と新興10カ国の域内総生産(GDP)の開きは3.2倍もあった。

それが20年には先進国が46兆ドル、新興国は24兆ドルと1.9倍にまで縮小。その差は今後10年以内についに逆転しそうだ。

PwCの長期経済推計によると、G7(日米欧カナダ)とE7(中国、インド、ブラジル、ロシア、インドネシア、メキシコ、トルコ)のGDP(ドルベース)は30年に逆転し、50年にはE7が1.5倍を超える規模になる。購買力平価(PPP)でみれば既に16年時点でE7がG7を逆転しており、40年にはG7の2倍になるという。

戦後秩序がG7主導で構築されたのは、資本主義と民主主義を基盤とする米欧日に圧倒的な経済力があったからだ。

新興国が経済的に自立すれば、かつてのようなG7頼みは不要になる。エネルギーや通貨を巡る覇権争いも巻き戻され、ドルを基軸とする「ブレトンウッズ体制」は大きく揺さぶられることになる。

 G20財務相・中央銀行総裁会議で演説するウクライナのマルチェンコ財務相(左上の画面)と各国代表者ら=20日、米ワシントン(ウクライナ財務省のツイッターから、共同)

実際、ロシアは国際的な銀行決済網「SWIFT」から排除されたが、中国とロシアは独自決済網の相互接続を協議している。

インドも親ロシアを堅持しており、ドルを使わず自国通貨だけで印ロ貿易を完結させる「ルピー・ルーブル協定」の検討に入った。

対ロ貿易だけでなく、サウジアラビアが中国に人民元建てで原油輸出に乗り出すとの米報道もある。新興国の独自経済圏では「脱ドル」が着実に広がる。

「西側」の貿易自由化を目指して始まったブレトンウッズ体制は、東西冷戦の終結と中国の世界貿易機関(WTO)加盟で、今では世界市場の基盤となった。ドル決済を封じ込める対ロ制裁はブレトンウッズ体制からの排除に近いが、E7の離反は統合しつつあった世界市場の分断にもつながる。

「反ロ」「親ロ」の踏み絵迫る

戦後の自由貿易体制の恩恵を最も受けた国の代表格は、輸出主導で高成長をなし遂げた日本だろう。日本はその一方で、エネルギーの自給率が11.8%、食料自給率(カロリーベース)も37%と、文字通り生命線を海外に委ねている。ウクライナ危機の勃発で円安が一段と進んだのは、供給ショックに弱い日本経済のもろさを厳しく突かれたからだ。

世界経済はトランプ前米政権が仕掛けた米中貿易戦争で「デカップリング」の時代となった。ロシアのウクライナ侵攻は各国に「反ロ」か「親ロ」かの踏み絵を迫るが、それは米国と中国の覇権争いと重なる。インドやブラジルなど多くの新興国は中国への警戒を決して解かないものの、それでも米国に追従するわけではなかった。

国際社会は気候変動対策を中心に、むしろ世界協調が求められる局面だ。ウクライナ危機の終結が遅れれば遅れるほど、G7とE7の分断はさらに深まる懸念がある。

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福井健策
骨董通り法律事務所 代表パートナー/弁護士
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分析・考察

何事もそうですが、大事なのはある現状が揺らぐか否かではなく、揺らいだ時のプランBを考え用意することでしょう。

日本にとっては、記事の後段で触れられた過度の「依存」を、いかに脱して行くかだろうと思います。

我々は、お互いの協力と支えなしには生きられませんが、それと依存は別です。依存とは、特定の対象に自分の生命線を委ねてしまい、それに代わる代替案がない状態をいいます。つまりプランBがないのです。個人にとっても国にとっても、これほど危険なことはありません。

エネルギーや食糧の海外依存にせよ、西側主導体制にせよ、その恩恵に浴してきた日本だからこそ、常にシビアな代替案を考え備えることが大切だと思います。

2022年4月25日 7:52

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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分析・考察

G7とE7の経済規模に関する推計には一つ大きな欠陥がある。

要するに、中露のような強権政治は強権政治のまま、経済成長を続けていけることを前提に置いている。これは明らかに間違っている。

インドは二股かけているが、その「戦略」は持続不可能である。

すなわち、強権政治における資源配分は非効率であり、二股戦略は双方に見放されてしまう。

G7はまさにこれまで歩んできた道を振り替えて、戦略を見直している。むろん、強権政治の国は民主化すれば、話は全然違ってくる。少なくとも技術イノベーションと文化力を考えれば、G7とE7を比較するのは妥当ではないと思う

2022年4月25日 7:19

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白井さゆり
慶應義塾大学総合政策学部 教授
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分析・考察

先進諸国と新興国の立ち位置が逆転し後者の発言力が高まりつつあることはかなり以前から起きていたことだ。

ただ西側の制裁はかなりロシアの経済取引に影響を及ぼしており、新興国がその制裁に公然と反する行為は控えているようにみえる。

また国際取引がドルそしてユーロが中心であることや世界の金融市場や技術力はまだ米国が中心であることが影響している。

最近の経済の減速と株式・債券投資の純流出もあり、中国も西側との関係は維持したいように見える。

ただウクライナ問題が長期化する場合、インドネシアのようにロシアとの取引を再開する新興国が増える可能性もあり、G7は対応を議論しておく必要があるようにと思います。
2022年4月25日 7:08 』