【地球コラム】ウクライナめぐる異例の情報戦

【地球コラム】ウクライナめぐる異例の情報戦
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022042300258&g=int

『◇英米、秘密を積極開示

 ロシアのウクライナ侵攻に関連した大きな特徴の一つに、激しい「情報戦」がある。印象的なのは英国や米国などによる秘密情報の積極的な開示だ。これはロシアの虚偽情報に対抗して「事実」を明らかにし、軍事行動の機先を制することを目的としている。

 通信傍受を主任務とする英国の情報機関、政府通信本部(GCHQ)のフレミング長官は3月、「真実の周知を確かなものするため」に極めて秘匿性の高い情報を戦略的に公開していることを明らかにした。その迅速さと規模は「前例がない」という。(時事通信社ロンドン支局 片山哲也)

◇正しかった暴露情報

 英米による秘密情報の開示は、侵攻に先立つ対ウクライナ国境周辺へのロシア軍の大規模な集結に始まり、それら部隊の種類、予想される侵攻のタイミングやルート、さらに侵攻を正当化するためのロシア自作自演による「偽旗作戦」の警告に至るまで多岐にわたった。

 情報機関や国防当局の評価を経たこれらの機密事項は、英米政府高官らによる報道機関へのブリーフィング、リークなどを通じ逐次明らかにされた。後の展開を見れば開示された情報が大筋で正しかったことが分かる。

 情報の積極公開は侵攻開始後も続いた。フレミングGCHQ長官は3月30日の講演で、士気の低下するロシア兵が命令に背いたり、自らの装備を破壊したりしているほか、自軍機を誤って撃墜したケースがあるなど、ロシア軍に大きな混乱が生じていることを暴露した。情報関係者は「これらの話は機密事項だった。長官が明らかにするとは本当に驚いた」と話していた。

 これらの情報は無線傍受によるものとみられ、明かせば敵方が周波数を変えたり、通信に暗号を掛けたりの対抗措置を取る可能性があった。にもかかわらず暴露したのは「ロシア側が対策を講じる余地がないことを西側は分かっていたからではないか」(同情報関係者)との見方がある。

 英米やウクライナはロシア軍の比較的安全な通信を妨害し、古いアナログ通信を使わざるを得なくした。一般の携帯電話まで使われるようになった。そうなると通信内容は筒抜けだ。ロシア軍がそうした状況を抜本的に改めることも難しくなったと判断されたからこそ、思い切った暴露が可能になったというわけだ。

◇「偽情報」対「真実」

 フレミング氏は「ますます多くの『真実』がインテリジェンス(諜報=ちょうほう)によってもたらされるようになった。プーチン(ロシア大統領)の機先を制するため、豊富な秘密情報をどれだけ迅速に明らかにするかが既にこの紛争の注目すべき特徴になっている」と語った。

 「プーチンは偽情報を道具として使っている。われわれは情報を使って疑念を暴きたい。そうすることで世界やウクライナのみならず、ロシアの人々にもウクライナで何が起きているのか知ってもらうことができる。秘密情報開示の理由はそこにある」。英政府当局者はそのように説明している。

 秘密情報活動に詳しい日本大学危機管理学部の小谷賢教授は積極的な情報開示の背景として、ロシアの偽情報工作が2014年のクリミア半島併合を容易にした点を指摘する。
「当時、欧米は情報を出し惜しみしたため、ロシア側のペースで事が運んだ。これを反省し、今回はロシアの偽情報を精査して公表し、自らも公開できるぎりぎりの範囲で正しい情報を発信し続ける戦略をとった」。

その結果、「ウクライナでは偽情報工作の効果が思ったほど上がらず、ロシアでも侵攻に対する支持が拡大しなかった」と小谷氏は見ている。

◇ロシア上層部に情報源?

英米は秘密情報をどこから得ているのだろうか。

英秘密情報部(MI6)や米中央情報局(CIA)は情報源を明かすことはない。

一般論を言うと、偵察衛星や航空機によって集められる画像データ(イミント)、通信傍受で得られる情報(シギント)、人から人へともたらされる情報(ヒューミント)など、多様な手法で情報収集は行われる。

 当然、ウクライナの情報機関との連携は欠かせない。さらに今回は、英調査報道機関ベリングキャット、衛星画像の分析などを行う米マクサー・テクノロジーなど、民間からもたらされる情報もインテリジェンスに多大な貢献をした。

 とはいえ、決定的な情報はやはり人から人にもたらされたのかもしれない。

西側情報機関に近い筋は最近、「想像だが」と断った上で、「侵攻計画に関する秘密情報の評価が詳細かつ、相当正確だったことを考えると、ロシアの上層部に有力な情報源があり、一部はそこから(英米側に)漏れてきているのでないか」と話していた。

 4月12日付のタイムズとデーリー・テレグラフの英両紙はそろって、ロシアの連邦保安局(FSB)で旧ソ連構成国を担当する「第5局」のトップを務めていたセルゲイ・ベセダ上級大将が、「CIAに情報を流していた」疑いを掛けられ、モスクワにある悪名高いレフォルトボ刑務所に収監されたようだと伝えた。 』