ミャンマー「5つの合意」進展乏しく ASEAN会議1年

ミャンマー「5つの合意」進展乏しく ASEAN会議1年
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『東南アジア諸国連合(ASEAN)がミャンマー国軍のクーデターをめぐる対応を協議した特別首脳会議から24日、1年がたった。ASEANの特使の派遣を含む会議の「5つの合意」は進展が乏しい。ウクライナ危機など1年で国際情勢が流動化し、問題が置き去りにされる懸念もある。

「ミャンマーに深く根付いた問題で、すぐに解決できない」。ASEAN議長国であるカンボジアのフン・セン首相は4月上旬、ミャンマー問題を担当するヘイザー国連事務総長特使との会談で強調した。

フン・セン氏は3月下旬、5つの合意に基づくASEANの特使として同国のプラク・ソコン副首相兼外相をミャンマーに派遣。国軍トップのミンアウンフライン総司令官らと会談したが、アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)などの関係者とは会えなかった。

合意では「特使がすべての関係者と面会」とうたっており、中途半端に終わった。フン・セン氏は特使が頻繁に国軍側と接触して信頼を構築することで妥協を引き出す狙いだ。5月にも特使を再派遣し、同時に自らとミンアウンフライン氏のビデオ会談も検討する。

合意を打ち出したASEAN特別首脳会議は21年2月の国軍のクーデターを受け、インドネシアやマレーシアなどが主導して同4月24日にインドネシアの首都ジャカルタで開いた。ミンアウンフライン氏も出席した会議で合意に達し、ASEAN内にはミャンマーの民政回復への期待も生まれた。

合意は①ミャンマーでの暴力停止、②関係者間の建設的な対話、③特使が対話プロセスを仲介、④人道支援、⑤特使がすべての関係者と面会――をうたった。実現したのは不十分な形での特使派遣のみだ。

合意が進まない最大の要因は国軍の非協力姿勢だ。クーデターを批判するインドネシアやマレーシアなどは国軍が23年8月までに実施するとしている総選挙の前に合意を進めて国軍と民主派を対話のテーブルに着かせ、国軍が主導する形での選挙の実施を回避したい狙いとみられる。

一方、ミンアウンフライン氏は3月の国軍記念日の演説で、民主派の挙国一致政府(NUG)などテロ組織とみなす勢力と「一切交渉しない」と言明した。NUG側も国軍打倒の「革命」を掲げ、武装抵抗を続ける。市民の間には選挙があっても「ボイコットする」との声が大勢だ。

クーデターで拘束され軟禁中のスーチー氏はなお10件以上の罪で刑事裁判にかけられ、近く汚職防止法違反の罪での判決が出る見通し。最高刑は禁錮15年で長期刑が言い渡される可能性もある。

国軍ペースで進む合意後のプロセスにインドネシアなどは焦りを募らせる。21年10月のASEAN首脳会議からはミンアウンフライン氏を排除し圧力を強めているものの、効果は出ていない。追い打ちをかけるようにウクライナ危機が試練としてのしかかった。

ASEAN各国は、米欧が経済制裁を通じて介入を強めるとミャンマーが混乱し地域の安定を損なうとみて、ASEAN主導での解決をめざした。幅広い国から5つの合意の支持を得て推進力にしてきたが、国際社会の関心はウクライナに向かっている。

インドネシアなどと連携するシンガポールのリー・シェンロン首相は19日、ニュージーランドのアーダーン首相と会談し、5つの合意の履行の重要性を確認。支持の取り付けに躍起だ。

ウクライナ危機は物価高の問題も突きつけた。インドネシアやタイでは燃料などの高騰に怒った学生や労働者らのデモが頻発し、各国は当面、内政に注力せざるを得ない可能性もある。

国際人権団体からはASEANの「失敗」を指摘する声が相次ぐ。ヒューマン・ライツ・ウォッチは22日の声明で「世界各国はASEANの空虚な文書の陰に隠れ、ミャンマーに対する行動を遅らせている」と批判した。

(ジャカルタ=地曳航也、ヤンゴン=新田裕一、ハノイ=大西智也)』