中国、金利低下が映す「人口の崖」 バブル処理困難に

中国、金利低下が映す「人口の崖」 バブル処理困難に
上海=土居倫之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM159FF0V10C22A4000000/

『中国の長期金利が低下している。指標となる10年物国債の利回りは同米国債利回りを約12年ぶりに下回った。

習近平(シー・ジンピン)指導部が堅持する「ゼロコロナ」政策で経済の下振れリスクが高まっているためだ。見逃せないのは中国の金利低下の根底に人口減少と過剰債務という2つの長期的な構造問題が横たわっていることだ。経済停滞から抜け出せない「日本化」に陥りかねない。

「4月の経済指標には大きな下押し圧力が掛かっている」。UBSグローバルウェルスマネジメントの胡一帆氏はこう警鐘を鳴らす。新型コロナウイルスの感染拡大で、中国最大の経済都市、上海市が1カ月近く都市封鎖(ロックダウン)され、中国経済は短期的に下振れリスクが浮上している。野村の陸挺氏は「4~6月の国内総生産(GDP)が前年同期比で減少に転じるリスクが高まっている」と見る。

中国人民銀行(中央銀行)は25日から預金準備率を引き下げる。金融緩和色の強まりで、中国の長期金利は22日時点で2.878%と、新型コロナの大流行で湖北省武漢市が都市封鎖された2020年春の水準(2.6%前後)にじわじわ近づいている。

一方、新型コロナウイルスとの共生を志向する「ウィズコロナ」政策にかじを切った米国などの先進国は利上げの手を緩めない。中国の長期金利は4月中旬以来、米国の長期金利を下回る場面が増えている。

米国を下回る中国の金利水準は、長期的には人口減少社会の到来と過剰債務という不都合な未来を映す鏡でもある。

中国の21年の出生数は1949年の建国以来最も少なかった。2021年から解禁した3人目の出産政策の効果は乏しい。「一人っ子でも経済負担は大きい」(湖北省武漢市の女性)。一人っ子同士の夫婦が双方の両親4人と子ども1人、計5人の面倒を見なければならないケースが大半だからだ。

中国では今後、人口減少が確実視されている。

国連の中位推計によると、中国の人口は10年後の32年に減少に転じる。

20年に約14億4000万人だった人口は、2100年には26%減の約10億6000万人に減る見通しだ。

21年時点での米国の人口(約3億3千万人)の1・1倍に相当する人口の減少に直面することになる。最も出生率が低い低位推計では人口の減少は25年から始まる。今秋の共産党大会での続投を前提にすると、習氏の次の5年の任期(22~27年)中に減少に転じ、2100年には約6億8000万人と半減する。

一方、米国は2100年まで一貫して人口増加が続く。低位推計でも、人口減が始まるのは48年からとなる。

人口が減少すると潜在成長率を押し下げ、デフレ圧力を通じて実質的な債務返済の増大をもたらす。

国際決済銀行(BIS)によると、中国の民間企業債務(除く金融部門)はGDP比で161%(20年)。米国(85%)の2倍近い。約2兆元の負債を抱え、部分的な債務不履行(デフォルト)に陥った中国恒大集団がその象徴的存在と言える。

日本経済新聞社の集計では、住宅販売額上位10社の負債総額は約10兆7000億元(約210兆円、21年6月末)にのぼる。恒大以外にも碧桂園(カントリー・ガーデン・ホールディングス)など1兆元を超える負債を抱える企業は少なくない。

苦しむのは企業だけではない。

人民銀の調査によると、中国の都市部の持ち家比率は9割を超す。一人っ子同士の夫婦の間に生まれた子どもは少なくとも3戸の住宅を相続する可能性が高い。

建築ラッシュが続いた住宅の価格が下落に転じれば、投資目的で複数の住宅を保有する富裕層や不動産会社が売り急ぎ、負の循環を引き起こしかねない。中国に先行して人口減が続く日本はバブル崩壊後に長期停滞に陥った。

中国も手をこまねいてはいない。みずほ銀行(中国)の細川美穂子エコノミストは「中国政府は15年に発表したハイテク産業育成策『中国製造2025』などによって経済の付加価値を高めようとしている」と話す。企業のイノベーション(技術革新)を促し、経済の「高質量発展(質の高い発展)」の実現を掲げる。

だが、中国共産党は力を付けた民間企業を警戒し締め付けを強めている。

アリババ集団傘下の金融会社アント・グループは当局から企業統治などの問題を指摘され、金融ビジネスを段階的に縮小してきた。企業のイノベーションの動きに冷や水を浴びせた。

民間企業を抑え込みながら、経済は成長させていく――。中国はこんな矛盾した経済運営を急速な人口減少という逆風のなかで続けていけるのだろうか。

足元の中国の金利低下はその道筋の険しさを映し出しているようにみえる。

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田中道昭
立教大学ビジネススクール 教授
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コロナ禍前は一桁台後半の経済成長率を誇示してきた中国、今年は5.5%を計画していたものの4%台に低下すると予想する向きが増えています。

ゼロコロナ政策やロックダウンの影響は短期的ですが、過剰債務、政府統制= 国進民退、人口減少等の影響は長期的でより深刻な問題です。

生産年齢人口は2013年にピークに達し、65歳以上の人口が2021年に2億人を突破して高齢化社会に突入しています。

もっとも、金利動向と金融政策が米国と逆転しているのは、経済情勢や物価状況の違いも背景にありますが、米国と反対の政策が実行できる中国の状況は、まだ侮れないその巨大さと底固さ、そして米国経済との分断拡大を象徴していると思います。

2022年4月25日 6:13

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中空麻奈
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
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民間企業を抑え込みながら、経済を成長させる。ゼロコロナを続けながら、構造改革を断行する。ロシアによるウクライナへの侵攻については、あまり表舞台に出てこず。

やはり、中国は国内向けに力を入れつつあるのではないか。

人口構造も、高齢化のスピードも、経済格差も、人口構成の歪さから結婚できない人の増加など、懸念材料は多いが、2022年の秋の全人代を目指して、景気浮揚に照準を合わせてくるはずでもある。

そう考えると、中国リスクがクレジット市場にネガティブな影響を与えたとしても、コントロール可能だと見ていいのではないだろうか。

2022年4月25日 9:44 (2022年4月25日 10:11更新)

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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金利と企業債務は短期的な話であり、人口動態は長期的な構造問題である。

景気が急減速しているのは事実であり、原因は明白である。主要大都市で硬直的に実施されているゼロコロナ政策によるところが大きい。

ウィルスはゼロにはできない。短期的に都市封鎖が解除されない。人流、物流、金流のいずれも寸断されている。

人民銀行は一貫して金利よりも預金準備率操作を好んで行う。金利の低下は国有銀行の収益性を悪化させる。

一方、民営企業の過剰債務は今始まったことではない。それよりも、深刻なのは国有企業の業績悪化。人口動態については、総人口よりも生産年齢人口はすでに減少している。バブルについて温存していくしかない

2022年4月25日 7:31 』