ロシアが勝つ可能性と脆弱な生産インフラ

ロシアが勝つ可能性と脆弱な生産インフラ
https://kotobukibune.at.webry.info/202204/article_24.html

『1.ロシアが勝つ可能性もあるのか

4月22日、イギリスのジョンソン英首相は訪問先のインドで記者会見し、ロシアのウクライナ侵攻が来年末まで続き、最終的にロシアが勝利する「現実的な可能性がある」との見方を示しました。

ジョンション首相はメディアから「戦争が来年末まで延びて、ロシアが勝つ可能性もあるのか」と問われると、「悲しいことに現実的な可能性だと思う…そう、もちろんだ」とし、「ウラジーミル・プーチンが今後数ヶ月の間にどのような軍事的優位をもたらすことができるとしても、それが長い期間になる可能性があることには同意する」と答えました。

その一方、「ウクライナ情勢は予測不可能だが、プーチン氏はウクライナ人の精神を征服することはできないだろう……それが観察可能な事実だ」と述べています。

ロシアが勝利する可能性については、西側諸国の情報機関当局者がそのように見ているようです。

ロイターによると、21日、西側諸国の当局者は匿名を条件に「ロシアのプーチン大統領は当初の目的を明らかに達成できなかったが、まだ勝利できる位置につけている」と指摘。東部のドンバス地方の制圧のほか、最悪の場合は首都キエフに対する攻撃再開もあり得ると述べました。

もっとも、ロシア軍が甚大な損害を被っていることや、欧州の安全保障体制がロシアに不利になったことなどを踏まえると、今回の侵攻はロシアにとり戦略的な誤りだったとの見方も示しています。

2.戦争は早く終わったほうが良い

実際、プーチン大統領は、ロシア軍は勝っていると思っているという話があります。

4月11日、オーストリアのネハンマー首相はロシアを訪問し、プーチン大統領と会談しました。首相報道官によると、会談はモスクワ郊外ノボオガリョボの大統領公邸で行われ、会談時間は75分。これはプーチン大統領との会談としては比較的短いものなのだそうです。

ネハンマー首相は会談後発表した声明で「これは友好的な訪問ではない」とし、「実に率直かつオープンだが厳しい」会談だったと明かした上で、「双方に敗北しかもたらさない戦争」を終わらせる必要があると、プーチン大統領に対し明確にしたと明らかにしました。

また、ネハンマー首相は、他の国はプーチン氏の考えを共有しておらず、戦争が長引けば長引くほど西側諸国の制裁措置が厳しくなるとプーチン大統領に面と向かって伝えることが重要だったとし、「1回でも、10回でも十分でなく、100回言わなくてはならないかもしれない。平和を取り戻し、ウクライナ国民が安全に暮らせるようにするために、あらゆる手段を尽くさなければならない」と述べています。

更に、17日、ネハンマー首相は、アメリカのNBCの番組で、ロシアのウクライナ侵攻の現状についてプーチン大統領が「戦争に勝っていると信じている」との印象を受けたことを明らかにしています。

ネハンマー首相は「彼の思い込みの根拠を十分には説明出来ないだろうが、独自の戦争論理を持っている……抱えている懸念を私に明確に伝え、地上で起きている事柄を十分に理解しているように見えた……戦争はロシアの安全保障を確実にするために必要で、国際社会を信用していない……ウクライナ東部ドンバス地方のジェノサイドではウクライナの責任を詰った」と説明。

そして、会談で、プーチン大統領がドイツ語に切り替え「戦争は早く終わったほうが良い」と主張したことにも触れています。

巷では、プーチン大統領が狂ったとか、正しい情報が伝えられていないなどとも言われていましたけれども、ネハンマー首相の発言が正しければ、ロシア軍が勝っているという認識は脇に置くとしても、状況そのものはちゃんと把握していることになります。

また、プーチン大統領が「戦争は早く終わったほうが良い」とわざわざドイツ語で言ったのは、ドイツに対するメッセージではないかと思います。つまり、終戦・停戦に持ち込める力はドイツが握っている。戦争を終わらせたいのなら、ドイツが主導してNATO、EUを纏め、ウクライナへの支援をやめろ、ということなのではないかということです。

3.主要金利をさらに早く引き下げる可能性がなければならない

その一方、ロシアへの経済制裁はじわじわと効き始めています。

プーチン大統領は、ロシア中央銀行のナビウリナ総裁の他、政府高官とのビデオ会議で、融資活動が滞った場合、経済と流動性の支援に向け国家予算を利用する必要があると指摘。対外貿易の決済をドルやユーロではなく、自国通貨のルーブルで行う手続きの加速化も表明しています。

けれども、これに対し、ナビウリナ総裁は「経済が準備金で生き残れる期間には限りがある。第2、第3四半期には構造転換と新たなビジネスモデルの模索という局面に入るだろう」と発言。

インフレ率は目標を上回る見通しであることについて、原因は需要の拡大ではなく、供給の不足にあると指摘し、「引き下げるために何らかの手段を用いることはない。そうすれば、企業の適応を妨げることになる……インフレ率の伸びは管理不可能ではないはずだ」と述べ、インフレ目標の4%を2024年に達成するとしました。

その上でナビウリナ総裁は「主要金利をさらに早く引き下げる可能性がなければならない。経済への与信を増やす条件を整える必要がある」と語っています。

ロシア中銀はウクライナ侵攻開始直後の2月28日、主要政策金利を緊急的に9.5%から20%に引き上げたのですけれども、その後、定例会合を待たず4月8日に17%に引き下げています。更に29日に行われる次回会合で追加利下げを決定するとみられています。

4月22日のエントリー「円安は悪くない」で、ロシアの政策金利引き上げについて、高橋洋一・嘉悦大学教授は、あまりに高い金利は、経済活動を停滞させてスタグフレーションが起こると指摘していることを紹介しましたけれども、ロシアが金利を早く引き下げようとしているところを見ると、ナビウリナ総裁はこの危険をちゃんと認識している可能性があります。

また、西側諸国の制裁について、ナビウリナ総裁は主に金融市場に影響しているが「今後、経済への影響が拡大し始める。輸入制限と外国貿易の物流が主要課題で将来的には輸出制限も視野に入る……製造業は、新たなパートナーとの物流模索や前世代の製品生産切り替えが必要になる……これら諸々のことには時間がかかる」と述べ、輸出企業の外貨収入売却をより柔軟化することを検討しているとしたほか、ロシア市民がデジタルウォレット間で資金のやり取りをできるよう、デジタルルーブルの発行をテストしていると明かしています。

ナビウリナ総裁は投資家に支持され、ユーロマネー誌やザ・バンカー誌などから世界で最も腕の立つ金融当局者の1人として称賛を受けてきた人物ですけれども、実は、ウクライナ侵攻後に総裁を辞任しようとしたもののプーチン大統領に引き留められたのだそうです。

それだけ、プーチン大統領の信任も篤いといえる反面、目下の制裁下でロシア経済を支えられる人物が他にいないということでもあるかもしれません。

4.脆弱なロシアの生産インフラ

ナビウリナ総裁は、ロシア経済の問題は供給の不足にあると述べていますけれども、欧米など西側諸国の強力な経済制裁により、ロシアの二大戦車メーカーの生産が中断され、他にも自動車工場やIT企業も影響を受けているという観測もあります。

3月30日、アメリカ商務省のテア・ケンドラー輸出管理担当次官補は、33ヶ国が対ロシア輸出規制戦略で協力しているとし、「プーチンの戦争に有意な影響を及ぼす輸出統制と他の措置に対する前例のない協力を導いた……ロシアが輸入する製品の約5%が米国産だが、欧州連合と他の連合国の輸出品を含めればロシア輸入品の約50%を占める……輸出制裁が予想を上回る効果を出している」とコメントしています。

ロシアが輸入する製品の半分がアメリカとEUなど西側諸国からのものであるのなら、それがいきなりゼロになれば、ロシアの生産インフラがボロボロになるのは火を見るより明らかです。

元CBSニュースのエグゼクティブプロデューサーのZev Shalev氏は4月22日に「モスクワ近郊でロシアの兵器製造に関連する2つの施設が数時間のうちに火災を起こした。1つはロシアのイスカンダルミサイルの開発、もう1つはロシア最大の化学溶剤の工場です。この2つの火災は、ロシア国内の反プーチン派の仕業かもしれない」とツイートしていますけれども、ロシアの兵器工場が生産停止すれば、ロシアの継戦能力にも不安が出てきます。

冒頭に取り上げた「戦争が来年末まで延びてロシアが勝つのは現実的な可能性だ」と述べたイギリスのジョンソン首相の発言が、ロシアの生産インフラおよび兵器の在庫をどこまで考慮しての発言なのか分かりませんけれども、ロシアのインフラにどれだけ速やかに修復不能のダメージが与えられるかは、停戦の時期を決める一つの要素になるかもしれませんね。』